水原ジン編“冷たき追跡者”
俺の名前は水原ジン。魔法学園フライクーゲルに通う生粋の高校三年生だ。ハッキリ言って女にモテる。めっちゃモテる。クールを信条にキャラ作りをしているぜ。
この学校は世界中からアークの適正がある子ども達を学費無料でシード入学させている。理由は各国政府によるアークの適正実験にされない為の保護が目的だ。創設者のサラ・ミューラー校長はかつてドイツ政府所属のそれはそれは偉大な魔法学者だったが、アーク狩りに反発して政府機関を脱退した。フライクーゲルは表向き学校だが、実は政府に楯突く反アーク狩りの組織である。この学校の職員は全員組織に所属してるし、実は俺も生徒ながら組織の一員だ。
組織は全66人で構成されている。職員以外にも俺のように生徒であったり、海外にいるヤツも多数だ。組織には階級があり、階級別に給料も支払われている。階級は序列で決められ、ナンバーが若い順に高くなる。序列は、今までの功績や経験、能力によって決められる。俺はちなみに序列7位。まぁ、めっちゃ強いって事だ。
さて、今日から新しい任務がある。昨日の夜ブラックマンが指輪を持ってきた。組織からの任務は主にこの指輪を介して伝達される。装着すると精神エネルギーに反応して脳に直接情報が送られてくる。俺は任務が大嫌いだが今回は違った。俺の愛する女の護衛が今回のミッションだからだ。
「おはようアリサ。」
上からスカイボードに乗って今回護衛をするアリサ・ミューラーが降りてきた。
「…おはようございます、先輩。」
…白!風でスカートがなびき、パンツが見えた。この為に朝早く起きて学校で待ち構えてた甲斐がある。サラサラでセミロングの金髪がなびき、俺は悟られぬよう必死で整髪料の匂いを嗅いだ。アリサは色白でスタイルもいい。胸は普通だが、俺はこれくらいがちょうど好きだ。…おっといけない、あまりの可愛さに鼻血が出そうだったので適当に話をしておこう。
「アリサ、今日部活来いよ。一年生の君がサボっていたら部長の俺の顔が立たん。」
実際はどうでもいい。あぁ…しかし可愛い…。俺は校舎へ向かうアリサの後ろ姿を隠れていつまでも眺めていた。
昼休みになった。アリサの様子を見る為、一年生の教室に向かった。すぐアリサを確認し、尾行する事にした。これは任務だからな。仕方ない。アリサと一緒に歩いているのはクラスメイトの木崎涼子だ。アリサもこんなチビガキに付きまとわれて大変だな。本来なら俺が隣で歩いているのが自然じゃないか。まぁ仕方ない。アリサは優しいからな。
二人が学食に入ったので俺は誰にも気付かれないようにダクトに侵入し、二人が座っている席真上の天井に身を潜めた。上から眺めると、アリサは学食で人気の焼きそばパンとピーナッツサンドイッチ、それに牛乳を買っていた。チビはカツ丼を持っていた。ふん、品がない女だ。
放課後になった。アリサは尾行を警戒していたが、俺は簡単に気付かれる程、素人ではない。校舎裏へ回ったのを確認し、彼女のスカイボードがある場所へ先回りした。暫くして少し憂鬱そうなアリサが現れ、スカイボードに乗って学校を後にした。俺はしっかりと白のパンツを脳に記憶してからブラックマンがいるガスパールへ向かった。
地下へ降り、木製の扉のガラス越しに二人を確認した。唇の動きで会話を把握した。アリサが席を立ち、店の更に地下にある格納庫に向かったので、俺は店に入った。木製のドアを開けるとカランカランと音がなった。
「…いらっしゃい。お一人ですか?」
「白々しい。気付いてただろうジジイ。」
俺はブラックマンが片付けようとしていたアイスコーヒーを取り上げ、ストローに口を付けた。残った僅かなアイスコーヒーをズルズルと飲み干し、ブラックマンを睨んだ。
「…ジンさん。あまり良い趣味とは言えませんよ。」
「うるせぇな。いいか、良く聞けよ。アリサは俺の女だ。ババアの命令とはいえ、アリサにあまり危険な任務を与えるな。ケガでもしたらどうするんだこの野郎。」
「…善処致します。」
「今、アリサが飛んだな。俺もぼちぼち向かう。高速飛行艇の鍵をくれ。」
ブラックマンから鍵を受け取り、地下へ向かった。
「ご無事で。」
「うるせぇな。俺を誰だと思ってやがる。」
格納庫の高速飛行艇に乗り込み、カタパルトで出発した。
アリサの飛行艇を確認した。俺は少し離れた場所に着陸し、アリサの飛空艇に乗り込んだ。着替えた後の制服を見つけ、顔を埋めた。…凄く良い匂いがした。暫く堪能した後、森に入り追跡を開始した。
アリサはすぐに見つかった。彼女は戦闘には余り向いていない。足跡や木々の通過跡から簡単に追跡できた。俺が敵ならもう殺っている。じっくりとアリサを監視した。はぁ、何て可愛いんだ…!途中アリサが俺の熱い視線に気付いたのか、周りを見回して走り出した。何て隙だらけなんだ。やはり俺が付いていないとな。俺は振り切られる事なく古城まで監視を続けた。
