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花畑で

 子供同士が仲良くなるのに時間はさほど必要ではなかった。ヴァイオレットの病気をカルハの母が治したことによりヴァイオレットは病気のことを気にせず外で遊べるようになったのが大きな要因だった。


「ママが持ってた薬で病気が治ってよかったね。」

「うん。お薬があるだけで治っちゃう病気だなんて、思ったこともなかったなあ。お母さんもお薬さえあれば、助かってたのに……」


 二人はヴァイオレット達の住む村、メディー村の北東部に広がる花畑に座り、そこの花で冠や腕輪などを作って遊んでいる。とは言っても、カルハの作るものは初めてということもあってだいぶ形が崩れているため、慣れているヴァイオレットがカルハに教えてあげながら編んでいる。


「そうだね。もっとお薬が簡単に手に入ることができたら、人が死ぬことも減るのかもしれないね。」


 ヴァイオレットのお母さんの話で二人がしんみりとなっている所にドタバタと複数人が走ってくる。


「おいカルハ!そんな病気持ちと一緒にいたら、お前も病気になるぞ!」


 リーダー格の少年がカルハを見下ろしてそう言えば、カルハは眉間に皺を寄せて立ち上がる。もちろん身長はこの中で一番低いが、彼女には関係ない。


「え、ヴァイオレットはもう病気治ったんだよ?そんなことも知らないの?」

「そ、そんなことわかんねえだろっ!カルハの父ちゃんや母ちゃんにうつったらどうするんだよ!」


 取り巻きの少年がしたり顔でそう言うのを聞き流していたカルハは、小鳥が飛んでいくのを見て、平和だなあ、と思っていた。カルハの意識が別の所にあることに気がついたヴァイオレットは、カルハの服を引っ張って意識を戻らせる。

 そうしてカルハは、どうだ言うことがないだろうといった風な顔で前に立っている少年に、トドメの一言を言い放つ。


「だってヴァイオレットの病気はもともとうつらない病気なんだから、関係ないんだよ?」

「えっ」


 驚いた顔をする少年達には気をとめず、さらに話し続けるカルハ。


「ヴァイオレットの病気は、遺伝性のもので、私達の体内にある魔力が一定以上たまって体に悪影響を及ぼすものなんだよ。

 普段、魔力っていうものは、魔法使いの人みたいに魔法を使うことにももちろん使うけど、普段は無意識のうちに流れ出てるものなの。たいていの人は魔力を持ってても地味な魔法とかしか使えなかったり、そもそも魔法の出し方がわかってない場合がほとんどだけどね。

 ごく稀に魔力自体を持たない人もいるけど、その人達はただ単に魔法が使えないだけだね。

 その魔力がたまってただけだから、ヴァイオレットはそもそも病気でもなんでもないの。わかった?」


 カルハの説明を聞く少年達はみんな口を開けてはぽかんとしている。そもそも、ヴァイオレット本人もカルハの話している内容がわからないので仕方のないことだ。


「意味分かんねー!チビのくせに偉そうにするんじゃねえ!」


 カルハに突っかかっていく少年の胸をドンと押して突き放したカルハはますます眉間の皺を深くして少年に言葉を放つ。金髪の髪が風で逆立ち、怒った獅子のような様子に、カルハよりも年上の少年達は恐怖を覚えた。


「あんた達の夢ってなんだっけ?騎士様だよね?それなのに体が弱って心が傷ついてる女の子をいじめて。そんな人達がかっこいい騎士様になれるわけない!!」

「お前みたいなチビに何がわかるんだよっ!!」


 痛い所を突かれたからか、少年は今までよりもきつい口調でカルハに怒鳴りつけ、兄弟の少年達がオロオロとするのをよそにカルハを殴りかかろうとするが。

 カルハは少年の脇下にすばやく身をかがめて潜り込み、少年の振りきった腕を掴んで花畑の上に投げ飛ばす。色とりどりの小さな花弁がひらひらと舞う中、地面に投げつけられた少年は体を動かせないようだった。


