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猪瀬エリカ編“涙と矛盾”

アタシの名前は猪瀬エリカ。魔法学園フライクーゲルに通う高校一年生よ。表の顔はスタイル抜群、ピチピチの女子高生。裏の顔は世界中のアークを集めるトレジャーハンターなの。盗賊と一緒にしないでよね!当然、危険はつきもの。この間も、もう少しで頭をカチ割られて死ぬところだったわ。…アリサさんには感謝しないとね。アタシはあるアークを探している。まだそれは見つかっていないわ…。

アタシは10歳の誕生日を迎え、その時は、両親と一緒にアメリカに住んでいたわ。あれからもう六年…。時が経つのは早いものね。両親は二人ともアークを研究する魔法学者だったの。政府機関で働き、それなりに裕福な家庭で育ったわ。幸せだったのに…。あの男が現れて全てを失ったわ。幸せな家庭も両親も穏やかな人生も。


「ハッピバースデイ!エリカちゃん!」

「わぁ!パパ、ママ、ありがとう!」

アタシは大きな熊のぬいぐるみをもらい、凄く凄く喜んでいた。

「エリカちゃんも、もう10歳かぁ。パパはエリカちゃんが生まれた時は仕事を休んでママと一緒に神様にお祈りしたんだよ。」

「神様に何をお祈りしたの?」

「この子を授けてくれてありがとうって。エリカちゃんが幸せな人生を送れますようにってね。」

「ふふふ。エリカ幸せだよ!」

「ハハハ。」

アタシ達は幸せだった。ずっとこの幸せが続いていてくれたら…。アタシの手はこんなにも汚れなかったのに…。


プルルルル


悪魔の電話が鳴った。

「おっと、電話だ。…はい猪瀬ですが。…はい。…はい。……本当ですか!!…はい!承知致しました!…はい、それでは明日!…えぇ、宜しくお願いします!」

「…パパどうしたの?」

ママが不思議そうに尋ねる。

「ハハハ!ママ、やったよ!僕らの研究報告書をやっと上層部が認めて、ついに予算と人員を投下してくれるみたいだ!」

「なんてこと…!」

パパもママも嬉しさのあまり泣いていた。

「明日、正式に発表される。どうやらミューラー博士が上層部に強く推してくれたらしいんだよ。…エリカちゃん。今日は本当に素晴らしい日になったよ。」

「本当?エリカも嬉しい!」

パパとママはアークが持つ個々のエネルギー数値が指紋やDNAの様に個体によって微妙に数値が異なる事を証明したの。アークによる契約には失敗のリスクがあったけど、契約者のエネルギー数値が対象のアークのエネルギー数値と近似値であればあるほど、成功する可能性が格段に上がるのでは、という仮説を上層部が興味を持ったという事だった。事実この仮説は正しかった。その後、博士を加えてパパの研究チームを再編し、ある実験をもって実証された。

その実験の一週間前、博士がアタシ達の家を訪れたの。博士は隻腕で、昔の実験事故で片腕を失ったらしい。


「猪瀬くん、研究もいよいよ大詰めだな。後は…実証あるのみだ。」

「はい、博士。しかし、実証するには適正者を探さないと…。しかも成功する可能性は100パーセントではないので、慎重に行わないといけませんね。」

「…そうだな。囚人でも使おうか?」

「いえ。囚人となってきますと我々と機関が違いすぎますので中々認可を取るのは難しいですね。やはりもう少し研究を重ねて、確実に成功する確証を得る必要があります。」

「…猪瀬くん。研究を持続させるには金も時間もかかる。もうチームが再編されて一年が経とうとしている…。既に上から実験の催促がきているのだよ。」

「し、しかし博士…。」

「実はな、先日エーゲ海近くの遺跡から、あるアークが発掘された。アメリカ政府のソーサリオンが遺跡の探索中に共鳴したらしい。報告を受け、現場に兵士を派遣したのだが、そのソーサリオンはアークの前で石化していたのだよ。」

「石化…。そのアークは、まさか…!」

「あぁ。おそらくこのアークはキミも研究していた、女神アテナのスーパーアークであるアイギスの盾の可能性が非常に高い。」

「アイギスの盾…。おそらく石化はゴルゴンのメデューサの力ですね。」

「そうだ。上は一刻も早くこの力を兵器として運用したいのだそうだ。だが、力を制御出来ないのでは意味が無い。それにはアークを制御出来る器を用意し、更にそこから研究を重ねないといけないのだ。」

