序章
貴方は今、どこにいるのだろう。この命が、指輪の光が続く限り、貴方を必ず見つけ出してみせる。
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小さい村の北東部に広がる小さな花畑で座って花を摘んでいた一人の少女を幼い少年達が取り囲む。少年達によって散らされた花びらが風に乗って緩やかに飛んでいく。
「うわ〜!こいつ、花畑で花とか摘んでるゼ、ネマ!」
そう言って、少女が両手に集めていた花々をむしりとった少年の一人は花束を少女の手が届かない空中へと掲げる。
「やめてよ!返して!私が集めたものなのよ!」
赤茶色の前髪が顔を覆っていて表情は見えないが、少女が必死なことは声音から十分にうかがえるものだった。が。
「キモいんだよ!オレに触るな!!」
立ち上がって少年が奪い取った花々を取り返そうとした少女の腕を振り払い邪険に扱ったため、少女は花畑に尻もちをついてしまう。
「お前みたいなヤツが、村の花を勝手に取るんじゃねえ!」
そう言って少女の前から立ち去る少年とその子分達はそれぞれに睨みつける、嘲笑う、舌を出すなどとして彼女の前から彼らの家のある方向へ消えていく。その背中が見えなくなると彼女は静かにうつむいて泣き始めた。年下の少年達に泣かされた悔しさもあってか、だんだんと鼻をすする音が大きくなっていく。
どれほど時間が経っただろうか、温かい日差しが遮られ、彼女を影が再び覆う。もう一度少年達が来たのかと、肩を小さく揺らした彼女を穏やかな声が包みこむ。
「ヴィオ、どうした?またガキンチョ共になにか言われたのか?」
「な、なんでもない。私が病気なのが悪いだけだから……」
目を両手でゴシゴシと擦る少女の手を掴み、自身の胸の所で動かないようにして少女の目を真っ直ぐと見て少女の前に現れた少年はにっこりと微笑んだ。
「病気だからってヴィオが悪いわけがないだろ。誰だってなりたくてなるものじゃない。それなのにどうしてヴィオが悪いと感じる必要があるんだ?ないだろ?」
「……うん。」
少年にヴィオと呼ばれた少女が小さく、それでもはっきりとそう答えたことに満足気にうなずいた少年は、少女の手を引っ張って立ち上がらせる。
「よし!じゃあ、あいつらに謝らせないとな!どっちが先に村長の家までたどり着くか競争だっ!」
「ちょ、ちょっとまって、ローラン!!」
少年、ローランがダダダッと走っていくのを慌てて追いかける少女は病人のようには見えないほど、しっかりと走ってローランを追いかけていく。
その様子を花畑の北東に鬱蒼と広がっている森から見守る者達が眺めていた。
「ねえねえ、あのお兄ちゃん達はどこに行ってるの、パパ?」
萌黄色の目をまんまるにして左隣に立つ父親を見上げた小さい子供は父親にその金色の髪をガシガシと乱雑に撫でられ、目をつむる。
「たぶんこの村の村長の家だろう。俺達もこれからそこへ挨拶をしに行く。」
「ふーん。どうしてあいさつをしなきゃだめなの?」
「これからこの村で住むことになるからよ。ダンジョンでの活動もしばらくお休みになるからね。ゆっくりママとパパと一緒にいられるのよ?」
母親のその言葉を聞くと、目をもっと大きく見開いて父親と母親の周りをキャッキャと笑いながら走り回る。
「ほんとに!?やったあ!!ずっと一緒にいられるの!!」
目を細めて愛おしそうに走り回る彼女を見守る両親の目は温かいが、悲しい色も混ざっている。幼い彼女が寂しいと感じさせてしまっていることに対し、これからは一緒にいる時間をもっと増やそうと両親に考えさせた瞬間だった。
「そうだ。王都から近いからサラルにも会いに行きやすいしな。ちょうどいい場所だ。」
「サラルってだあれ?」
ボソリと呟いた父親の言葉に反応した娘の問いに頬を少し緩ませて答える父親は、珍しく少し嬉しげな顔をしている。
「お前の兄だ。騎士をしている。」
「へえっ!騎士様!!」
わああ!!と喜ぶ娘を肩に乗せて肩車をした父親は、村の中で一番大きな家に向かって歩いて行く。
「わ~い!たかい!!ママが下にいる〜!」
「本当ね。」
「父さんの髪の毛を掴むのは止めなさい。」
「は〜い!」
大きい旅行用の鞄を持った家族は、まず村長に挨拶をするために村の集落へと降りていった。




