遠征-2-
しばらく馬で南に向かうと道が2つに分岐している。教官達によると、右の道の先に町があるんだとか。左の道の先には村があり、その村もこれから行く町の騎士達の管轄下だそうだ。
「これから先は村ばかりだ!きちんと挨拶をしなければな!おっと、もう昼だ!ここらで昼食および休憩をすることにしよう!むん、それにしてもオスナットは遅いな!」
ディーノの一声によって昼食を取ることになった。王都からここまで、見通しの良い平原で、王城もくっきりと見えるのだが、オスナットは豆粒ほどの大きさでしか見えない。
「フランク教官、これからオスナットはどうするんですか?」
もぐもぐと昼食を食べながらアウローラが尋ねる。彼とディーノ、フランクの昼食は寮の食堂で作って販売されているサンドイッチだ。
「彼はこのまま走らせる。ディーノに君達3人を率いて先に街へ行ってもらうつもりだから安心をしてくれ。君達を待たせるつもりはない。」
優しそうな見た目とは裏腹に、フランク教官はけっこう厳しい教官のようだ。
フランクと話し終えたアウローラは、ヴァイオレットとライウスの持ってきた弁当を見て目を輝かせた。
「ヴァイオレット、君の弁当可愛いね!それにライウスの弁当、すっごく豪華だね!」
ライウスは口に食べ物が入った状態だったため、先にヴァイオレットが話し始める。
「カルハ、王都を見習い騎士でパレードをした時にいた私の友達がいたでしょう?その子が作ってくれたの。これは私の好物なのよ。」
芋を鳥の形にくり抜き、出汁の染みこまされたそれはヴァイオレットの好物であると同時にカルハの得意料理だ。サラル宅ではサラルが華の国でよく食べられるコメを好んでいるため、弁当にはコメが使用される。今日はおにぎりという中になにかの具材を入れたものになっている。
「へ〜!カルハさんは料理が上手いんだね!」
「ええ。私と彼女で下宿していた家の料理を作っていたのだもの。」
感心するアウローラにヴァイオレットは少し自慢気である。大切な友人が褒められて嫌なわけがない。
「ライウスは寮に住んでいなかったよね?その弁当ってもしかして、お母さんが作ってくれたの?」
いやいや、朝にオスナットが俺達貴族だって威張る空気を出してたんだから彼も貴族でしょう?召使いが作ったに違いないわ、と考えていたヴァイオレットの考えと、お母さんが作ったんだ!と考えるアウローラの二人の予想とは違う斜め上の答えがライウスから帰ってきた。
「母上でなく、父上が作ったものだ。」
「え、父上ってことは、お父さん!?お父さんが弁当を作ってくれるなんて珍しいね~!」
うらやましいな〜と呟くアウローラはすでにサンドイッチを完食している。ヴァイオレットとライウスも、もうすぐ食べ終える、といった量だけが残っている。食べ盛りの3人は食べるスピードも量も速いし多い。
「王都の家では父上と二人暮らしだからな。あと、地方の家にいる母上に包丁を持たせることはまずないな。」
「ええ?どうして?」
「誤って自分の手を切りそうになるからだ。」
お父さんはともかく、ライウスのお母さんは箱入りのお嬢さんなのだろう。とヴァイオレットが予想しつつ水筒で水を飲んでいると、ディーノから出発するぞ!とのお達しがあり、3人の見習い騎士は馬に乗った。美味しかった弁当を作ってくれたカルハに感謝しつつ、ヴァイオレットは馬の手綱を握る。ディーノはゴソゴソとコブノーからもらった紙袋からお菓子を1つづつ取り出して4人に渡していく。ヴァイオレットはもらったと同時にぱくついた。うん、美味しい。
「フランク!これを後で食べるといい!コブノー殿からの差し入れだ!美味いぞ!」
「そうか、嬉しいね。ありがとう。」