「器!?…まさかホムンクルスですか?…あれは禁術です!知られれば我が国を筆頭に世界中でモラルハザードが起きますよ!」

「フフフ。猪瀬くん、そんなものはとっくに起きているさ。いつの時代も研究には犠牲がつきものさ。」

「そ、そんな…。」

「…ところで、このリストを見てくれ。これは我々が現在保有するアークとそれに対する適正者リストだ。」

「い、いつの間にこんなリストを…。………!!」

「気づいたかね?」

「は、博士…。わ、私の娘と同姓同名がいるのは偶然…でしょうか?」

「もちろん君の娘だ。…フフフ。君たち親娘は本当に適正値が高い。」

「…親娘!?…わ、私の妻は…。今日は研究で帰れないと、言っていたのは…まさか!」

「もちろん嘘だ。今頃はアイギスの器として、ホムンクルスとして生まれ変わっているのでは無いかな?」

「き、貴様ぁぁぁぁぁ!!!」

パパは激昂し、博士に掴みかかったわ。アタシはびっくりして二階に走って逃げようとしたの。でも直ぐに兵士達が入ってきて二人とも捕まったわ。

「パパ!パパ!」

「え、エリカ…。頼む!む、娘だけは助けてくれ!ま、まだ10歳なんだ!」

パパは泣きながら訴えたわ。

「フフフ。猪瀬くん、君は本当に優秀だったが、サラリーマンには向いていないな。その無駄に正義感が強いところがあの女とそっくりだよ。綺麗事ばかりで、吐き気がするのだよ貴様らには。」

「お、お願いします…博士…。」

「もう良い。君は死ね。」


パァン!


…パパは目の前で撃たれて死んだわ。アタシは泣き叫びながら抵抗したけど無駄だったわね。アタシは薬を打たれて意識を失ったわ。

気がつくとアタシは裸にされて、実験室に閉じ込められていたわ。実験が開始されるまでずっとずっと悲しみと怒りで泣いていたわ。何日も経って、涙が枯れ果てた頃、あの男が入ってきた。

「猪瀬エリカ。君のお父さんとお母さんは残念だったが、これも国、世界の為の犠牲だ。忘れたまえ。」

アタシはこの悪魔を殺そうと飛びかかったけど全然ダメ。子供が大人に敵うわけないもの。

拘束着を付けられ、暫くして目の前に青い宝石が運ばれてきたわ。

「それでは実験を開始する。被験体とアークを同調させろ。」

アークの魔法分解が始まり、目の前の青い宝石はエネルギー体へと姿を変えていった。アタシはもう抵抗する気力も無かった。全てを諦めた時、ふと目の前に女の子が立っていた。

(あなたはだれ…?)

(…エリカさん。私は水精メアヴァイパー。貴女の目には私はどういう姿で写っているかしら。)

(あ、あ…。)

アタシの目には、彼女は青い髪に羽根を生やし、槍を持った姿に見えていた。

(人は私を人魚に見えたり、時には悪魔にも見えたりするわ。私は貴女の望む姿なの。羽根を生やしているなら空を飛んで逃げたい、槍を持っているのなら、貫きたい何かがあるのね。)

(エ、エリカは!こいつらを許さない!)

(…そう。私の力を貴女に授けましょう。…でも我慢なさい。今はまだ彼等には勝てないわ。私は転生していきなり死ぬつもりは無いの。時を見て脱出するのよ。)

(わ、分かった。エリカ我慢する…。)

(偉いわ…。)

メアヴァイパーのエネルギーはアタシのエネルギーと同調した。アタシの胸に青い宝石が埋め込まれ、髪は青くなり、瞳は緑色に変わった。身体は急成長し、10歳の身体では無くなっていた。


「フフフ、やったぞ!成功だ!…猪瀬くん、君は無駄死にでは無かったようだな。…女を回収して、部屋にぶち込んでおけ。直ぐにアイギスの実験に移る。」

アタシは今すぐこの悪魔を殺したい衝動を抑え、研究員に部屋へ連れて行かれた。次の実験まで拘留される予定だったらしい。アタシは脱出の機会とママを助ける機会を待った。

思ったより早くその時はきたわ。閉じ込められた翌日の深夜だった。

「お、おい、止めとけよ。博士にバレたら殺されるぞ?」

「バカ、お前が黙っていたら大丈夫だよ。このガキ、契約したら急に色っぽくなりやがって!我慢できねぇよ。」

部屋の鍵が開けられ、二人の研究員が入ってきた。どうやらアタシを襲うつもりみたいだったけど、残念だったわね。

「行くわよメア。今がチャンス!」

アタシはアークを発動させると、コウモリの様な翼が生えた。真っ黒のバトルスーツは胸だけがガバリと開けていた。最初は何でこんな破廉恥な格好なのよと思ったけど、案外悪い気はしなくなったわ。

