表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

試験とその後

 ヴァイオレットはカルハと中央広場の前の噴水前で別れ、キオワ王国に3つある騎士養成所の1つであり騎士団本部である建物に足を踏み入れた。


「見習い騎士の試験を受けに来た者はこちらに並べ。騎士団長からのお言葉の後、試験を開始する。」


 そう誘導する白い騎士服を着た騎士の言葉通り並んだ彼女の周りには彼女と同じく真剣な顔をしている者がひしめき合っている。中には緊張で今朝のヴァイオレットとカルハのように真っ青な者もいる。ヴァイオレットとカルハは朝にサラルに八つ当たりをしたことで反省し、落ち着きを取り戻したことで今は冷静に振る舞えていた。


 騎士団入団試験の内容は毎年同じ内容であり、革命の起きた14年前から続いている。試験内容はとてもシンプルなものだが厳しいものでもある。

 試験内容の説明書を読んだヴァイオレットも流石に14年前の革命というものが騎士団だけでなく国に重大な影響を与えたことに薄々気づいていた。王を、国を護る騎士団の制度を変えたものなのだ。ちなみに革命について書かれた本を今ヴァイオレットは探している最中でもある。


「静かに!!騎士団長からの激励の言葉である!」


 ざわめいていた会場がその言葉で静まりかえる。会場にいる全員が注目する中、真っ赤な髪を持つ男が中央の壇上に現れる。

 彼は真っ白な騎士服を身にまとっているが、入り口でヴァイオレット達を誘導していた騎士の服にはついていなかった数々の勲章や肩章がキラキラと窓からさす日の光に反射している。

 また、その雰囲気も堂々としたものであり、騎士を目指す者達を圧倒するのに十分なものだった。


 髪と同じく真っ赤な鋭い目で会場を見渡し口を開くと、騎士団長の話を聞く者達の腹にずっしりとくる声が人々の耳に届く。


「この場に集まった諸君の中から未来の騎士が選ばれる。諸君の目指す騎士とは王を護り、国を護る重要な国の要であると私は考えている。この試験を乗り越え、見習い騎士期間を経た者達と再びまみえることを楽しみにしている。君達の健闘を祈ろう。」


 騎士団長の言葉が終わると共にワアアと歓声が上がる。と同時に騎士に誘導された試験受験者は広い広場に連れられた。床には土がしかれており隅には武器が置かれている。ヴァイオレットが見る限り、小さな飛び道具から大剣まで豊富な武器が揃っているようだった。


 ざわめく受験者を前に一人の騎士が声を張り上げ試験の説明をし始める。


「これより第15期騎士見習い採用試験を始める!今から2日、君達には不正のないようこちらで用意した武器で実力を見せてもらう!私達が必要だと感じた人材は騎士見習いに採用する!名前を呼ばれた者は武器をとって中央に来るように!」


 そう。ルールは至って簡単。勝者のみが見習い騎士になれる。


 剣の扱いについて見習い騎士の間に先輩である正式に認められた騎士達に指導を受け、騎士になってからも切磋琢磨して腕を上げていくのはもちろんだが、ある程度の実力のない者はここで振り落とされ騎士への道が閉ざされてしまう。


 また、ある程度の実力以上を持つ者達にはただ見習い騎士になるだけでなく、騎士達に自身の実力とその価値を見せつける重要な場でもある。


 ヴァイオレットはこの広場に大勢の人間がいると感じていたが約6470万人が住み、そのうちの約48万人が騎士のキオワ国にわずか3ヶ所だけある騎士養成所のうちの1つであるここ集まった見習い騎士希望者は都市部ということもあってかたった100人程度がいるだけだ。最も騎士養成所に人数が集まるのは南にある養成所らしい。


 騎士希望者達は2人ずつ名前を呼ばれるとそれぞれに武器を手に取り剣と剣を打ち合わせる。将来がかかっているだけあって皆必死だ。

 何組かの優劣が定まり、正午近くになった。遠くから鐘の鳴る音が聞こえ、カルハの試験が終わった頃かな、とヴァイオレットは頭の片隅で考える。


「うわあっ」


 ヴァイオレットの目の前で剣を手から飛ばされた少年が相手に剣を喉元に当てられ固まっていたが勝敗を決める騎士の声がかかる前にはさっと横に飛びのき無謀にも素手で相手に掴みかかっていく。だがそれほど体格が良いわけでもなく隙の多い少年の行動はあっさりと相手に阻まれ組み敷かれてしまう。