アリサが城の裏手に回り、城壁を登ろうとしていた時、ハゲが後ろから彼女に接近してきた。殺そうか迷ったが敵意は感じ取れず、今殺ってしまうと監視がバレてしまう。任務失敗はババアの信用が落ちるし、とりあえず、いつでも狙撃出来るように構えて監視を続けた。
暫くして二人が城内に入っていった。空間が歪むのを確認し、ハゲが敵に間違いない事を確信した。その時最上階に謎のデカ乳女が侵入するのが見えた。なるほど、敵さんは最上階にいるらしい。アリサの気を感じつつ、ハゲのテリトリーに入らないように城内に侵入した。
暫くしてハゲが出てきた。こいつの力如きではアリサは始末出来まい。空間を歪めて捕獲するだけのタイプだろう。俺はデカ乳が侵入した最上階を確認する為、少し離れた大木の上から双眼鏡で覗いた。中には司令官らしき男とハゲ、兵隊が十人程見えた。デカ乳女は窓から様子を見ていた。あの女、盗賊メアか。指輪を手に入れに来たのだろうが、残念。気づかれてるぜマヌケめ。
思った通り、直ぐに奴等との戦闘になった。司令官の指輪が光り、デカ乳女は倒れた。あの指輪…ソロモンリングに間違いないな。どうやって契約したかしらねぇが、あれがアリサに与えられた今回のターゲットだ。また俺は迷った。サッサと殺って指輪を奪うのは簡単だが、それだとアリサに怪しまれてしまう。何か良い方法は…。城内では司令官らしき男がデカ乳女を始末しようとしていた。その時、急にアリサの気が強烈に大きくなった。
バリン!
二発の弾丸がハゲを撃ち抜いた。…来たか!空間を破りアリサが現れた。あぁ、愛しのアリサ…。その二丁の銃で俺の心臓は既に撃ち抜かれているよ…。抱きしめに行きたい衝動を何とか抑え、窓から逃亡した男を追跡した。男は森を駆けていた。俺はワイヤーフックを使って木から木へと移動した。城からある程度走ったところで男が立ち止まった。
「もういいだろう。出てきたまえ。」
流石に気づいたか。どうやら雑魚では無いみたいだな。
「ハハ。気づいてたんだ。」
「阿保め。貴様が城を覗いていた時から気づいておるわ。」
「なるほど。俺も修行が足りないな。」
「小僧…知らぬ顔だが何者だ?」
「ふん。この業界で顔が知れ渡れば致命的だぜオッさん。まぁこれから冥土に送ってやるから教えてやるよ。俺はフライクーゲル所属、言霊の水原ジンだ。相手をしてやるぜ!」
「…ドイツ陸軍魔法兵隊大尉、ハンス・シュナイダーだ。相手をしてもらおうか。」
シュナイダーの指輪が赤く光った。
「小僧。私の力は精神の支配でな。頭が割れそうだろう?なに、殺しはせんよ。ちょいと操らせてもらう。お前の手であの小娘を殺すがいい。」
シュナイダーが喋り終わると俺は大きく欠伸をした。
「な、なにぃ!」
「おい、オッさん。何してるかしらねぇが俺に精神攻撃は通用しないぜ。」
「な、何故だ!小僧、貴様ソーサリオンではあるまい!アークの気配は感じられぬ…。」
「おいおい。俺をお前たちマジシャンもどきと一緒にするなよ。俺は言霊使い。精神は常に虚空であり、何人もそれを侵害出来ない。見せてやるよ、俺の言霊を。」
「あ、アカシックレコードか…。」
「ガイアの意思は宇宙の意思。お前の業は悪でしかないな。…臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前。」
九字を切り真言を唱える。
「オン、キリキリ、オン、キリキリ、オン、キリウン、キャクウン、ソワカ。」
手印を結び終わった時にはシュナイダーの身体は硬直して指一本動かせなかった。
「………っ!!?」
「不動金縛術。ハハっ、動く事も喋る事も出来ないだろう?言葉は言刃、如何なる武器よりも危ないんだぜ。」
「……………。」
俺はガイアの氣にアクセスし、同調した。空は雷雲が広がり、月明かりを隠した。
「木火土金水、土の氣よ。我が氣となりて、敵を殲滅せよ。雷霆!」
ドドン!
音と同時にシュナイダーの身体半分は雷に打たれ炭化した。
「…ぐはっ!」
そのまま地面へ倒れ込む。
「ついてなかったな、オッさん。相手が俺じゃなかったら…と思いな。因果応報、今までの悪業のツケさ。アンタのカルマは真っ黒に見えるぜ。」
「…殺せ。」
「すまないな、俺は殺さない。アンタを殺るのはホレ、あっちから急いで来ているお嬢さんさ。俺は彼女の護衛でな。悪いがアンタは落雷に直撃した事にしてもらうよ。」
「…水原ジン、先に地獄で待ってるぞ。こ、この屈辱、お、お前にも味わせてやる…ぞ…。」
俺はアリサに見つからない様にその場を離れた。数十秒後、アリサが現場へ到着した。その後、俺はアリサがオッさんの悪魔を封魔するのを高鳴る鼓動を抑えながら見届けた。
ハハっ。任務完了だぜハニー。