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遠征-3-

「朝からこんなことをしては体力がもたないだろうが!痛っ!」

「おい!なんだその口調は!俺はお前の友達じゃないんだぞ!!」


 朝から下宿先の騎士に頭を叩かれて叱られているオスナットの横で他の3人の見習い騎士達は淡々と朝の鍛錬をこなす。オスナットが警邏隊に行ったら死にそうだ、というのがヴァイオレットとアウローラの今のところの彼への見解である。


 しばしばオスナットがトンデモ発言をしたが他の者達に一蹴されて1ヶ月がたった。1ヶ月もすればオスナットの口調もだいぶマシになった。騎士達の不正もないことがディーノとフランクによって証明され、1ヶ月泊めてもらったお礼を言って一行は次の町へと出発をする。次の町へと出発する際、ヴァイオレットを泊めてくれた騎士がプレゼントをくれた。思ってもいなかったプレゼントにヴァイオレットが驚いていると騎士が頭をかきながら照れくさそうにお礼の言葉を述べた。


「この1ヶ月、俺の分まで朝昼晩の飯を作ってくれてありがとう。それ、きっと君の役に立つだろうから、よかったら使ってくれ。」


 騎士に促されるままプレゼントの包みを開けると護身の加護が宿った髪飾りが出てきた。なかなかいい値段がしそうだ。


「ありがとうございます。でも、大したこともしていないのにこのような物をもらってしまってもいいのでしょうか?」


 髪飾りに少し戸惑いながらヴァイオレットが騎士に再確認をすればもちろんだと騎士は頷く。


「いいんだって。それ、君が今まで払ってくれた俺の飯分と同じぐらいだから気にしないでくれ。あ、飯代を金で渡した方が良かったか?」

「いえ、この髪飾りは可愛らしいですね。大事にします。」


 カルハがつけたらとても可愛いだろうな、と思いながら、ヴァイオレットはその赤茶の髪に加護の力がある緑色の蔦とところどころにピンク色の小さな花が咲いている髪飾りをつけた。


「うわあ!ヴァイオレット、可愛い!騎士様、良いチョイスだね!」


 馬に乗って準備のできているアウローラは素直にヴァイオレットをほめた。


「ね、ヴァイオレット可愛いよね!」


 ライウスとオスナットに同意を求めたアウローラにライウスはこくりと頷いた。オスナットは顔を真っ赤にしながら早口でまくしたてる。


「ま、まあ、似合っているんじゃないか?雰囲気が柔らかくなったというか…」


 ぼそぼそと何かを言っていたオスナットだったが、ヴァイオレット達には聞き取れなかった。代わりに意見を聞いてもいないのに二人の教官達までコメントをしてくる。


「確かに!普段見習い騎士の服を着ているため凛々しいイメージが強いが、こうして髪飾りをすれば可愛らしさが出てくるな!うむ!」

「似合っているぞ。もらえてよかったですね。」


 二人とも笑顔でほめてくれるため、思わず笑顔になるヴァイオレットを見て他の者達も笑顔になる。オスナットはいっそう顔を真っ赤にさせただけだったが。その様子を見て茹でダコみたいだ、熱でもあるのかしら、と思うヴァイオレットだった。


 再度お礼を言って町を出た一行は次の町へと向かうため、馬を走らせる。


「ヴァイオレットよ!お前の出身地はメディー村だったな?」

「はい、そうですが。どうかしましたか?」


 前を二人の教官が走り、4人で後ろをついていっていたところ、ディーノが突然ヴァイオレットの横に馬をつけてきたのでなんだろうと思いながらヴァイオレットは応答する。ちなみにヴァイオレットとアウローラ、ライウスは横に並んで併走していたがオスナットはスピードについていけずにしばしばフランクに叱られている。


「いや、実はな!この先、先日と同じように村が数個あるのだがな!そのうちの1つにメディー村が含まれているのだ!ヴァイオレットの出身地であるならば、せっかくだ!メディー村に一泊するぞ!」

「ありがとうございます。」


 思いがけないディーノの提案にヴァイオレットは感謝をした。父さんと母さんの墓参りができるからよかった、と。ディーノがフランクの横に戻りしばらくするとオスナットが息をきらしながら3人に追いついてきた。


「ディーノ教官は何を話していたのだ?」

「これからヴァイオレットの故郷のメディー村に行くってことだよ。」


 アウローラがオスナットに軽く説明をする。するとオスナットは何を思ったのか顔をしかめた。


「おい、メディー村といえば半年ほど前に盗賊に襲われた村ではなかったか?4人が死亡し、6人の子供が誘拐され1人の子供を除いて全員死亡したとかいう。」


 はっとアウローラはヴァイオレットを見ると、ヴァイオレットの顔は無、だった。たしかにヴァイオレットは行方不明になった彼氏を探すと言っていた。とアウローラは思い出す。