ディーノは少し前に食べていたらしく、フランクに味を保証していた。一方、憧れの人物のうちの一人からもらったお菓子に感動しているアウローラはなかなか食べようとしない。感動しすぎてふるふるとお菓子を持つ手が震えている。
「美味いぞ。食べないのか?」
ライウスは乗馬をしている最中に落としてしまうかもしれないと、食べることを薦めたが、アウローラはお菓子を見つめたままだ。
「食べないの、アウローラ?私が取って食べてしまってもいいの?」
「嫌だよ!食べるよ!」
ヴァイオレットの言葉に慌ててお菓子を食べたアウローラはうっとりと顔を和ませる。だがディーノはそんな幸せな時間をあまりあたえてはくれなかった。食べるのが遅かったアウローラが悪いのだが。
「さあ!行こう!ここから先は最近魔獣が多く出現しているらしい!気を引き締めるんだぞ!」
魔獣と遭遇する確率を減らすため、ここから先は馬を速めに走らせる。出発する際王都の方を見ると、オスナットは未だ豆粒のような大きさでしか見えなかった。
途中の村々を通過する際、ディーノは村人一人一人に挨拶をしていく。教官に促され、3人の見習い騎士達も三者三様に挨拶をしていく。アウローラはとびっきりの笑顔で元気な声で、ヴァイオレットは少し口角を上げていつもよりも少し大きめの声で。ライウスはいつもの無表情ですれ違う人がわかるぐらいの声で挨拶をしていく。
「オスナットは今日中に合流するのは無理そうだね。」
夜の灯りがともる町に到着した一行は町に駐留している騎士達に挨拶をして、これから1ヶ月暮らすことになる町を、町に駐留している騎士に案内をしてもらいながらアウローラはぽつりと呟いた。
「ああ!フランクはどこかの村で一泊すると言っていたぞ!」
ディーノの言葉からしてフランクはなんとしても1日オスナットを走らせるつもりだったらしい。
「これから僕達はどこで暮らすのですか?」
「おお!そうだったな!私達は1人の見習い騎士につき、1人の騎士の家に住んでもらうことになっている!粗相のないように!」
ということで3人の見習い騎士はそれぞれの騎士の家にお邪魔をする。
「明日の朝から騎士達と同じ仕事をするぞ!9時に屯所で集合だ!」
初めての町で、他人の家で就寝する。なかなか寝られないかな、と予想していたヴァイオレットだったが案外すぐにぐっすりと眠れた。
*----
朝、ヴァイオレットはぱちりと目を開けた。どこ、ここ?と一瞬戸惑ったヴァイオレットだったが、すぐに自分がいる場所を思い出し、ベットから身を起こす。窓の外を見る限り、まだ朝も早いようで家の主である騎士が起きて動いている音はしない。キッチン触ったらまずいかな、と思いつつ、キッチンに行って朝食の食材を探すヴァイオレットだったが。ろくなものが見つからない。やっと見つかったのは萎びた野菜とカピカピになったパンだけだった。これはまずい、と思ったヴァイオレットは、昨晩もらった合鍵で家のドアに鍵をかけて町に出かける。町の朝市は王都のものに比べると小規模なものだったが、賑わっている。手早く必要な具材とパンを買ったヴァイオレットは、さっそく料理にとりかかろうとした。が、今度は別の問題が発生した。調理器具に埃が積もっていて、到底料理をできる状態ではなかったのだ。ヴァイオレットは覚悟を決めて袖をまくる。ついに一時間後、ピカピカになったキッチンで料理を始める。これだけやっても集合時間の9時には十分間に合う時間帯だ。
ヴァイオレットが料理は作り終えてテーブルに料理を並べ食べていると、ヴァイオレットが世話になっている騎士が眠そうに起きてきた。ヴァイオレットを見ると
「うおっ!」
と驚いていたが、次第に昨日自分が見習い騎士のヴァイオレットを下宿させることになったことを思い出したのか、落ち着いた様子になる。かわりにヴァイオレットが食べている朝食を見て、驚いた顔をしている。
