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王都外れの平原にて

 昼下がりの王都よりも少し離れた場所にある騎士達の拠点は、筋骨隆々の男達であふれている。昼食を食べる時間帯らしく、新鮮な肉を料理している。もちろんワイルドな仕上がりになっている。結論から言えば、質よりも量なのである。

 肉料理に男達が群がっているそんな場所に一人の教官と二人の見習い騎士が到着した。ディーノ、アウローラ、ヴァイオレットだ。アウローラとヴァイオレットはすでにヘロヘロになっており、汗だくだ。ディーノは言うまでもなくけろっとしている。


「二人共、しっかりしろ!昼飯を詰め込むぞ!」


 馬を厩に入れて厩の番をしている騎士に任せるとディーノは騎士達が群がっている中に分け入っていく。慌てて二人もついて行くが、慣れない乗馬の後で足がふらふらな上に汗臭い男達の波に翻弄されることで二人は限界に達していた。


「もう無理、吐きそう…」


 おっさん方のツーンとする汗の臭いに頭がくらくらとしてきた二人に救いの手が差し伸べられる。特にがたいの良い騎士の男がずんずんと二人の進行方向から進んでくると、なぜか他の騎士達はさっと横に避けていくのだ。なんだかよくわからないけれど、私も横に避けた方がいいわよね、と考えたヴァイオレットはふらふらとしながらも横に避けた。が、アウローラは限界だった。目を回してよろよろとしており、周囲の状況に気がついていない。


「おい坊主。大丈夫か?」


 がたいの良い騎士に話しかけられ肩を軽く叩かれた坊主、もといアウローラは軽く叩かれた振動でバタンと倒れてしまった。慌ててヴァイオレットはアウローラの元に駆け寄る。一応確認したところ、気絶しているだけのようだった。


「すみません、彼を寝かせられる場所はないでしょうか?」


 ヴァイオレットの体も大分厳しい状況だったが、アウローラを背中におぶって目の前のがたいの良い騎士に聞いてみる。するとヴァイオレットの背中におぶっていたアウローラをヴァイオレットの代わりにおぶってくれる。


「お嬢さん、名前は?」

「私はヴァイオレットです。彼は私のバディのアウローラです。」

「そうか。ついてきなさい。君も休息と食事をとらないと、この子供のようになるぞ。」


 そう言って連れて来られた場所は比較的大きめのテントで、中は涼しく人を何人か寝かせられる寝台が置いてあり、包帯で体を巻いている騎士が数人寝かせられている。がたいの良い騎士は空いている寝台にアウローラを寝かせると、ヴァイオレットに適当な椅子をすすめる。しばらくするとこの拠点には珍しく、体の線が細い騎士がお盆に乗せて食事を持ってきた。ヴァイオレットに、どうぞ、と食事が差し出される。ヴァイオレットは食事がもらえるとは思ってもいなかったので少し驚きながらもありがとうございます、と礼を言って食事を受け取った。ヴァイオレットがお盆の上の食事をゆっくりと食べていると、がたいの良い騎士が困った風にため息をついた。


「まったく、君達の教官は誰なんだ?まだ基礎体力もついてないような見習いをここに連れてくるなんて。いや、待てよ、騎士に混じらせて訓練をして、無理矢理ついていかせようとする教官は…君、ヴァイオレットと言ったね。君の教官はディーノではないか?」

「はい、そうです。」


 がたいの良い騎士はヴァイオレットの返答にますます顔を呆れた、といった表情にした。


「やはりか。ヴァイオレット、君の教官は今、どこにいるのかね?」

「昼食を食べに行くと言って、突き進んで行きました。」

「そうか。これから君達の教官を呼んでくるから、それまでゆっくりとしておきなさい。」

「はい、わかりました。食事の用意と私のバディの介護をして下さってありがとうございました。」

「構わんよ、倒れないよう気をつけなさい。ここの生活は君達には厳しいものになるだろう。」


 先ほどの体の線の細い騎士を後ろに伴ってがたいの良い騎士はテントの中から出て行った。肉々しい料理をなんとか食べきったヴァイオレットは倒れてしまったバディの顔をのぞきこむ。彼は茶色い髪を汗びっしょりにしてうんうんと唸っていた。悪夢でも見ているのだろうか。