「亡くなったのは4人よ。5人じゃないわ。行方不明になった者が1人いるもの。」

「何を言っている?もう半年も見つかっていないのなら、死亡したも同然だろう。」


 オスナットのいうことは世の中でいう正論なのだが、ヴァイオレットの眉間の皺がだんだんと深くなっていく。


「生きてるわ。絶対にね。」


 まずい、とアウローラが思ったと同時にカルハは馬の速度をあげて教官達と並んで走りだす。


「俺は何も悪いことは言っていないだろう!?」


 ヴァイオレットが前に行くと途端におろおろとしだしたオスナットを見て、アウローラはため息をついた。


「どう見たってヴァイオレットは嫌がってたじゃないか。どうして君はすすんで人の嫌がることを言うのかな。」

「そんな顔をしていたか?」


 無神経なやつ、それとも僕が気がつきすぎるだけなのかな、とアウローラは思いながらもオスナットにうんざりとした。


「無表情になってただろう!ヴァイオレットが言っていた行方不明の人はヴァイオレットの彼氏なんだ!その人を探すために彼女は騎士になりたいんだよ。まったく。君にヴァイオレットは無理だね。」


 そう吐き捨てるとアウローラはヴァイオレットの横に並ぶべく馬をさらに速く走らせた。オスナットはぎょっとした顔でアウローラを追いかけようとするが自身の体力がなさすぎて不可能にしている。


「お、おいっ!どういうことだそれは!」

「そういうことだ。先に行くぞ。」


 薄い金色の前髪をびっちょりと汗ではりつかせながら走るオスナットをまったく汗をかかずに追い越していくライウス。ライウスの黒髪が遠ざかっていくのを見ながらオスナットは歯を食いしばった。


「オスナット、遅いぞ!」

「っ!お前ら速すぎなんだよ!」


 フランクにスピードをあげるよう急かされ、足腰が悲鳴をあげるのに我慢をしながらオスナットは馬の脇腹を足で蹴って速度をあげる。決してオスナットは乗馬が苦手なわけではない。むしろどちらかといえば好きな方なのだ。だが教官達の言う"お散歩速度"はまったくお散歩速度ではなく、少し速くするぞと言われた時にはオスナットからすれば全速力だろ!と言える速度なのだ。それなのにその速度にライウスはともかく、平民で馬に慣れていない二人までもが平然とついていっているのには理解ができなかった。なにか魔法でも使っているのではないかと思えるほどにだ。


「何か言ったか、オスナット!聞こえない!」

「何でもありません!」


 結局、村が見え始めるまでオスナットの苦痛は続いた。


*----


「ヴァイオレットだ!ヴァイオレットが戻ってきた!」


 夕暮れ時に一行がメディー村に到着すると村の住人達が一斉にヴァイオレットの元に集まってきた。皆に挨拶をしてから今日は村で一泊することをローランの兄の新しい村長に伝えるとヴァイオレット以外の5人は村長の家で泊まることになった。ヴァイオレットはいつでもヴァイオレットが帰ってこられるよう村人が交代制で掃除をしてくれていたため、家に帰ることになる。途中、ローランの両親とも会った。なぜか二人とも穏やかな顔をしており、


「ローランのために騎士を目指さなくたっていいのよ。ヴァイオレットちゃんの人生なんだから。」


 とも言ってくれたがヴァイオレットは首を横に振る。


「私は諦めません。」


 ヴァイオレットちゃんがそう言うなら、と反論はしないローランの両親にヴァイオレットは強烈な違和感を覚えた。あれほど泣いて悲しんでいたのに、もうその悲しみは消えてしまったの?と。


 翌日にはメディー村を出発するとのことなので、花畑で花を摘み両親の墓に花を供える。しばらく何をするわけでもなく墓の前でつったっていたヴァイオレットだったが、肩をとんとんと叩かれて我に返った。


「ヴァイオレット、大丈夫?」

「ええ。これは両親の墓なの。」

「そうなんだ。」


 アウローラは両手をくんで祈る。しばらく何かを祈った後、アウローラはほうっと息をはき、黄金色の空を見上げた。


「何をお祈りしたの?」

「ヴァイオレットとバディを組んでいるアウローラです。彼女は僕が見守るので安心して下さいってお祈りしたんだ。」

「貴方、私よりも弱いじゃない。」

「今に追いついて、君が僕に背中を任せられるようなバディになってみせるさ。」

「頼もしいことね。」


 村長の家で夕食をご馳走になり、次の日の朝、メディー村を後にした一行だった。

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