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大港都市ガザリア

 数日間歩き続けると、それまでは道なき道だったのがある地点を境にきちんと舗装された街道へと変化した。ヴァイオレットがふ、と前を見ると『ようこそ!ガザリアへ!』と書かれた看板と共に、立派な門がそびえ立っている。


「ねえねえ!僕達、もしかしてガザリアに着いたの!?」


 アウローラは馬上で背伸びをして街の様子を少しでも見ようとしている。


「ははは!アウローラよ!落ち着くといいぞ!これから検問を受けねばならんからな!」

「ああ、そうでした。ここの検問って人がいっぱいだろうから、時間がかかりそうだなあ…」


 オスナットからガザリアは三大伯爵家の治める土地であり、その大きな港を拠点に栄える貿易都市だと聞いていたアウローラは、街に入る時に並ぶことになるであろう長い列を予想してしょんぼりとしている。


 騎士になれば、騎士専用の検問を受ける場所に行けばよいためスムーズに終わるのだが、彼らはまだ見習い騎士であるのでそちらは使えない。よって長い列に並ばざるを得ないのだ。


「朝だから特に混んでいるかもしれないが、検問を終えて門をくぐればきっと驚くことだろう。」


 だからそう落ち込むな、オスナットはアウローラを励ます。アウローラはまたもわくわくという顔になった。


「えっ!何か驚くようなことがあるの!?なになに?黙ってないでさ、教えてくれよ~!」


 アウローラが馬ごしにオスナットの服をゆさゆさとゆするため、オスナットは馬から落ちそうになる。


「おい!や、やめろ!!」


 ゆっくりとはいえ走っている馬から落ちるのは避けたいオスナットは、アウローラを制止するが時すでに遅く。ずるりとオスナットの体が傾き馬の上から落ちいくのが、隣でオスナットをゆすっていたアウローラと、二人の後ろをライウスと走っていたヴァイオレットの目にスローモーションで見えた。と同時にす、とヴァイオレットの視界を黒いものが横切る。何か、とヴァイオレットが反射的に目で追うと、オスナットの横で彼の体を支えて馬上に戻しているライウスだった。先ほどの黒いものはライウスの黒髪だとわかり、ヴァイオレットは先ほど一瞬で尖らせた警戒をほどいた。


「大丈夫か。」


 落馬するのを助けられるとは思ってもいなかったのだろう。オスナットは少し驚いた様子でライウスの顔を見ている。


「ああ、お前のお陰で助かった。感謝をする。」

「バディだからな。怪我をされては剣の練習相手が一人減る。」


 ライウスがそう言い終えると、おずおずと二人の様子を見ていたアウローラがオスナットに謝る。


「ごめん。僕が揺さぶりすぎたよ。許してくれる?」

「もちろんだ。許してやろう。だが、次からはあまり強く引っ張るなよ?」


 オスナットのえっへんと偉そうな部分は死ぬまで変わりそうもないな、と思いながらヴァイオレットは後ろから見習い騎士仲間三人を見ていると、ついに検問をする列の最後尾に到着した。フランクが見習い騎士たちに今一度これからの予定を説明する。


「ラザリアでは第四師団の研修を1年間行う。第四師団は海上と街の両方を守っている部隊だ。もちろん船に乗って任務をこなすこともある。騎士達には普段と同じく、敬意をもって接するように。」

「「はい!」」


 長い列で待つ間、大勢の商人や旅行者たちに声をかけられる。どれも、4人を応援する温かい言葉ばかりだ。ようやく列の先頭に出ると、深い紺の騎士服を着た騎士二人が椅子に座っていた。彼らと手際よく手続きを済ませた教官二人は最後に見習い騎士達に前に出るよう促した。言われた通りにした4人の前に水晶玉が置かれる。ヴァイオレットとアウローラは困惑した面持ちで教官たちを見たが、ライウスとオスナットは慣れた様子で玉に手をかざした。するとライウスの玉の内部には青白い稲妻が激しく飛び交い、オスナットのものには金色の粉のようなものがふわふわと漂った。