 ヴァイオレットが暇そうにしているのを見て取ったのか、怪我をしている騎士達が声をかけてくる。


「おい、見習い。そこの水を取ってくれ。」

「すまねえが、背中をかいてくれ。手が届かねえんだ。」

「マッサージしてくれよ。もっと力を入れてくれ〜」


 足を怪我していて水差しの置いてある棚まで歩けない騎士に、水を入れたコップを渡したり、腕が折れている騎士の痒い所を代わりにかいたり、腹部を怪我している騎士の手や肩を力いっぱい揉んだりしていると、ディーノと先ほどのがたいの良い騎士がテントに入ってきた。もちろん体の線の細い騎士も一緒だ。


 ディーノは寝台に寝ているアウローラと騎士の手を揉んでいるヴァイオレットを見て、ほっとした表情を浮かべる。


「いやあ、セユリス殿!助かった!二人がどこへ行ったのか心配をしていたのですよ!」


 ディーノの言葉を聞いて、がたいの良い騎士、セユリスは眉をひそめる。


「その割には飯をがっついていた気がするが?」

「…気のせいですな!!」


 ヴァイオレットは思う。これ、絶対に気のせいじゃないよね、と。セユリスは未だに眉をひそめたままだったが、


「今日、この二人に昼からの巡回について来いというのは酷だろう。今日はせめて、料理の手伝いや騎士達の体をほぐす手伝いでもさせておけ。」

「はっ!了解しました!」


 びしっと敬礼するディーノを背にセユリスはテントを出て行った。セユリスがテントから見えなくなると、ディーノはヴァイオレットの隣の椅子にどかりと座る。彼の口からは、やはり肉々しい料理の匂いが漂う。


「ディーノ教官、先ほどの騎士様は一体誰なのですか?」


 しばらく無言で騎士の手を指圧し続けていたヴァイオレットがそう質問すると、ディーノではなく、ヴァイオレットが指圧していた騎士が驚いた声で説明をしてくれる。


「お前、さっきの人が誰だか知らねえで喋ってたのか!?さっきの人はなあ、第二師団の師団長、セユリス=ホウグ様だよ!」

「へえ…そうだったのですか。」

「そうだったのですかって、お前なあ…」


 あまりいいリアクションをしないヴァイオレットに他の騎士達は呆れ、ディーノは大声で笑った。


 ディーノの大笑いで起きたのか、うんうんとうなされていたアウローラの目がぱっちりと開いた。


「お、坊主、起きたか!お前、こいつの見習いになるなんて災難だな!」

「おいなんだと!!」


 腹部に怪我をしている騎士の言葉に、ディーノは怒る。ディーノが騎士の腹部を攻撃しようとするのを必死に騎士は避けている。ヴァイオレットが二人の揉み合いに巻き込まれるのを避けて、アウローラの寝台に腰掛けると、アウローラの隣の寝台に寝ていた腕を負傷した騎士がそっと二人にささやく。


「でも、ディーノさんの下についたやつらは、騎士になるといい働きをするんだ。だから、一生懸命頑張れ。」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます。」


 初めて騎士と話すアウローラはわくわくとしている。


「ねえヴァイオレット。僕、道でふらふらになったぐらいから全然覚えてないんだけど、どうしてここにいるのかな?」

「第二師団長にあなたが倒れた所を助けてもらって、ここまで運んでもらったのよ。」


 ヴァイオレットの説明にアウローラは目を大きく見開いた。


「え、本当に!?僕はなんてことをしてしまったんだ!!すっごく失礼だよね!?」

「いや、気にしなくても大丈夫だと思うよ?師団長は女子供と老人には優しいから。」


 腕を負傷した騎士が、またもぼそっと言ってくれる。アウローラは寝台から飛び降りると腕を負傷した騎士の枕元に立った。


「騎士様!いろいろと教えてくれて、ありがとうございます!お名前を教えてもらってもいいですか!?握手をしても!?」


 握手の許可を得る前にアウローラは騎士の手をぶんぶんとふる。騎士は肩に振動が伝わるからか、若干辛そうな顔をしている。


「俺の名前はマチオウだ。あと、もう少し優しく振ってくれるか?肩が痛い。」

「あっ、すみません!!大丈夫ですか?」

「かわいいねえ!おい、俺のとこにも来いよ。握手ぐらいならいくらでもしてやる。」

「本当ですか!!ありがとうございます!」


 足を怪我している騎士にも声をかけられて嬉々としているアウローラはすっかり元気だ。


 アウローラが喜々として二人の騎士にかわいがってもらっている間、ディーノが腹部を怪我している騎士の脇腹を高速でくすぐり、それによって腹部を怪我している騎士が笑いながらも腹部の痛みで顔を変にしかめるのをヴァイオレットは虚ろげに見つめていた。


