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出会い

 旅行鞄を背負った家族が村で一番大きい家につくと、家の中からは怒鳴り声が響いてきた。


「何いっ!?お前達がヴァイオレットを虐めているだと!!きちんと謝りなさい!!」

「だってこいつは病気持ちで」


 少年の声変わりをする前特有の甲高い声が反論するが、それは怒っている男の野太い声が大きくなるのを助けただけだった。


「病気だから何だというのだ!ヴァイオレットは同じ病気でお母さんを亡くしているのだぞ!お母さんの墓に供える花を摘んでいたというのに、それを奪い取るとはどういうことだ!!お前達はお母さんを亡くしたヴァイオレットを可哀想だとは思えないような子供か!?儂はそのように育ててきた覚えはないぞっ!」


 一家の両親は顔を見合わせた。どうにもこれは、タイミングを間違えたようだな、と。

 だが、彼らの娘は違った。テテテテテ、と村長の家の扉まで数段ある石段を登り、勢い良く扉を開け放つ。勢いが良すぎて扉が壁に当たってキィィと音を鳴らす。突然現れた子供に、家の中にいた人間全員の視線が集まった。


「こんにちはっ!!わたしの名前はっ、カルハですっ!これからここにパパとママと一緒に住むんだよ!よろしくね!!」


 自己紹介を言い終わり、ドヤアっとしている少女、カルハに慌てて追いついた両親が家の中にいたふくよかな男性に頭を下げる。


「お忙しい所、娘がお騒がせしてすみません。お忙しいようなのでまた後で伺わせてもらいます。失礼いたします。」


 母親のその言葉にふくよかな男性は太いが柔らかい声でいえいえいえ!と言いながら手を振って一家を引き止める。


「気にしないでください。うちの坊主共が女の子に悪さをしましてなあ。少々説教をしていただけです。坊主共の母親達が迎えに来たようなので、こちらにお掛け下さい。ちと待って下さいねえ。」

「お心遣いありがとう御座います。」


 男性がそう言って間もなく少年達の母親達が迎えに来て、少年達を引き取っていく。あんたまたそんなことして!と小言を言われながら頭を叩かれている子供が大半だった。


「お待たせしました。うちで村の子供に勉学を教えておりましてなあ。大した学もないのですが、字や計算といったものを教えているんですよ。

 まあ、その話はよろしいでしょう。私がこの村で村長をやっている者です。貴方は先月お手紙をくれた、マルシ殿ですな?」

「ええ。」

「いやはや、生きているうちに会えるとは思ってもいませなんだ。これからよろしくお願いします。」

「こちらこそ。家は……」


 両親が村長と話をしている間、カルハは部屋の隅で座っている少女を見つけ、走り寄る。近づいてきたカルハにぎょっとした少女だったが、カルハはそんな少女にお構いなく話しかける。


「こんにちは!わたしカルハ!おねえちゃん、さっきお花がいーっぱい咲いてた所にいたよね?なんていうお名前?」


 こてん、と首を傾げて少女の顔をのぞきこむ。少女の深い緑色の目が長い前髪の奥で素早く瞬く。


「ヴァ、ヴァイオレット。」

「ヴァヴァイオレット?」

「ううん、ヴァイオレットっていう名前。」

「そっかー!ヴァイオレットかー!よろしくね!ヴァイオレット!」


 ブンブンとヴァイオレットの手を掴んで振るカルハにヴァイオレットは戸惑い気味だ。


「ねーねー!一緒に遊ぼうよ!」


 そう言うカルハの手をぎゅっと握り、ヴァイオレットは眉毛を下げて悲しそうな顔をする。んん?どうしたの?と言うカルハに対し、小声でヴァイオレットは答える。


「……えっと……私、病気だから遊べないの。」


 その答えにカルハは意外と明るい声で反論する。よしよしとヴァイオレットの赤茶色の髪の毛を撫でながら。

 もちろん背が足りないのでヴァイオレットの太ももの上に立った状態ではあるが。


「びょうき?じゃあ、ママに診てもらうといいよ!!ねっ?ママ!」

「そうね。簡単なものなら治せますよ?ヴァイオレットちゃん。」


 村長のどれ、診てもらえるだけやってもらっておきなさいという言葉もあって翌日に診察をしてもらえることになる。


「ありがとうございます。」

「治せなかったらごめんなさいね。その場合は知り合いの医者に来てもらいましょう。」

「えっと……そこまでしてくれなくても……」


 ここ数年で設備が整ってきたとはいえ、それは王都や街といった規模の大きい場所だけの話。地方の村にはまだまだ医者が足りない状況だ。

 その貴重な医者を呼ぶとなれば、友人といえどもそれなりの金がかかるのではないか。猟師の父の収入では払いきれない金額になるであろうことを予想して、ヴァイオレットは断ろうとした。


 すると、カルハの母親が言い淀むヴァイオレットに眉をきりりと上げてこう言った。


「自分の命に関わる病気なのでしょう?私がいいのだから、そんなに遠慮をしなくたっていいの。もっと食い意地を張っていかないと、貴方に不利なようになるばかりよ?」

「でもお金が……」

「大丈夫。私の知り合いは私に借りがあるの。それにもしお金が必要だとしても、少しの貯蓄はあるから心配をしなくてもいいわ。出世払いってことでいいじゃない。ねえ、パパ?」


 村長との具体的なこれからの村の生活について話し終えていたカルハの父親は、穏やかな顔で妻の意見に賛成する。


「ああ。俺達でできることならやればいい。」

「そうよね。じきにご近所さんになるわけだし。」

「いやはや、マルシ殿が村にくれてよかった。ヴァイオレットの病気も治るかもしれんなあ。」


 親達の会話の間、ずっとヴァイオレットの頭を撫でていたカルハだったが、それにも飽きてきたのかヴァイオレットの周りをぐるぐると走りだす。


「お外に行こう!ヴァイオレット!」

「う、うん。」


 ヴァイオレットを連れて村長の家の外に出たカルハは、家の外に放し飼いにされている鶏達を追いかけては鶏の真似をしてヴァイオレットを笑わせている。


「ヴァイオレットはマルシ殿達が住む場所の近くにある花畑の反対側に父親と二人で住んでいるのですよ。母親を同じ病気で亡くしておりましてなあ。母親が亡くなってから、笑顔を見ることはありませなんだが、治療ができると聞いて安心をしたのかは知りませんが、久しぶりに笑顔を見れて儂としても嬉しいことです。」

「そうですか。」


 窓の外で遊ぶ二人を見ながら村長は微笑む。


「俺のことはマルシでいいです。これからたくさんお世話になるでしょうから。」


 春の陽気でのんびりとした時間は、子供達の笑い声をのせて過ぎていく。

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