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海上任務

ディーノが昼食を食べ終えると、第四師団の本部を出てこれから一年間下宿をさせてもらう騎士たちのもとに挨拶をしに行くことになった。バディと教官の三人で行動をすることになったので、久しぶりにディーノとアウローラ、ヴァイオレットの三人で街を歩く。バディたちは田舎者丸出しで露店に興味津々だ。ヴァイオレットは興味なさげな顔をしてるが、隣でアウローラが歓声を上げるたびにちらちらとそちらを見ている。まずはアウローラが世話になる騎士の元を訪れた。ちょうどその騎士は非番で、直接家に向かうと家先の掃除をしているところだった。三人で挨拶をすると、手ずからアウローラの荷物を持って笑顔でアウローラを歓迎してくれた。彼はこれからアウローラに彼の家の中を案内するようで、アウローラとはそこで別れることになった。


「あの、ディーノ教官。」

「なんだ?何か買うか?」


 道の両側には露店がたくさんある。だが、王都の小奇麗に整備されたものではなく、どちらかというとごちゃごちゃとしている。中にはそもそも建物ですらなく、布を地面に敷いて布の上で物を販売しているところもあった。


「いえ、いいです。」

「そうか!では、何を話してみたいんだ?」

「私の魔力のことです。」


 あの水晶玉に触れてヴァイオレットが生み出した炎を見た騎士が、彼女は平民なのかと問うてきたことがどうにも引っ掛かるということをディーノに話すと、ディーノはにかりと笑った。


「なに、心配することはない!単に平民で魔力が多いことが珍しいというだけだ!」

「そうなんですか?」

「うむ!オスナットやフランクのように貴族をどちらかか、両方親に持つ子供は魔力が多いことが普通だ。もともと王侯貴族といった者たちは魔力の多い一族で婚姻を繰り返しているからな!だが、平民となるとそうでもない。魔力が少ない者が大多数というのが現状だな!人間とは違う種族であればまた話は別になるが。」

「そうなんですか。では、異種族の方たちってどんな人がいるのですか?」


 ディーノは荷を運んでいる男を指さす。彼は真っ赤な肌と額に角を持っていた。


「あの者は鬼一族の者だ!彼らはとても力が強い!魔力は他の種族に比べると少ないようだがな!腕相撲や組手をすると楽しいぞ!」


 それはディーノが戦闘馬鹿だからではないか、とヴァイオレットは少し思う。今、彼女の足はどんどんと港の方向へ向かっている。海辺に住んでいる騎士の所でお世話になるのかな、とも彼女は頭の片隅で考えた。


 次にディーノが指を向けたのは薄青の髪でえらが首元にある青年だった。彼は魚がいっぱいに詰まった袋を持って商人と商談をしている。


「彼は魚人族の者だ!泳ぎがとても速いぞ!コブノ-殿の奥方もそうだな!」


 ヴァイオレットはコブノ-の奥さんの顔を思い浮かべる。あまり話したことはないが、目が合うと優しく笑いかけてくれる人だった。思い出しているうちに王都にいるカルハやコブノ-達に思わず会いたくなってしまい少し悲しくなってしまったので慌てて首を振る。


 そんな彼女の様子は他所に、ディーノの異種族説明は続く。


「あの者は竜族だ!彼らは人間と竜の両方になれるぞ!人間と竜の間に産まれた者は局部的に鱗が肌にでるようだな!竜族の者が人の姿の時はそうではないのにな!不思議だ!ここにはいないようだが、あとは狼一族と魔族がいるぞ!狼の一族は狼と人の姿になれる!身軽で足が速く、耳と鼻がとてもいいぞ!頭に狼の耳が生えている!魔族は魔力がとても多いぞ!鬼とは違って少し曲がった角が額にあるぞ!」


 勢いよく話すディーノの話し方は少々疲れる。そうこうするうちに港についた二人は道を横に曲がる。


「異種族の者や人と異種族の間に産まれた者は髪色が特殊だ!」

「赤や青、といいた風に。そうですよね?」

「うむ!おお!ここだ!着いたぞ!」


 ようやく足を止めた先は立派な豪邸だった。たくさんの人が家と道路を行き来しせわしない。その様子にヴァイオレットは目を剥いた。


「え、ここ、ですか?」

「うむ!俺の実家だ!」

「!?」


 なんと、ディーノは豪商の長男だった。優秀な妹や弟たちに家を任せて家を飛び出したらしい。さっそく客間に案内され紅茶を頂きながら、現当主でディーノの妹である婦人の話を聞く。


「商売をするより兄さんは体を動かすのが好きだったから、両親も諦めてたわ。」

「ははは!賢い妹たちがいて俺は幸せだ!」


 そしてふかふかのベットが用意された部屋に案内される。今日から一年ここで過ごすのだ。


「ディーノ教官。」


 ヴァイオレットがこれから使う部屋まで案内してくれたディーノは屋敷の違う部屋へ行こうとヴァイオレットに背を向けていたが、ヴァイオレットの所まで戻ってきてくれた。


「どうした?トイレなら右の角にあるぞ?」

「いえ、そうではなく。私の魔力は魔法として使えるのでしょうか?」


 できることなら使って戦闘のスタイルの幅を広げておきたかった。


「もちろんだ!だが魔法の全ての種類を扱えるわけではないぞ。扱えても弱いものになるだけだ。全ての魔法を強力に使える者はなかなかいないぞ!そうであれば騎士団ではなく王立魔法研究所に行った方がいいだろうな!」