 だが、相手の顔に頭突きをし、相手がひるんだところに飛ばされた剣を拾って打ち込んだが、また剣を跳ね飛ばされ今度こそ喉元に剣を当てられ騎士の声が飛ぶ。


「そこまで!アウローラとフテン、フテンの勝利とする!」


 剣先を喉元に突きつけられアウローラと呼ばれた少年は肩を落としてとぼとぼと出口へ歩いていく。負けた者はそうやって去っていった。


 ヴァイオレットも名前を呼ばれ、1日目は乗り切ったが2日目の初戦で敗退した。僅差ではなく完敗だった。

 ヴァイオレットが完敗した相手はライウス=ホウグという青年で今回の試験で優勝をもぎとった者だったが、始終無表情でヴァイオレットにはつまらなさそうに見えた。


 カルハもヴァイオレットも合格にはギリギリのラインだということが本能的に分かるのかそわそわと落ち着かない。だがその心配も杞憂に終わり、二人は無事、合格した。

 合格がわかったその日、お祝いにコブノーからの料理をタダでもらい家で二人は夕食を食べていた。


「お兄ちゃんどこ行ったんだろね。こうなっちゃったのって私のせいだ……」

「大丈夫。そのうち帰ってくるわ。」


 カルハが涙ぐむのも無理はない。サラルに八つ当たりをした日からサラルの姿が忽然と消えたのだ。コブノーは八つ当たりぐれえでサラルは腹立てねえと思うぞ?と言っていたが二人には気が気ではない。


「明日、入学式なのになあ。」


 翌日のカルハの入学式にヴァイオレットは出席した。もちろん新入生としてではなく保護者席に、である。もちろん周りの大人達には異様な目で見られたがそんなことは気にすまいとヴァイオレットは新入生の登場を待った。

 新入生が入場する中、ヴァイオレットはカルハを見つけた。隣の緊張した女の子を励ましながらもうきうきとした表情で歩いている。ヴァイオレットが他の保護者達と同じく手を振っているとカルハは気づき手を振り返した。相変わらず目がいいわね、とヴァイオレットが考えているうちに式は着々と進んでいく。


 半時間ほど過ぎた頃、静かだった保護者席がざわめいた。長い歓迎の言葉を保護者席の前方で聞いている新入生や生徒達には気づかない程度だったが保護者席の真ん中にいるヴァイオレットが何事か、と見やるとなんとカルハの両親とコブノーがぺこぺこと頭を下げながら後ろの開いている席に着席するところだった。コブノーの右手にはなんとサラルがぶら下がっている。4人の登場に驚き凝視していたヴァイオレットにコブノーが真っ白く健康的な歯を見せて手を振る。これまで以上の注目を浴び、苦笑いを浮かべながらヴァイオレットはコブノーに手を振り返した。


 式も終わり、ヴァイオレットは4人のもとに駆け寄った。4人ともきちんとした正装をしている。他の保護者と同じようにキオワの正装である長い1枚の布で作られた衣服であり帯で固定して着崩れないようにしている。4人の肩辺りまでの袖口からのぞく肌は他の保護者達とは違いたるまず健康的な筋肉のついた二の腕がさらされている。現役の冒険者であるカルハの両親や元冒険者のコブノーはともかく、サラルの腕に他の3人以上の筋肉がついていることにヴァイオレットは不思議に思った。


「お兄さんを片手で運ぶだなんて。腰は大丈夫ですか?」


 眠たげな顔のサラルを片手で引きずったままのコブノーにまずヴァイオレットは声をかける。サラルには今までどこに行っていたのかなど話したいことは山積みだがカルハと一緒に聞こうとヴァイオレットは決めた。


「ああ!俺の腰はまだ大丈夫そうだ!この間は立てなくなったもんでびっくりしたけどなあ!」


 ガハハ!と豪快に笑うコブノーの足元でうるせえとでも言いたげにサラルが眉をしかめた。彼は相変わらず血色は悪くガリガリのように見える。


「ったく、カルハは試験に合格したことをマルシ達に言ってなかっただなんてなあ!サラルが夜にふらっと寄ったのを捕まえてなきゃ、2人は娘の晴れ舞台に来れてなかったんだぜ?俺に何か奢ってくれよ?マルシ?」


 青い正装を着たコブノーはふざけてカルハの父親を肘でつつくが彼は真面目な顔で頷く。


「ああ。もちろんだ。ヴァイオレット、後でカルハにも言っておくが、手紙を一月に一度は送りなさい。私達は心配なんだ。今回もコブノーの連絡がなければ式に出られなかった。わかったね?」

