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異世界調査団

長編は三作目です。他では戦争ばかり書いていますが、今回は戦争はありません。

ただ、複葉飛行艇で旅をする話を書いてゆく予定です。

主役はフェリックストゥ飛行艇です。

この優雅な美しい飛行艇をちゃんと描写できるかが心配です。


お楽しみいただければ幸いです。

 世界(テラは十年前に異世界ソスとファーストコンタクトした……らしい。




 受験に失敗した。

 こんな事は、世の中に沢山あるだろう。

 だが、自分の身に起ると、けっこうキツイ。


 さて、どうしたものか。


 普通に考えれば、予備校にでも行って再受験の道をするか、大学を諦めて就職するかだ。


 再受験したい気持ちもあるが、僕は個人的な事情から再受験を諦め職を探した。

 しかし、景気低迷のあおりからかアルバイトやパートの募集はあるが正社員のは無かった。

 もっと早くから探せばよかったのだが、まさか不合格とは思わなかったのだがらしかたがない。


 そんなこんなで進路指導課の掲示板を見ていると。

『第十八回 異世界調査団 一般調査員の募集』

 とのポスターが目に入る。


 そう言えば、そんな事もあったな。

 毎年のごとく調査団とやらを送り出すが、この十年の間に成果らしいものがあったとは聞いていない。

 社会の時間に記録映像をみたけれど、エルフやドワーフが住む魔法のある世界だとかで、正直に言うと出来の悪いファンタジー映画を見ているようだった。

 この調査団も毎年の予算委員会では、無駄な支出でるあるとして削減を要求されながら、一部の議員の熱心すぎる活動によって今年も実施されるらしい。

 熱心すぎる議員は、ファンタジーオタクに違いない。もしくはエルフスキーとか……


 まあ、就職のあても進学のあても無い、今からなら募集にはギリギリで間に合いそうだ。


 僕は、募集要項下にあるコードをスマホに読ませて募集サイトに入り必要事項をアップロードした。

 アッと言う間に返信のメールがきて、その内容は説明会の日時と会場の場所などの情報。

「履歴書がいるのか……まあ、当たり前だよな」

 服装は自由って書いてあるけど、無難に学生服を着て行こう。



 アッと言う間に日にちが過ぎて……当日の異世界調査団説明会会場。


 周りには、背広を着たおじさんから皮ジャンパーを纏ったお兄さん。

 一人だけ同じ年くらいの女の子の姿もあったが、彼女は作業服というかツナギと言う奴を着用していた。その上、手には工具箱まで持っている。

 もしかして、募集で来た人ではなくて、単に居合わせただけの作業員のお姉さん?

 そんな事を考えていたためか、僕と彼女の目線が重なった。

「あっ、その制服知ってる」

 と彼女が声をかけてきた。彼女は僕の通っている学校を知っていた。

 彼女は自分の通っている学校名前を言って。

「知ってる?」

 と聞いてきたが。

 知ってるもなにも、駅を挟んではいるが、ものすごく近所のカトリック系女学校だった。

「えっ! キミはあそこの生徒なの?」

「そうだよ。もう中学からずっと女学校でね……もしかして、疑っている」

 はい、実は疑っています。

 まあ、女学校に対する偏見かもしれないけど、あそこの学生って『お嬢様』って雰囲気があって近寄りがたいと思っていたんだ。

「そう思っている人は多いんだよね」

 困ったものだとばかり肩をすくめて嘆く彼女。

「そんなお嬢様が、ツナギ服を着て異世界調査団の説明会に来るなんて……信じられない?」

 僕は素直に首肯した。

「あはは、正直だね」

 彼女は軽く笑って。

「私は有馬美紀ありま・みきだよ」

「僕は佐藤哉太さとう・かなたです」

 流れで自己紹介をしてしまった。

「ならカナちゃんだね」

 いや、カナちゃんはチョット困るな。

「じゃあカナタでどう?」

 いきなり呼び捨てか、とも思ったが。カナちゃんよりはズッとましなので。

「じゃあ僕はミキって呼ぶよ」

 とチョットだけ意趣返しをしたが。

「ああ、それでイイよ」

 と、彼女は笑顔で返してきた。

 やるな。

 もしかして、僕の苦手なタイプかもしれない。


 しかし、ミキさんは、ずいぶんフレンドリーな人だ。

 異世界に行こうと思う人ってのは、こんな感じの人ばかりなのかなあ。

 そう思って周囲を見回すと、なんだか暗い雰囲気の人もいる。

 明るくフレンドリーな人ばかりではないようだ。

 まあ、当たり前だね。


 会場は、自治体が運営する公会堂の大会場だったが、集まって人は二〇人くらいだろうか?

 これなら、小ホールでも十分に間に合うと思う。

 三百くらいはある席に、応募者がバラバラに座りだす。

 僕も適当に座ろうと思っていたのだが。


「カナちゃん、こっちに座ろうよ」

 とミキさんが僕を引っ張って講台前最前列に座らされてしまった。

 いや、今『カナちゃん』って言ったよね。


 講演の内容は、ニュースやネットにも上がっている一般的な異世界ソス情報だけで、途中から眠たくなってきたが、横を見るとミキさんが目を輝かせてつまらない話を熱心に聞いていた。

 こんな話をここまで熱心に聞くなんて、変わった人だ。

 と、最初は思ったけれど。

 まさか、僕みたいに眠くなる人の方が珍しいとか?