「な、もう発動出来るのか!?」

「お前たちは絶対に許さないわ。」

アタシは一瞬で男達を凍らせ、翼を広げて部屋から飛んで逃げた。研究所はパパに何回も遊びに連れて来てもらったから大体把握出来ていたわ。アタシはママがいる大実験場へ向かった。深夜なのはラッキーだった。警備が薄く、人もいない。案外外からの侵入は対策していても中からの対策は出来ていないものね。

大実験場に着くと“ママ”だった物質は八個ほどのカプセルに薬品液と共に入れられていた。カプセルのラベルには“inose”と書かれ、番号が振られていた。もう涙は出なかったの。哀れな両親を弔う為、全てのカプセルを破壊したわ。警報機が作動し、警報音が鳴り響く。アタシは最後にアイギスのアークが保管されているであろう柩を絶対に開けられないように、永久に溶ける事がない氷の魔法で封印したわ。アタシの力では破壊までは出来なかったのでせめて、ちょっとした時間稼ぎをしたかった。

パパの研究室に入り、今までの研究データとアイギスに関する資料を盗んで研究所を飛び出した。本当は爆破したかったの。でもそんな力は無かったわ。

その後、政府から追われる身になったアタシは、市街地に潜んでいたの。裸では目立つのでちょっと洋服を拝借して、金髪のウィッグも着けた。空腹に耐え、時には残飯を漁って飢えを凌いだわ。そんな最低の日々が続いたある日、アタシの前に初老の執事の様な男と、女神の様に美しい女性が現れた。

「…この子かしら?ブラックマン。」

「間違いありません、マスター。」

ブラックマンと呼ばれた男がペコリと頭を下げる。アタシは追っ手と思い、アークを発動させようとしたわ。

「止めなさい!」

「…!!」

女性が一括すると、アタシのアークは発動を止めた。凄い気迫だったわ…。

「私達は敵じゃないわ。むしろ貴女を助けに来たのよ。」

「ア、アタシを?」

「そうよ、猪瀬エリカ。貴女、アメリカ政府から国際指名手配されているわよ。私達がアイギスの調査をしていると突然研究所がオシャカにされてね。ビックリして研究所を調べると貴女の存在を知ったの。」

「どうしてアタシの場所が…?」

「彼、ブラックマンと彼女、オロチは人探しが得意なの。」

ハッとなり後ろを見た。全く気づかなかったが、アタシの背後に顔も体も黒ずくめの服に覆われた女が立っていたわ。

「…アタシはあの男…マルクス・ミューラー博士を殺し、そしてアイギスの盾を破壊する方法を探しているわ。」

「…やっぱりあの男が噛んでいたのね。」

「知り合い?」

「あの男とは、ちょっとした腐れ縁よ。…どう?その方法が見つかるまで私が運営する学校に来ない?貴女は一生その姿のままだし、小学校、中学校の学歴は私が用意するわ。15歳になったら私の学校に入りなさいな。」

「…お姉さんは、ソーサリオンなの?」

「そうよ。私の体も25歳から30歳の間で止まっているわ。実年齢はヒミツよ。」

「…アイギスは一旦封印したけど、いずれ破られるわ。パパの資料によると、アイギスを破壊するアークは存在する。“矛盾”のような関係のアークがあるの。…それが見つかるまで、助けてあげられてもいいわよ!」

「…ふむ。その話、詳しく聞きたいわ。じゃあ宜しくね、エリカちゃん。」

「メ、メアよ!アタシの名前はメア。エリカは女子高生の姿の時だけ…よ。」

「分かったわメア。じゃ、日本に行くわよ。」

「日本に?」

「そうよ。私の娘が日本にいるの。メアと同い年よ。仲良くしてあげてね。」

「…分かったわよ。オバ…お姉さんの名前は?」

「……私の名前はサラ・ミューラー。マスターと呼びなさい。」

「サラ…ミューラー!?…わかったわ、マスター。」

「宜しい。ブラックマン。帰ってアークの説明と組織の説明、話せるところまで話しておいて。」

「承知致しました、マスター。」


こうしてアタシは魔法学園フライクーゲルに入り、アイギスの盾を破壊するアークを探しているの。…ちなみにアタシは組織には所属してないわ。あくまでも高校生よ。


六年前からピチピチのね。


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