「おはようヴァイオレット。ところで、あー、それは朝食か?」
「はい。粗末なものですが、騎士様も食べますか?」
ヴァイオレットの言葉に騎士の目が完全に覚醒する。
「えっ!俺の分もあるのか!?っていうか、全然粗末じゃないだろこれ!」
ヴァイオレットが食器に騎士の分の朝食をよそい、フォークとコップも持ってテーブルに用意すると歓声をあげて騎士は朝食を食べ始める。ヴァイオレットは自分の朝食を食べ終えるとキッチンに食器を持って行く。続けて食材を切っていると、騎士に何をしているのかと聞かれる。
「お昼の弁当を作っているのです。」
その言葉に再び騎士の顔は驚きでいっぱいになる。
「な、なあ。余った分ででもいいから、俺の弁当も作ってくれないか?」
「はい、いいですよ。」
騎士は飛び上がって喜んだ。そんなに喜ぶことかしら、と思いながらヴァイオレットは自分の弁当を詰め終え、騎士に騎士の弁当を持ってきてもらう。騎士の弁当を詰め終えると朝食で使った皿を洗うことがヴァイオレットを待っていた。自分と騎士の分の皿を洗いながら、サラルが自分から皿洗いをしてくれていたのはありがたいことだったな、とヴァイオレットはふと思いながら例のごとく高速で皿洗いを済ませる。
屯所に行く時間になり、まず第二師団の護衛隊の仕事内容を聞き、朝の鍛錬を始める。内容は騎士と一緒に走ったり素振りをするといったものだ。
「同じ第二師団でも、警邏隊と護衛隊じゃあこんなに違うんだね。」
「そうね。」
休憩中、汗を拭きながらアウローラとヴァイオレットは小声でそう話す。それほど二人にとって護衛隊の訓練は警邏隊に比べて易しいものだった。だから警邏隊は脳筋と呼ばれるのだろう。
朝は騎士達についてヴァイオレットとアウローラは町のパトロールを、ライウスは近隣の村々をパトロールすることになった。昼はいったん屯所で昼食をとり、朝とは逆の役割をする。本来ならディーノは今日から屯所で不正をしていないか騎士達の粗探しをする予定だったが、フランクがまだ町に到着していないためライウスについて行った。帰ってきた時には彼の倍以上ある魔獣を馬で引きずって帰ってきた。何かをやらかすディーノである。
夕方、パトロールが終わり、各自の自由時間が与えられると3人はそれぞれ鍛錬を始めた。素振りをしたり、剣の打ち合いをしたり、だ。その様子にディーノを除く騎士達は驚く。普通の見習い騎士は金を持って遊びに行くぞ、と。しばらく帰宅するまでの間そうしていた3人を横で座って見ていたディーノだったが、屯所に馬で近づいてくる2つの人影に気づき立ち上がった。
「おお!ご苦労!フランク、馬を預かろう!」
ひらりと馬上から降りたフランクは馬の手綱をディーノに任せてオスナットにも馬から降りるよう促す。オスナットの顔はへとへとで疲労が表れている。
「あんなに馬をとばす必要がありましたか!?」
「うん?あんなもの、馬をとばしたうちに入らないだろう?」
フランクの返事に唖然としているオスナットだが、膝がガクガクとして今にも倒れそうだ。
「とりあえず、今日からお前が世話になる騎士を紹介する。ついてきなさい。」
下宿する騎士を紹介するためフランクはオスナットを引きずり屯所に入っていった。
「オスナット君、大丈夫かな?」
警邏隊に到着した時の自分を思い出してオスナットを心配するアウローラだったが。
「大丈夫じゃない?」
「大丈夫だろう。」
ヴァイオレットとライウスの反応は依然として冷たい。
「じゃあ、また明日!」
「ええ、またね。」
「じゃあな。」
そろそろ夜も遅くなってくる時刻になっていたので、3人は別れて下宿先へそれぞれ帰っていった。