 若様、会談中です。お静かに。通りかかった使用人に注意をされてディーノはすまない!と大声で謝っている。注意の意味がない。


「俺は寝る前に庭で剣を振っている。庭に来れば魔法を教えてやるぞ!」

「ありがとうございます。鍛錬中にすみません。よろしくお願いします。」


 その晩から毎晩男の大声が響き、近所迷惑になったのはまた別の話だ。


❁--------


ガザリアに到着した一行は、翌日から今までの第二師団とはまた違った厳しい鍛錬を受けることになった。まず早朝から砂浜で走り込み、その次には腹筋腕立て伏せや剣の鍛錬、などなど。それが終われば海で泳ぐ。もちろんキャッキャウフフと泳ぐのではない。ごつい筋肉に挟まれて猛スピードで遠距離を泳ぐのだ。幸いヴァイオレットたち4人の中で泳げない者はいなかったが、他の見習い騎士には泳げない者も当然おり、そんな者達は海岸で泳ぎの手ほどきをうけている。泳げるとはいうもののそこまで上手くはないヴァイオレットやアウローラはだいぶ遅れつつも泳ぎきる。ゴール付近まで泳げば、先に到着していたムキムキの騎士達が応援してくれる。ディーノももちろんそのうちの一人だ。あとは小舟の操作を覚えたり街の警護をする。


 そうこうして三カ月、ガザリアに集まった300人の見習い騎士のうち、実力があるとみなされた100人が三か月後、実際に船を警護するという実務を演習することになった。ヴァイオレットたちもその中に含まれている。


 ヴァイオレットはそのことを二人の教官から知らされたその日の夜、カルハに向けて手紙を書いた。船の警護に選ばれて嬉しいことや街や仲間たちの様子など。一ヶ月に一度、二人の少女の手紙を運ぶのはサラルの門にいた赤い鳥だ。先日カルハからの手紙を運んできた赤い色の鳥は、窓にとまって早く手紙を書けとでもいうようにヴァイオレットをつついてくる。赤い鳥は小鳥から大型の鳥に成長しており、鷹のような猛禽類特有の凛々しい容姿だ。


「待たせてごめん。カルハのところまでよろしく。」


 鳥の足に手紙を紐でくくりつけると、鳥は窓から大きな羽を広げ羽ばたいていった。たちまち鳥の姿は見えなくなる。


「そうだ、ディーノ教官の所へ行かなくちゃ。」


 その夜もディーノに励まされながら魔法を習う。初めの日は火さえ出せなかったヴァイオレットだったが、今では手のひらほどの火を作れるようになっていた。ちなみに休憩中にディーノから聞いた話によると、アウローラの魔力の特徴は風なのだとか。上達すれば空も飛べるらしい。少し羨ましい。


 そうして月日は流れ、ついに船を警護する日がやって来た。4人が騎士達に混じって警護するのは大型船だ。なんでも、隣国のヨーウィ帝国に魔力が少なくても使える魔法の絨毯などを輸出し、機械じかけの魔力を全く使わない製品を輸入する船団のメインの船なんだとか。


「ヨーウィの者達は魔力が少ないから科学というもので発展してきた国なのだ。最近は竜に襲われ国政がボロボロのようであるがな。」

「オスナット、よく知っているね。ま、そのお陰と言っちゃなんだけど、海賊が増えて大変なんだ。今回出く合わさないことを祈るが、気を引き締めるように。」

「「はい!!」」


 フランクの言葉に威勢よく返事をした見習い騎士たちだったが、これから出航する船に乗った周囲の騎士や商人達が祈る様子を見て首を傾げた。


「あれはだな!海の主リルに祈っているのだ!安全に航海できますようにとな!リルは巨大な海蛇の姿をしていると信じられていて、この辺りの街ではよくその姿が銅像やレリーフにされ、多くの人に信仰されているぞ!」

「滅多に人前に出ないだけで魚人族の長なんだけどね。」


 しばらく話しているうちに船が出航する。多くの人が波際まで駆け寄り手を振って送り出してくれる。そうして各地の港によりながら大した事件もなく辿り着いたヨーウィ帝国の一番キオワ王国に近い港で、荷を下ろして再び受け取った荷を積む。ヨーウィの港を出て祖国に帰る際、甲板で海風にあたっていたライウスはぽつりと呟いた。


「この国は、もう駄目だな。」


 王都から遠く離れた港街だというのに、街の人々の顔には生気がない。ぐったりとしてしまっていた。隣国が揺れ動けば、必ずキオワ王国にも影響は出てくる。難民や盗賊が発生し、様々な援助も行わなければならない。それだけ騎士も必要になる。早く騎士にならなければ。その思いがライウスの中で殊更強くなっていた。


 そうして帰りの航路も無事に終わりそうで、もうすぐガザリアだ。今は小さな岩だらけの無人島が群集している海域を航海中だ。太陽がじりじりと照り付けるため、とても暑い。多くの騎士は青い上着やその下に着用するシャツを脱ぎ、上半身を裸にしていたが、ヴァイオレットはそうもいかない。潮風にあたって気を紛らわせていた彼女だったが。ふ、と岩陰から出てきた一隻の小舟に目がとまる。商人達だと証明する帆もあげず、ぐんぐんと近づいてくる。しかも、初めは一隻だったのが岩陰から蜘蛛の子のようにわらわらと出てくる。


「ディーノ教官!あれって…!!」


 後ろで海に背を向けフランクと話していたディーノは、ヴァイオレットの切迫した声に振り返りヴァイオレットの横に並ぶ。朗らかな顔を一転させた彼は、珍しく険しい声で言い放つ。


「海賊だ。」

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