「うわあ!なんですか、これ!さっきまでは真っ白だったのに!!」


 驚いて横から玉をのぞきこむアウローラをディーノはわははと笑う。


「それはだな!街にやって来た者の魔力を測定するものだ!魔力の量と特性が一目でわかるようになっている!」


 ディーノに続けてフランクが話す。


「ライウスは雷魔法、オスナットは光魔法のようだね。これは魔力が多いほどはっきりと輝くようになっている仕組みだ。」

「つまり、二人とも魔力の量が多いということですか?」

「そういうことだ。さあ、ヴァイオレットも触ってごらん。」


 フランクに促され、ヴァイオレットはそっと右手を玉に乗せた。すると紅の炎が玉一面に広がり玉の内部で激しくうごめいた。


「君は平民だったね?」

「そうです。何か問題でもあるのでしょうか?」


 ヴァイオレットの不安げな顔に、心配することはないと騎士は言う。


「いいや、なんでもない。君の検査はもう終わりだ。門を通ってもいいよ。」


 ライウスとオスナットはすでに門をくぐったのか彼らの姿はなく、フランクは玉を触って驚いているアウローラに少し呆れた笑いを浮かべて付き添っている。


「ディーノが門の近くにいるだろうから、先に行ってくれ。私達は後で行く。」


 これのせいでね、とウインクをしてアウローラを指さしたフランクに笑い返したヴァイオレットは、なだらかな坂になっている門までの道を歩く。坂の頂上にある門の真下に着いた時、ヴァイオレットは目の前の景色に目を奪われた。日の光に白く輝く家々の向こうに、どこまでも続く青い水面が広がっている。日の光できらきらと輝く水面の上で、船がたくさん漂泊している港には、遠く離れているここからでも大勢の人で埋め尽くされていた。


 思わず立ち止まって景色を眺めていたヴァイオレットの腕を、突然横に引く者がいた。何、とよろけながら横を見るとライウスだった。


「商人達の荷物を運ぶ邪魔になる。あそこのベンチに座って見よう。」


 なるほど、と納得したヴァイオレットはライウスに腕をひかれるままベンチに座る。ライウスは、というと、彼もこの風景が好きなのか、ヴァイオレットの横に腰かけた。しばらく無言で景色を眺めていた二人だったが、ヴァイオレットが慌てた様子で立ち上がった。その様子にライウスは怪訝そうな顔をする。


「どうした。」

「ディーノ教官と合流しないといけなかったのに、すっかり忘れていたわ。急いで探さないと!」


 フランクからディーノは門の側にいるだろうと聞いていたヴァイオレットは周囲を見渡すが、彼女の探す金髪の快漢は見つからない。慌てて歩き出そうとする彼女の手をライウスはさっとつかむ。


「何かしら?私、教官を探さないとけないのだけれど。」


 少し冷たい彼女の口調に臆することもなくライウスは自然体のままでいた。


「いいから座れ。ディーノ教官はオスナットを連れて第四師団の本部に行った。俺達はフランク教官に連れて行ってもらえばいい。」


 その言葉によせていた眉を和らげて再び椅子に座ったヴァイオレットは、海を眺めながらライウスと話す。


「それなら先にそう言ってくれたらよかったのに。慌てる必要なかったじゃない。」

「言おうとしていたところだ。」

「どうして教官と一緒に第四師団の本部に行かなかったの?」

「もう少しここで景色を見ていたいと言ったら許可してくれた。」


 会話も終わり、二人は無言になった。王都とは異なった怒号ともとれそうな街の活気あふれる掛け声や潮の匂いに二人は満たされていた。ふわりと海の匂いのする潮風が吹く。


「いい匂いね。貴方はこの街、初めてじゃないんでしょう?」

「父について何度か来たことがあるが、この街は生まれた街の次に好きだ。」


 ライウスの言葉に私もそうね、と言おうとしたヴァイオレットだったが、あることに気が付いてはたとライウスの顔を見つめた。ヴァイオレットに見つめられていることに気付き、ライウスもヴァイオレットを見る。


「ねえ。」

「なんだ。」


 ヴァイオレットの真剣な声音に、ライウスの顔も真面目なものに変わる。


「いい加減、手を離してくれないかしら?」

「ああ、悪い。」


 ライウスがぱっと手を離したところで、門から歓声が聞こえる。


「フランク教官!見て下さいよ!すごい!ほんとすごい!!」


 門の下で叫ぶアウローラはここ最近叫びっぱなしのように見える。彼の後ろから少し遅れてやって来たフランクは少し疲れているようだった。


「そうだな。この街の景色は格別だ。それにしてもアウローラ、少し落ち着きなさい。私がしんどい。」


 アウローラの興奮を抑えることはできなかったが、椅子に座っているヴァイオレットとライウスに気付いたフランクはアウローラを引きずって二人と合流する。


「どうしてここにいるんだ?ディーノと先に行っていたのでは?」


 細かい説明をライウスが終えると、フランクは眉間に手をあて小さく唸り声をあげた。


「奴の出身地だからな、ここは。警邏隊と同様に馴染みと会うのが楽しみで先走ったんだろう。我がバディながら、全く困ったものだ。下手をすると本当に教官なのか疑わしくなるぞ。」