 なんて事が心配になって周囲を見回すと、やっぱり居眠りをしている人が一人二人……結構いる。


 と言う事は、彼女の方が少数派か。


 

 つまらない講習会が終わり、適正テストがあるとの事だった。

「適正テストって?」

 ミキさんはキョトンとして僕に聞いてきた。

異世界ソスの環境に対する適正のテストだよ。募集要項にあったでしょう?」

「ああ、そう言えば……」

「特に魔法素マナとの適正とかが大切って書いてあったよね」

 向こうの世界には、こちらには無い魔法素マナと呼ばれるものが空間に含まれるらしい。

『空気に含まれる』では無く『空間に含まれる』と表現されている意味が良くは分からない。

「魔法が使えるって本当かな?」

 ミキさんはワクワク全開で聞いてきた。

 もしかして、魔法マニア?

「適正があって訓練すれば可能らしいけど、あまり魔法に適合すると帰れなくなるらしいよ」

 募集サイトの注意書きに書いてあったのだが、魔法が自由に使えるくらいに適合すると現世界テラに帰った時に体調を崩してしまうらしい。

 酷いと、ずっと異世界ソス暮らしをしないといけないとか……

「魔法が使えるならさ。帰れなくってもイイよぉ~」

 大丈夫なんだろうか、このミキさん


「次の部屋では、魔法素のアレルギー反応を調べますから気分が悪くなった人はすぐに言ってください」

 ああ、やっぱり気分が悪くなる人がいるんだな。


「名前を呼ばれた方から、一人づつ入ってください」

 名前を呼ばれて緊張して入室したが、会議室のような部屋の中央にはコットン布を縫ってつくられたテントがあるだけだった。

「金属のもの、特にスマホや時計は外してください」

 トレイを持った係員が促す。

 

 で、テントの中で1分ほど座っていれば良いらしい。

 テントの中には何かの結晶らしいモノが陶器の皿に載せてあり、木製の椅子があった。

 随分と華奢で変わったデザインの椅子だった。

「大丈夫かな?」

 体重を乗せると椅子はチョットだけ軋んだが、壊れる様子はない。

「へえ、意外に丈夫なんだ」

 僕は体を揺すって椅子の強度を試してみたが、これなら僕が二人乗っても壊れないくらいには丈夫そうだった。

「はい、終わりましたよ。気分は悪くありませんか?」

 一分経過したらしく、係員が声をかけてくれた。

「大丈夫です」

 僕は椅子から立ち上がり、ガッツポーズをした。

 係員が少し笑ってから、僕に預けた荷物を返してくれた。


 こんなテストで気分が悪くなる人がいるのかな?

 だが、出口の廊下にはストレッチャーが並んでいて何人かが横たわっていた。他にも顔が真っ赤になって床に座り込んでいる人もいる。 

 酔っ払いに見えるが、たぶん『魔法素マナ不適合者』だろう。

 でも、多すぎないか?

 僕の前には十人くらいが適合テストを受けていたが、体調を崩したように見える人も十くらいはいる。

「……僕以外の全員?」

 驚いて係員に聞いてみると。

「ええ、魔法素マナに適合できるのは一割以下ね。でも、適合できなくても調査団には参加できますよ」

 意外な返事が返ってくる。

「こちらの世界でやらないといけない仕事も結構あるの」

 へえ、そんなものか。

「カナちゃんも大丈夫みたいね」

 と、ミキさんが声をかけてきた。

 元気な様子を見ると魔法素適合できた様子。

「ミキさんも、調子よさそうですね」

「もちろんよ」 

 僕らを見ていた係員が。

「まあ、二人も適合だなんて、今回は多いわね」

 どうやら、二〇人中二人でも多いようだ。

「じゃあ、あなた達はコレね」

 と、青い大型封筒を渡された。

 僕ら以外の人は黄色の大型封筒を貰っている。

 どうやら、魔法素適合すると青いのを渡されみたいだ。

「あなた達は異世界ソスへ渡れるかもね。がんばってちょうだい」

 係員に励まされてしまった。

 もしかして、期待されている?

「がんばろうね、カナちゃん」

 ミキさんも人事のように励ますが、あなたもがんばるのでしょう?

「えっ? 私はがんばりすぎないほうがイイのよ」

 とミキさんは笑う。

 なんだそれ。

 とツッコミたい気持ちと、そうかもと納得した気持ちが同時におこる。


 説明会が終わり、僕は最寄の駅から帰ると告げると。

「私は地下鉄なの。残念だけど、ここでお別れね」

 ミキさんが手を出してきた。

 僕は、少し躊躇してからミキさんの手を握り。

「今度会うのは異世界ソスかな?」

「そうかもね」

 ミキさんは手をパッと離し、地下鉄駅に向かって歩き出した。


 そう言えば、同年代の女の子とこんなに長く話したのは久しぶりだなあ。

 なんて、お気楽な事を考えていた。


 

 じゃあ、異世界に旅立つ前に最後の仕事をしますか。


 僕は駅で母が死んでからの6ヶ月間、一言も話をしていない同居人にケータイをかける。

「お義父さん、僕は異世界ソスへゆくよ」

 義父(母の旦那)からの返事は『分かった』だった。

次回でエルフが登場予定です。


別で連載している『大砲姫』も近日中に更新します。

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