「に、逃げろ!!!」


 動かせない少年を両脇で支え、慌てて逃げ出す少年達をねめつけるカルハは腕をくんで高らかに声をかける。


「逃げたって、ママ達にちゃんと言っとくからね!!!」


 そんなカルハの声は、逃げることに必死な彼らには、聞こえていないようだったが。カルハは息を吐いてヴァイオレットの横に座る。ヴァイオレットはすでに2つの花冠を作り終えていて、カルハの頭にそのうちの1つを乗せる。


「お疲れ様。私のために、ありがとうね。」

「ううん。ヴァイオレットこそ、これありがとう。」


 頭の上の冠を指して、にっこりと笑う。


「カルハかっこ良かったよ。どうしてあんなことができるの?」


 女の子で、しかも自分よりも小さいカルハがいじめっ子達を蹴散らしたのだから、気になるのも当然だろう。


「パパとママがダンジョンに行っている間、自分の身を守らなきゃダメだったからかなあ?ダンジョン付近の街ってすごくキラキラして生き生きしてるけど、治安も悪いんだ。

 だから、パパやママの友達が世話をしてくれながら教えてくれたの。お前の父親は仲間も多いが敵も多いからなって言ってね。」

「そうなのねえ。私、この村から出たことがないの。他の街へ行ったことのあるカルハが羨ましいわ。」


 村の一部の商人や、一年に3度の王都へ特産品・村人から集めた税の3割を収めに村長が行く以外、ほとんど外部との交流はないに等しい。カルハ達のような移住してくる人や旅人はとても珍しい存在だ。


「でもさ、今日は私があの子達を追い払ったけど、今までどうしてたの?もしかして殴られた!?」


 目を再び釣り上げるカルハだったが、


「大丈夫。今はおじさんについて一緒に商いの勉強をするために隣町に行っているけれど、仲のいい男の子がいつも助けてくれていたの。」


 顔をうつむけて目を半分閉じたヴァイオレットを見て、カルハはあぐらをかきながら右肘を膝につけ、右手で顎を支えながら左手でヴァイオレットからもらった花冠を回し始める。


「ふ〜ん?ヴァイオレットはその子のことが好きみたいだね?」

「ええっ?どうしてそうなるの!」

「私も初めて好きになった人は、攫われた私を助けてくれたヒーローみたいな人だよ。パパが言うには、私のお兄ちゃんらしいけど、顔を見ることができなくて結局どんな人かわからないんだ。」


 うっとりとした顔でヴァイオレットとカルハはのほほんとしていたが、花畑の後ろに鬱蒼と茂る木々から金色の髪の毛が日光を反射して進んでくるのを見つけたヴァイオレットがカルハに知らせる。


「あれ、カルハのお母さんじゃない?」


 カルハはその言葉に反応するとバッと母親の姿を確認すると、


「バイバイ。今日は、これ、ありがとね。」


 顔をヴァイオレットの耳に寄せてこそこそと小声でヴァイオレットに話し終えると、母親に向かってドタドタと走りだす。走ってきたカルハを受け止めた母親は、優しい手つきでカルハの髪に付着した花びらを取りながら、森のそばにある彼女達の家へと帰っていく。


「ママ〜!!おなかすいた〜!今日のごはんってなあに?」

「パパが捕ってきた兎肉を料理したものよ。」

「やった!!うっさぎ!うっさぎ!」


 花畑に一人になったヴァイオレットが森に消えていくカルハ達を見送っていると、パカパカと馬の足音が聞こてきた。ヴァイオレットが足音のする方向を見れば、背中にたくさんの荷物を乗せた馬をひく黒髪の少年がヴァイオレットの視線に気づき手を振る。

 彼女の前まで来た少年は、馬に乗せていた荷物をヴァイオレットの横に全ておろすと馬の鼻面を優しく2度叩く。そうすると、賢い馬は花畑の下に広がる草原の草をもさりもさりとはみはじめた。