 最後の方の言葉はとても小さい声だったためヴァイオレット以外の二人には聞き取れなかったようで、二人の見習い騎士は首を傾げていた。が、ヴァイオレットはあの囁くように話すサラルの言葉を聞き取ることに慣れていたのでフランクの言葉をはっきりと聞き取れたが、あえて聞き流した。


「さて、本部に行くか。人が多いからはぐれないようにしなさい。」


 なるほど、朝だというのに人で道があふれている。フランクとライウスは人混みをなんなく歩いているが、人混みに慣れない田舎出の見習い騎士二人は重そうな荷物を肩に担ぐがたいのいい男たちに何度もぶつかっては謝りをくりかえしている。


「あれが第四師団本部だ。もう少しの辛抱だ。頑張りなさい。」


 二人のあまりの様子に、フランクは眉を下げて励ましてくる。そういえば、フランクはよく励ましの声をかけるが、ディーノはあまりそういうものはない気がする。いろいろなところで正反対な教官たちだ。


 王都にある第一師団の本部は白を基調とした荘厳な雰囲気を感じさせる建物だったが、こちらの第四師団は少し様子が違う。他の家々と同じく白い壁に赤い屋根だが、壁には青い砂でうずの模様が描かれてあったり貝殻が埋め込まれてあったりとどこか親しみやすい建築物である。内装・外装に関わらず凝った装飾がなされているのは第一師団のものと引けをとらないが、こちらは大胆で派手なものが多いように見受けられる。建物の立つ地域や師団の気風によって変わるものなのね、とヴァイオレットは考える。


「おお!お前たち!遅かったな!!!朝飯が無くなってしまうぞ!!!」


 大声の元を見ると、パンを口いっぱいにむさぼるディーノがいた。オスナットといえば、ディーノの隣に座っている。他の青い騎士服を着た騎士達にやれもっと食え、やれ体力ないだろチビだのさんざんな言われようだ。


「私達は明日から任務だろう。今日ぐらいゆっくり飯を食わせてやれ。」


 無理やり食べ物を詰め込まされたオスナットは今にも吐きそうだ。昨日まで不味い飯を食べていたとしても無理なものは無理なのだ。


「はあ~!?なんだ、明日からなのかよ!すげえ楽しみにしてたんだけどな!まあいいや!明日からチビども、しごいてやるから期待しとけよ!!」

「はい!!頑張ります!」

「おっ!いい返事だ!お前、名前は?」

「アウローラです!」


 警邏隊の時と変わらず意気込みたっぷりのアウローラは、すっかり第四師団の騎士に覚えられまたもかわいがられている。対してオスナットは吐き気に耐えられずに吐いてしまった。辛そうなオスナットの背中をヴァイオレットがさすろうとするが、オスナットに手を横に振って拒まれヴァイオレットは怪訝そうな表情になった。


「しんどい時は吐き切れば楽になると思うけれど。」

「そうだろうが、女性にこのような失態は見せたくないのだ。だから、俺を構わなくてもいいぞ。」


 きりっとした顔で言い切ったオスナットだが吐いたブツの残りが口の端についているし、うっ、と呻いて吐きそうになっているのはなんというか、もう、残念だ。


「こんなものよりもっと耐えられないものを見たから大丈夫。いいから楽な姿勢にして。」

「お前のような田舎娘がか?考えられんな。」


 結局ヴァイオレットに背中をさすってもらいながらもよわよわしい声で反論したオスナットだったが、ヴァイオレットは静かな口調で答える。


「私の村、盗賊に襲われたでしょう?その時に目の前でたくさんの人が殺されたし、父さんも酷い死に方をしたの。だから、そういう言い方はやめてほしいわ。」


 はっとした顔になったオスナットは眉を下げる。


「す、すまない。触れてはならないことだったな。これからは気を付ける。」


 そうして再び彼はえずく。


「とりあえず今は早く吐き切ってちょうだい。」


 彼女に何も言えないオスナットだった。

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