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ハンナ後編“美しすぎて強すぎて”

ママと久しぶりに一日を過ごし、翌日わたしはハンネちゃんとガスパールで待ち合わせた。いつものようにアイスコーヒーを飲みながら待った。

数分後、カランコロンとドアが開きハンネちゃんが入って来た。

「おはようアリサちゃん、待った?」

「んー今来たところだよ。」

「そっか、ところで凄く良い匂いですね。」

「お!ハンネちゃんは分かるかね?良かったら飲んで。」

ブラックマンは嬉しそうにブルーマウンテンをカップに注ぐ。

「ありがとうございます!」

「どーせわたしゃ豆の味もわかりませんよーだ。」

ふてくされてストローを咥える。ブラックマンはまぁまぁといった顔で飛行艇の鍵を置いた。

「アリサちゃん、用意は出来ているからね。」

「ありがとう、ブラックマン。」

「気をつけてね。どうやら今回はフランスとアメリカに動きがあり、それと…。」

「それと?」

ブラックマンは少し心配そうな顔をした。

「不確かな情報ですまないが、先日の護衛対象が参加した闇オークションの人間が次々と行方不明になっていてね。目撃情報も無い。つまり、護衛対象も狙われている可能性が高い。」

「…なかなかバッドな情報ね。」

わたしは鍵を受け取るとハンネちゃんと一緒に地下へ向かう。地下室は格納庫になっていて小型飛行艇はそのままカタパルトで地上へ射出される。初見のハンネちゃんを案内した。

「わぁ。私、飛行艇は初めて。」

「旅客機と違って早いわよ〜。運転もAiがやってくれるし楽ちん楽ちん。」

「ふふ、なんだかワクワクしてきました!」

私は飛行艇を起動させ、シンガポールへ向かった。



シンガポールに着くとサダム氏の使いが迎えてくれた。

「お待ちしておりました。ミューラー様、キリシマ様。主はマリーナベイサンズにてお待ちしております。」

「…グッドね。憧れのサンズだわ!」

「アリサちゃん、お仕事よお仕事…!」

「分かってるわよー。ちゃっちゃとやりましょ!」

わたし達は車でマリーナベイサンズへ向かった。

「あ!アリサちゃん見て見て!あれ!」

ハンネちゃんが指差す先には口から水を吐き出すマーライオンの像があった。

「わぁ!思っていたより大きいねぇー。ってハンネちゃん。仕事よ、仕事。」

「わ、分かってる…。」

ハンネちゃんは恥ずかしそうにうつむく。


わたし達はホテルに着くと5階にあるVIPルームへ通された。VIPとなると最上階かと思っていたが火災などに備えて直ぐに脱出出来るように低層階に設けているみたいだ。低層階とはいえさすがVIPルーム。広いのは勿論、何かわからない金のオブジェなどゴロゴロしていた。入口には覆面をした術者と思われる二人が座っている。わたし達はサダム氏が待つ部屋へ通され、そこにはターバンを巻いた小太りの男性が座っていた。サダム氏だ。サダム氏は手招きをして近くのソファに座るよう促した。僅かながら共鳴反応がした。

「ようこそ。ソーサリオンズの皆さん。俺がサダム・ハキームだ。」

「こんにちはサダムさん。わたしはサラ・ミューラー、彼女は霧島万音さん。フライクーゲルのソーサリオンよ。」

「あぁ。よろしく。早速だが、依頼内容を詳しく話させてもらう。…もちろん今回の報酬はこのソロモンリングだ。」

サダム氏が指輪を取り出して見せた。

「それが本物であるかはわたし達には分かります。今回はサダムさんを護衛し、無事に日本へお連れする事とお伺いしております。」

「おいおいおいおい、俺がなぜお前ら貧乏人の国に行かなきゃならねぇんだよ。俺は自由だ。だが、俺の命を狙うカスがいるらしいのでな。今回の任務は俺の命を守るのは勿論、その賊を討ち取って欲しい。」

「話が…違いますが?」

「おいおいおいおい、俺は最初からそのつもりだ。リングを渡す代わりに俺の護衛を依頼した。永続的に俺の平和を得るなら原因を排除するのが当然だろう?」

サダム氏はわたし達を指差してソファに深く座る。

「…分かりました。では具体的な作戦ですが、サダムさん貴方は囮になって頂きます。」

ハンネちゃんがサダム氏に切り返す。

「おいおいおいおい、何で俺が囮に?」

サダム氏は冗談じゃないと手を振った。

「…おそらく状況はかなり悪いですよね?貴方クラスの人なのに護衛の人数が少なすぎる。狙われているなら毛嫌いする我々ではなくご自身の手配で賊を討てば良いのにわざわざ我々に依頼をされている。」