「はい。わかりました。」


 ヴァイオレットの言葉に普段よりも和らいでいた表情をさらに和ませたカルハの父親は遠慮がちにヴァイオレットの頭を撫でた。


「ヴァイオレットちゃんったら、あの騎士団の見習い騎士になれたんだって?すごいじゃない!これはコブノーに聞くよりも前にサラルに聞いたの。さすが騎士ってだけはあって騎士団のことはサラル君が一番情報を早く掴んでくるわね。」


 カルハの母親の言葉にヴァイオレットはサラルを疑いの目で見る。


「え……お兄さん騎士なんですか?」

「ああ。名誉職ってだけで何もしない。それだけだ。前にワルトが言ってたろ。」


 相変わらず気怠げに答えるサラルは未だにコブノーにぶら下がっている。


「騎士団も見習い騎士の披露式をこの式の後でするらしいの。だから数日サラル君の家で泊まってヴァイオレットちゃんのかっこいい姿を見てから村に帰るわね。ちゃんと村のみんなにも伝えるわよ!」


 そう言って笑う彼女と同じ薄い金髪を風に猛然となびかせ新入生の誰よりも速く保護者達の群れに走ってくる少女が1人。カルハは母親に飛びつくと、とびっきりの笑顔を咲かせた。


「ママ!パパ!ヴィオにコブノーおじさんにお兄ちゃん!今日は来てくれてありがとうっ!!」

「おめでとう。だが、事前に連絡ぐらいよこせ。来られなかったかもしれないだろう。ヴァイオレットにも言ったが一月に一度は手紙を書いて送れ。」

「うん!わかった!」


 渋い声のマルシだったが顔は緩みっぱなしだ。それでもその顔は男として格好の良い渋みのあるものだ。


 父親が注意をするのとは逆に母親はカルハを褒めている。


「すごいわカルハ!私はここに入れなかったの!」


 その日の晩からカルハの母親が作った料理を食べ、ヴァイオレットとカルハの部屋の前にある空き部屋でカルハの両親が寝泊まりする日がヴァイオレットの披露式まで続いた。


 カルハの入学式のあった日の夜、夕飯を食べ終えた一同はお喋りに花が咲いていた。といっても、主に話しているのはカルハとその母親であり、ヴァイオレットはたまに相槌をうつだけだ。サラルに至ってはほぼ寝ているような状態で、カルハの父親は親子の会話を幸せそうな顔をして聞いている。


「お兄ちゃんったらどこに行ってたの?ほんとに心配したんだからね?」


 それまでは自分が試験場でどれほど緊張したかなどと話していたカルハだったがサラルにいきなり話題を振る。話題を振られたサラルはサラルでふわああとあくびをしてからぼそぼそと話す。


「俺の勝手だ。」


 全く迫力のない半目でカルハを睨みつけたサラルだったが隣に座るカルハの母親に手を握られ横目で母親を見た。


「サラル君。そんなこと言わないで面倒を見てあげて。まだ二人とも子供なの。王都だって危ないでしょう?いつ強盗に入られるかも分からないんだから、ね?よろしく頼むわよ?」

「……わかってますよ、シクマさん。」


 適当な風にそう言ったサラルは立ち上がり、部屋を出て行く。ドアの音を聞く限り自分の部屋に引き上げたようだった。


「ヴァイオレットちゃんも頑張っていたらしいわね!サラル君があいつなりに良くやってたって言ってたわよ?」


 すごいわあ!とうっとりそう言うカルハの母親だったが、ヴァイオレットは難しい顔になった。


「そんなことはありませんよ。実力の差を実感しました。それにしてもお兄さんが話したのですか?」

「ああ。俺も母さんと一緒にサラルがそう言っているのを聞いたぞ。」


 疑わしげなヴァイオレットにカルハの父親はしっかりと頷く。彼が頷くとどことなく安心感があるようにヴァイオレットはいつも感じた。


「お兄ちゃん、ヴィオの様子を見てくれてたんだね!」

「でも、お兄さんの姿は見当たりませんでしたが……」


 どこからサラルはヴァイオレットの情報を得ていたのだろう?ここ数日姿すら見なかったというのに。コブノーの所にいたのなら教えてくれそうなものだが。


「あいつの七不思議の一つにすればいいんじゃないか?あと、ヴァイオレットはまだ剣術を始めたばかりなのに2日目まで勝ち残ったということは筋が良いということだ。もっと自信を持っていいぞ。」

「ありがとうございます!」


 他人の話によると剣の達人であるらしいカルハの父親にそう言われ目を輝かせた。


(なにかはぐらかされたような……?)


 寝る前にベットの中でそんな考えがふとよぎったヴァイオレットだったがローランの青い指輪を握りしめて目を閉じているうちに眠ってしまった彼女だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