映るのは2
撮影当日―――
スタジオで自分を出迎えたのは、男のモデルにしては小さく痩せ型の、どちらかと言えば少年のような子だった。
「初めまして。わ…、俺、ハヅキって言います」
伏せがちな目で、少し遠慮したようにそう言う目の前の少年をじっと観察してみる。
…なるほど、ね。
まるで人形のように綺麗に整った顔立ち。スラリと伸びた細く長い手足。
これだけの容貌なら、あの人(社長)が直々にスカウトしたというのも頷ける。
どこか子供っぽさが抜けていないあどけなさも、彼を惹き立てる充分な材料になり得るだろう。
「…初めまして、セイヤです。君の事は話に聞いているよ」
その言葉に、ハヅキは驚いたように「えっ」と顔を上げた。
素直すぎる反応に思わず笑みが零れてしまう。
今時の子にしては、擦れてない感じにすんなりと好感を持てた。
自分で言うのもなんだけど、俺にしてはかなり珍しいことだと思う。
…しかも相手は初対面の子なのに。
「くすくす、そんなに驚かなくてもいいのに…」
「す、すみません…。でも一体どこから…」
「謝る必要はないよ。社長から君のサポートにつくよう頼まれてるんだ。俺で良ければ分からない事があったら何でも訊いてね」
その答えに納得したのか、「ありがとうございます」とハヅキは頭を下げた。
「…君って何歳?」
自分の唐突な質問に、ハヅキは顔を上げてきょとんとこちらを見てきた。
ホント、素直というか何というか…
また笑ってしまいそうになるのを堪えて、返事を待つ。
ハヅキは少し首を傾げてから、おずおずと答えた。
「17ですけど…」
「なんだ、同い年なんだ。ってことは高校2年生?」
「はい」
「じゃあ敬語わざわざ俺に使ってくれる必要はないよ。タメなんだしね」
「でも仮にもセイヤさんは先輩だし…」
どこまでも謙虚な態度を崩そうとしない姿勢に、内心苦笑を漏らす。
「だーめ、禁止だよ。名前も呼び捨てにすること。いいね?言っておくけど、コレ先輩命令だから」
「ええ〜っ!?そんな…」
拒否権も何もないようなもんじゃないか…、そう小さく呟いてハヅキは困ったように眉毛を八の字にしている。
けれど自分が譲りそうにないという事に気付いたのか、暫くして、ハヅキは諦めたようにため息をついた。
「分かり…分かったよ、セイヤ。これからよろしくな」
「うん、よろしく。じゃあ皆を待たせちゃうとアレだし、そろそろ撮影に入ろうか」
そう促すと、緊張で顔が固まってしまったハヅキに、笑顔で言う。
「大丈夫。俺も色々助言していくし、誰でも最初の頃は緊張するから。次第に慣れていくよ」
「あ、ああ…だといいんだけど。俺まったくモデルやった経験ないからさ…やっぱ緊張してるみたいで」
不安そうに揺れている瞳を見ていたら、気が付いた時には手が伸びてしまっていた。
ぽんぽん、と諭すように頭を優しくたたいてやる。
「傍にいるから」
その言葉にハッとしたようにハヅキは顔を上げた。
それから、ぎこちなく、どこか照れ臭そうに彼は微笑んだ。
「さんきゅー、セイヤ。俺頑張るよ」
この時。
胸を擽るような、そんな感覚がふいに自分を襲った。
なんだ…?
内心首を捻りつつ、他のモデル達と共に撮影に入る。
やはり初めての撮影ということもあり、ハヅキからどこか緊張した表情がとれることはなかった。
隣でそっと様子を伺いながら、合間を縫って助言をしていく。
自分の助言にひとつひとつ真剣に耳を傾け頷くハヅキ…
―――撮影を無事終えることになっても、不思議とその感覚が胸の内から消え去る事はなかった。