「はぁなるほど確かに。」

わたしはふむふむと感心した。

「つまり、既に賊はサダムさんの護衛を減らし、放った刺客も返り討ちにあったのではありませんか?」

サダム氏は高圧的な態度を改め、前のめりになって話し始めた。

「おいおいおいおい。その通りだよお嬢さん。オジさんビックリだよ。百人程いた俺の護衛は消えてしまってな。消えたんだよ、死体もなく。怖えよ。大ピンチなんだよ。」

「入口の二人は?」

「…専門家によるとこんな事が出来るのはソーサリオンしか考えられないらしくてな。現地の術師を雇った。」

「では、やはり向こうから仕掛けて来るのを迎え討ちまし…」

ハンネちゃんが作戦を伝えたその時だった。かなり強い共鳴を感じた。

「アリサちゃん…!」

「ええ…部屋の中に侵入したわね…!」

「おいおいおいおい!見張りはどうしたんだよ!」

「もう消されていると考えるべきね…。」

三人に緊張が走る。

「オルフェウス!」

ハンネちゃんは光の中から琴を取り出した。

「出でよ!オロバス!!」

わたしは魔術書を発動させ、空中に魔法陣を描く。陣からは小さい馬に乗った美少女が召喚される。

「おいおいおいおい!マジかお前ら!!」

「オロバス、敵はどこ?」

(あーらマスター。久しぶりじゃない?どうなの最近?相変わらずおっぱい小さいね。)

「…オ・ロ・バ・ス?」

(はーいはい。あそこ。)

わたしはオロバスが指差したドア向こうへ銃を向けた。

「そこまでよ!それ以上近くなら始末します!」

わたしは撃鉄を起こした。すると、ドアの向こうから低い男の声がする。

「…素直にソロモンリングを渡せば楽に殺してやる。」


ガァン!! ドサッ。


発砲した。ドア奥で何かが倒れる音がした。仕留めたか?わたし達はドアを開けるとそこには額に一発銃弾を受けた男が倒れていた。顔は蒼白い。

「コイツが刺客?」

するとサダム氏が怯えながら言う。

「おいおいおいおい、コイツは消えた俺の元ボディーガードだよ!!」

「…なんですって?」

(結構ピンチなんじゃない〜?入口に同じようなのがワンサカ集まってるし〜。)

「集まってるし?」

(そいつまだ動くよ。)

オロバスがそう言うと倒れていた死体がわたしの足を掴んだ。

「…チッ!バッドだわ!」

わたしはゾンビを踏みつけ掴まれた手を振り払う。


ガッシャァ!!


入口が破られゾンビ集団がなだれ込んできた。さっき入口にいた術師二人も宜しくそのお仲間になっている。

「おいおいおいおい!なんとかしろよ!!」

「アリサちゃん、この人たちに私の能力は聞こえていないわ!」

「オロバス!!!」

(合点承知ぃ〜)

オロバスの乗っていた馬が巨大化し羽を広げた。

「一旦引くわよ!」

わたしはハンネちゃんとサダム氏を馬に乗せ、凄い速さで窓を突き破り外に飛び出した。外の景色は凄く綺麗だったが、良く見る間もなく下の植物園に降りた。

「おいおいおいおい、凄いなおチビ!」

サダム氏がオロバスを感心した様子で話す。

(何このデブ。キモいんだけど。)

「オロバスは敵の居場所を察知する能力の他に一瞬だけ物理的ダメージを0に出来るの。ちなみに本体は馬よ。」

「おいおいおいおい、馬かよ。」

(は?キモい。)

「オロバス、あいつら何?」

わたしは突き破った窓から次々と落ちて来るゾンビを指差した。

「私のレクイエムも聞こえていなかったみたいだし、本当にゾンビ…?」

ハンネちゃんがカタカタと震えている。

(アイツらは只の操り人形。死体に自分の気を練り込み動かしているんだ。単純だけどまぁまぁ厄介で悪趣味だよね。)

「で、オロバス。本体はどこ?」

(いるよー。あそこに。)

オロバスが指を指した先にはフードを被った少年のような人間が立っていた。いつの間に…全然気配がしなかった、というよりは認識出来なかった。フードの少年はオロバスを指差す。

「キミ、邪魔。」


パォォォォォン!!!!!


何かの咆哮の瞬間、オロバスの本体である馬が一刀両断にされた。

(あらら…。ごめんねマスター。)

オロバスは空中で魔法陣となり消えた。オロバスを切ったそれは、頭は象で体は人間、手は4本あり刀を握っていた。

「こいつは…ガネーシャ?」

「おいおいおいおい!来るぞ!」

ガネーシャは刀を構えるとハンネちゃんめがけて振り下ろした。わたしはハンネちゃんとサダム氏を突き飛ばしギリギリ一太刀を躱して銃弾をガネーシャの眉間に撃ち込むが、ガネーシャに全くダメージを与えれなかった。