 こうしてアウローラが元気になったため、それからは夕飯の支度をするのに駆り出される。騎士達は魔獣を討伐しに行ったが、ヴァイオレットとアウローラは騎士達が食べ終えた何百という食器を洗うよう指示をされる。二人を監視するのはマチオウで、ディーノは騎士達と一緒に魔獣討伐に行ってしまった。教官としてどうなのかとヴァイオレットは皿を猛スピードで洗いながら思う。


「お嬢ちゃん、皿洗うの上手いな。」


 ヴァイオレットの皿洗いにマチオウは少し驚いているようだった。確かに、アウローラと比べると、凄まじい速さで綺麗になった皿が積み上がっている。


「家事は小さい頃から私の仕事だったので。慣れているんです。」

「それにしてもすげえ速いな!あ、もう終わっちまったじゃねえか!」


 言っている間に皿洗いが終わってしまった。次の仕事は朝のうちから干されていた洗濯物をたたみ、騎士達の寝床に清潔になったシーツを敷いていく、というものだったが、これも、ものの数分で終わってしまう。


 次に何をすればいいか、と聞けば、騎士達が帰ってきたらマッサージをしてくれ、とのことだった。それまでは休んでもいいとの御達しだ。


 そこで二人は騎士達が帰ってくるまで、マチオウに指導してもらいながら剣の打ち合いをすることにした。二人とも下手くそなので、勝負は半々といったところだ。


「ヴァイオレット、ごめん。僕、ほとんどやれてない。」


 打ち合いの合間の休憩中、アウローラがヴァイオレットに謝っている。

 ヴァイオレットの早業であっと言う間に終わってしまった仕事に、アウローラは力になれず申し訳無いのか、落ちこんだ様子だ。


「いいのよ。早く休憩をとれた方がいいし、今回は私の得意分野だった。あなたの得意なことが必要な時、あなたが頑張ればいいのよ。そうでしょう?」


 汗を拭いながらヴァイオレットはアウローラに水の入った瓶を差し出した。アウローラはヴァイオレットに手渡された瓶を受け取り、水を飲み干す。


「うん、そうだね!ありがとう、ヴァイオレット!」


 アウローラは気持ちの切り替えが速いな、とヴァイオレットは思う。今のアウローラの顔はにこにことしている。


「ところで、王都の近くも魔獣が発生するんだね。僕、都会には魔獣なんて出ないと思ってたよ。それに、紅の勇者様や第一師団もいるのに、どうして第二師団の騎士様達が王都付近まで出向いてるんだろう?」


 その問いには夕暮れで出来た木の木陰で座りながら二人を見ていたマチオウが答える。


「今回は隣国のヨーゥイ帝国が龍に襲われた影響で、キオワに魔獣が逃げてきたんだ。それで、至急に俺達警邏隊の仕事が急増したわけ。普段は地方の三大伯爵家の領地を1年ごとに転々としている師団長とその精鋭部隊も各地を回って魔獣討伐に必死なんだ。普段はここら一帯は安全地帯なんだぜ?

 王都に住むって言われてる勇者様だけど、本当かどうかわからないしな。俺は偽物だと思ってる。第一師団は主に王城の警護がメインだから、魔獣討伐は俺達第二師団の警邏隊に回ってくるってわけよ。」


 魔獣が逃げる、龍とはいったいどれほど恐ろしい存在なのだろうか。ヴァイオレットとアウローラは顔を見合わせた。


「龍に襲われるって、ヨーゥイ帝国は何をしたんでしょうね?よっぽどのことですよね。」

「さあなあ。とにかく、すごくなにか悪いことでもやらかしたんだろうよ。」


 増えすぎた魔獣によって村が壊滅する、だなんていう酷い話もよく聞くのに、その魔獣が逃げる龍に襲われた土地は悲惨な状況になっているに違いない。


「ところで、第二師団って、村や町を守っているイメージしかなかったです。」


 ヴァイオレットの意見にアウローラも頷く。そんな二人にマチオウは苦笑しつつも教えてくれた。


「まあな。商売人以外は大抵、自分の町や村から出ねえから、第二師団といえば町とかを警護する護衛隊のイメージしかねえだろうな。だからあんまり警邏隊はポピュラーじゃねえな。ま、簡単に言えば、警邏隊の連中は脳筋ってことだな。」