「お帰り、ローラン。今回は長かったね。村を出て1ヵ月ぐらい?」


 少年、ローランはそうだね。と言って先ほどまでカルハが座っていた場所に片膝を立てて座る。平和なメディー村の村人では珍しく護身用の剣を腰に帯びている。旅の道中のためだろうか。それにしてはローランの体つきはあまり逞しいと言えるものではなく、線の細い体だ。


「ただいま、ヴィオ。そうだな、1ヵ月ぐらいかな。でもまだまだ足りないぐらいだ。父さんにひっついて勉強しても覚えられていないことの方が多いし、騎士様の姿も仕事に追われてほとんど見れなかったんだ。」


 年頃の少年達にとって、悪ガキであろうがそうでなかろうが、国を護る騎士団はとても人気であるようで、ローランも騎士に憧れている一人らしい。


「やっぱり、街では茶色い騎士服を着た騎士様が一番多いの?」


 ヴァイオレットがそう言うと、ローランは目をキラキラさせて話し始める。騎士が好きな少年の中でも、よほど騎士が好きな部類の少年の一人と見える。


「そうだな!その第二師団の騎士様に挨拶をしたら、『お父さんを手伝って偉いな』って褒めてもらえたんだ!」

「よかったね。第二師団ってなに?」

「第二師団っていうのは、街を護る騎士様達が配属する所さ。ヴィオがさっき言ってた、茶色い騎士服を着た騎士様のことだよ。」


 ヴァイオレットの疑問にも懇切丁寧に説明をする。そんなローランの嬉々とした表情を柔らかい顔で見ながら彼の説明を聞くヴァイオレットの頬はほんわりと薄桃色に染まっている。


「本当にローランは騎士様のことが好きなのね。」

「そうなんだ。でも、騎士様はかっこ良いんだけど仕事が忙しすぎて、うちの兄貴も家に帰ってくるのが年に1回ぐらいだろ?

 それに一番上のカール兄貴が騎士様で二番目のコア兄貴は隣町のパン屋で修行中だから、俺が父さんの仕事を継がないとダメだから、騎士様は見てるだけさ。」


 そう言ってちょっと悲しそうな顔をしたローランの頬に、ヴァイオレットはそっと唇をつける。驚いたローランがヴァイオレットの深い緑色の目を見れば、ヴァイオレットはくすぐったそうに笑った。


「私の夢はローランのお嫁さんになることだよ。騎士様にはなれなくたって、私にはローランが一番かっこいい。」

「ありがとう。ヴィオは可愛いな。」


 ローランも、お返しといった風にヴァイオレットの頬にキスをする。


 実はこの二人、ローランが隣町に行商に行く少し前から付き合い始めた恋人同士だったりする。

 二人の初々しい恋人っぷりは見ている側からすると可愛らしいの一言に尽きる。


「そういえば、コアさんの結婚式がもうすぐらしいわね。」

「うん。そのためにコア兄貴と一緒に街から帰ってきたんだ。」

「また賑やかになりそうね。」


 5人兄弟のローラン達だが、普段は2人の兄がそれぞれの仕事の都合上、不在のことが多いため、ローランの双子の弟達は2人の兄の帰還を待ち望んでいる。


「そうだなあ。下のチビっ子2人が喜びそうだ。

 父さんとコア兄貴が明日、"リング"をばあやに作ってもらうって言ってたぞ。ばあやの"リング"作り、見に行かないか?」

「行く!」


 そう言って思わず手に持っていた花冠を落としたヴァイオレットの赤茶色の頭の上に花冠を乗せたローランはもう一度、今度はヴァイオレットの唇にキスをして笑う。


「ヴィオはほんとに可愛いな。もう遅いし、家に帰ろう。じゃあ明日、ばあやの家で会おう。」


 顔を真っ赤にさせながらもこくりと頷いたヴァイオレットは、ローランに手を振って家に帰っていく。


「あ、お土産、渡し忘れてたな。まあ、明日でいいか。」


 彼女の背中が見えなくなるまでヴァイオレットを見送ったローランは乗ってきた馬を指笛で呼ぶと、花々の上に置いていた荷物を再び馬で背中に乗せて、彼もまた彼の家に帰っていった。

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