「くっ!こいつもゾンビと同じ…!」

ガネーシャはまたもやハンネちゃんを狙う。こっちを見向きもしない…。

「ハンネちゃん!オルフェウスを解除して!」

「まさか、アークに反応しているの?」

ハンネちゃんはオルフェウスを解除したが、ガネーシャはかまわず刀を振り下ろす。わたしはとっさに魔術書を発動させる。ガネーシャの動きが鈍る。

「やっぱり!タネが分かれば後は本体を仕留めるだけね!」

「ハンネちゃん!ここはわたしに任せてオッさんを連れて逃げて!必ず追いかける!」

「でも…!」

「今仕留めておかないとコイツはもっと人を殺す!オルフェウスがないハンネちゃんとオッさんは今守る余裕がない!だから…行って!」

「………わかった!でも必ず生きてね!」

ハンネちゃんは頷くとサダム氏を連れて走った。さぁーてと、隙を見てアークを発動しようにも攻撃してくるし銃は効かないし。結構バッドな状況ね。やはり本体を討たないとダメか…!わたしは身を翻して植物園の中を疾走した。ガネーシャの動きは鈍重だ。気配を消して本体のフードの少年を狙撃する事にした。ツリーの上に陣取りフードの少年を捕捉した。わたしの撃った銃弾は、対象を視認できていれば必ず命中する。わたしはフードの少年を狙撃した。


ダァン!


命中。フードの少年は糸が切れたように膝を折る。…ここで想定外な事が起きる。ガネーシャが止まらない。わたしはまた身を隠す為、植物園を疾走する。


「ハァハァ…こんなの聞いてないわよ…!どうしよう…。」

わたしは大樹に身を潜め一か八かソロモンの魔術書を発動させた。

「出でよ!グラシャラボラ…」


パォォォォォン!!!!!


凄まじい咆哮に動けなくなった。ガネーシャは先ほどとは違うかなりの早い速度で切りかかってきた。…まずい!ガネーシャの剣が振り下ろされ目の前が真っ暗になった。


ドォォン!!


死…


死んでいない!わたし生きてる!目を開けると金髪ムチムチナイスバディのお姉さんがガネーシャの剣を手で止めていた。…信じられない。直ぐにハンネちゃんとサダム氏も走ってきた。


「あんたラッキーだねぇ。ギリギリ間に合ったよ。」

金髪のお姉さんはガネーシャの剣を振り払い、長い髪をかきあげた。凄くセクシーだ。

「あ、ありがとう…。」

「いーってよ。私は元アメリカ陸軍SMFGのハンナ・モルガン大尉だ。」

ハンナ…モルガン…。

「あ!」

わたしはふとキョーコが見せてきた雑誌に載っていた女性の顔を思い出す。

「あなた…グリーンベレーの!」

「おや?嬉しいねぇ私を知ってくれて。元グリーンベレーさ。今はアンタの仲間だよ。履歴書は無いけど雇ってくれよな。」

ハンナさんはそう言うとグローブ型のアークを発動させた。ガネーシャがそれにすかさず反応し、ハンナに斬りかかる。

「ハンナさん!ガネーシャはアークに反応して襲ってくる!」

時すでに遅しかと思った。が、ハンナさんはガネーシャの斬撃よりも早く懐に潜り込み巨足を掴んだ。

「ヘカトンケイルゥゥゥ!!!」

次の瞬間、ガネーシャの巨体が片足タックルで倒された。なんてパワー…。ハンナさんはガネーシャが動かなくなるまで殴り続け、ついに動きを止めた。

「やった…!!」

「凄いです!」

「おいおいおいおい…!」

ガネーシャを倒した。わたし達は先ほど射殺したフードの少年の死体を調べようと向かったが、死体は忽然と姿を消していた。

「いない…!たしかにここに倒れていたのに!」

「おいおいおいおい、またゾンビかぁ?」


ぱちぱちぱちぱち。


すると頭上に先ほどの少年が宙に浮かんで手を叩いている。わたしは銃を構えた。少年が口を開く。

「ガネーシャを倒すなんてお見事ですよ。特にそこの金髪のお嬢さんが素晴らしい。」

「わたしは結構いい歳だぞ。お嬢さんとは君は幾つなんだいボーヤ?」

「私はこう見えて君たちよりずっと年上ですよ。…おっと自己紹介が遅れましたが、私の名前はアレイスター・クロウリーJr.と申します。以後お見知り置きを。ソーサリオンズの皆様。」

「あ、アレイスター・クロウリーですって?」

「ハンネちゃん、あいつ知っているの?」

「カビの生えた伝説よ。大昔に実在したと言われる大魔術師クロウリー。彼は天候を自在に操る事で世に天災を呼び起こしたり、錬金術で水を金に変えたり、屍人を蘇らせるネクロマンシーだったり…。」

ハンネちゃんは空想ね人物と言い切った。

「まぁ真実は闇で良いでしょう。今日は手駒がつきましたのでまた…。」

そう言うとクロウリーは姿を消した。



わたし達は飛行艇にサダム氏とハンナさんを乗せ、日本へ飛び立った。自身をクロウリーと名乗る謎の少年は何者だったのだろうか…。


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