「脳筋、ですか。」

「そう、脳筋だ。」


 脳筋、と聞いてヴァイオレットはそのままの無表情でマチオウの言葉を繰り返す。一方、アウローラはにこにこと笑う。


「じゃあ、マチオウさんも脳筋なんですね!」

「それを言うんじゃねえ!」


 マチオウに頭を叩かれた後、数回二人で剣の打ち合いをし終えると、騎士達がドドドド、と馬に乗って帰ってきた。疲労した汗臭い騎士達の体を一生懸命揉みほぐすうちに、平野での一日目は終わった。二人とも、体中の筋肉痛と疲労感から、与えられた寝床に入るとすぐに寝てしまった。


 二日目の早朝、二人は叩き起こされ朝食へと走る。お腹に飯をつめこむと、次は騎士達が素振りをしている後ろで一緒に素振りをする。ディーノに叱責を受けながら必死に剣を振りきった。水分補給をしてやっと休憩かと思いきや、騎士達は馬に次々と乗り魔獣の討伐へと向かっていく。二人は騎士達の予備の武器を持って後ろで待機するよう命じられたが、騎士達の馬のスピードについて行くだけで必死だ。昨日のディーノは二人のスピードを考えながら馬を走らせていたことに二人は気づく。とにかく、速い!


 しばらく走っていると猛スピードで前進していた騎士達がぴたりと停止する。魔獣のお出ましのようだった。


「猿みたいな魔獣だね。」


 なるほど、アウローラが言うように猿のような生き物だった。が、大きさは猿の比ではなく、尾はメラメラと炎で燃えており、目が真っ赤だ。


 騎士達は果敢にも立ち向かっていく。彼らの持つ武器が折れると二人の出番だ。きちんと研がれた武器を騎士に渡し、折れた武器を回収する。


 結果、騎士達は猿のような魔獣を昼食のために拠点に戻るまで、14体も倒した。


 昼食を取り終えると二人は今日から騎士達の訓練に混じることになった。朝から昼まで魔獣を討伐し昼から夜まで鍛錬する組と朝から昼まで鍛錬し、昼から夕暮れまで魔獣を討伐する二組にわかれているようで、二人の見習い騎士はそれの前者に振り分けられた。稀に朝から晩まで魔獣討伐に行く超脳筋もいるらしい。ちなみにディーノはそのくちで、昼食を食べるとすぐに馬で駆けていった。ここに来たのは私達二人の指導ではなく、単に魔獣討伐に混じりたかっただけではないか、とヴァイオレットは思ってきている。


 鍛錬はとてもきつかった。延々と走りこんだかと思えば剣の打ち合いをし、果てには筋肉を鍛える動作を何百回と繰り返す。剣の打ち合いの際はヴァイオレットとアウローラで組んだが、ここでもマチオウの叱咤がとぶ。そのうち休憩と題して騎士が交代で二人の相手をしてくれるようになった。それぞれの視点からの叱咤激励を二人はどんどんと吸い取っていく。


「明日も頑張ってついてこいよ!」


 夜、晩ご飯を半分寝かけながら食べていた二人にそういった声が多数かけられる。ついでに頭をなでることも騎士達は忘れない。


 二日目にして体中が悲鳴をあげている状態だったが、二人はぐっすりと寝いる前にこう言い合った。


「警邏隊の騎士達って脳筋だけど、みんな優しいね。」


 と。こうして屈強な脳筋男達の愛(?)を受けながら6日という日数は風のように過ぎ去った。


 6日後、二人は警邏隊全員に


「騎士になって、また会おうな!」

「これからも頑張るんだぞ!」


 と、声援を受けつつ王都に帰り、翌日からの遠征に備えて王都のそれぞれの寝床で就寝についた。短期間とはいえ、二人に決定的に欠けていた体力も少なからずつき、騎士達と交流できたため、二人の見習い騎士の間には満足感があった。ただし、二人の間にはそれとはまた違う、共通する思いもあった。


「今回の拠点に行ったのって、絶対にディーノさんが警邏隊に行きたかったんだろうね。」

「そうでしょうね。」


 明日からの遠征も頑張ろう、と王都の噴水の前で別れた二人だった。

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