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アリサ編“小さな王”

わたしの名前はアリサ。16歳の誕生日にようやく念願のスカイボードを手に入れ、最近はもっぱらこれに夢中だ。ただ、制服のスカートがめくれ上がらないように注意が必要だが。

「行ってきます。」

両親はいつも不在。誰に言うわけでもなくわたしは家を出た。手に入れたばかりのスカイボードに乗り、スカートがめくれないように注意をして飛んだ。気持ちの良い朝の冷たい風を感じながら学校へ向かう。天気の良い日は特に気持ちがいい。自慢の金髪がサラサラとなびいた。今は肩までのセミロングだが、本当はもっと長めの髪が好きだ。

途中昼に何を食べようか、放課後は部活をサボってどこに行こうか…そうこう考えている内に学校に着いた。


「おはようアリサ。」

下を見ると三年生の水原ジンが立っていた。背は高く180センチほど、痩せているように見えるが少し筋肉質だ。長い黒髪は後ろで束ねられている。女子生徒からかなり人気があるのだが、彼女がいる噂は聞いた事がない。わたしは…イケメンが少し苦手だ。

「…おはようございます、先輩。」

わたしはスカイボードを駐めると、一瞥してそそくさとその場を去ろうとした。

「アリサ、今日部活来いよ。一年生の君がサボっていたら部長の俺の顔が立たん。」

水原先輩は射撃部の部長だ。この学校の生徒は必ず一つの部活に所属しないといけない為、射撃でシード入学したわたしは半ば強制的に入部させられた。

「はぁ…バッドだわ。」

軽く溜め息を吐き校舎へ向かった。


「おはよう!アリサ!」

教室に入るとすぐにクラスメイトの木崎リョーコが声をかけてきた。

「おはよう、リョーコ。今日も元気だね。」

リョーコは背が低く150センチも無い。パチリとした目に栗毛のショートボブで一見可愛らしい女の子…なのだが。

「ジャーン!!昨日、今月号の“拳王ナックルキング”を買ってきてさ、あたしゃ大満足だよ〜!ココ見てココ!」

リョーコは外見と裏腹に無類の格闘技オタクだ。嬉しそうにセンターページの見開きを見せてきた。軍隊服を着た女性のインタビューが載っていた。

「この人どこかで見た事があるわ。有名人?」

わたしの質問にリョーコは待ってましたと言わんばかりに解説をし始めた。

「チョー有名人よ!SMFG(Special Magic Forces Group)…グリーンベレーと言った方がメジャーね。この人は女性で初めてそこの分隊長になった人なの。それでいて超美人で超強いの!この間も世界異種格闘技戦でアメリカの陸軍代表で出場してね、それでね…」

ふんふん、と聞いていると教室のドアがガラガラと鳴り、マール先生が入って来た。

「はい。皆さんおはようございます。席に着いてね。」

バタバタとクラスメイトが席に着いた。リョーコは口パクで、あとでねと言い席に着いた。

マール先生は一年特務クラスの先生だ。イギリス人で背は170㎝くらい。キリっとした目にかけた赤縁の眼鏡が良く似合っていた。

「あら?今日は猪瀬さん、お休みかしら?」

「あ、エリカは今日体調不良みたいでーす!」

リョーコが答えた。

「そう。先生には連絡は来てなかったわ。…まぁ分かりました。さて、授業の前にこの間のテスト返します。」

先生はそう言うと一人一人の机の上にテストの答案を置いて回った。

「はい、アリサさん。いつも凄いわね。」

ニッコリと笑って全問正解の答案を渡された。しかし、わたしの顔はムムッと曇った。答案の下で黒い封筒を一緒に渡されたからだ。

「…ありがとうございます。」

席向こうではリョーコが追試の宣告を受け、この世の終わりを見た様な顔をしていた。


放課後のチャイムが鳴った。わたしの顔は相変わらず曇ったままだ。リョーコの朝の話の続きも、追試の愚痴も、適当に相槌を打って聞いてしまった。理由は渡されたこの黒封筒のせいである。

内容は


カラスより指輪を受け取り、これを完遂せよ


「はぁぁ…バッドだわ。」

分かっていたが任務だ。わたしは水原先輩に見つからないように校舎裏から出てスカイボードが停めてある場所に回った。

学校を出るとすぐにいつもの喫茶店に向かった。市街地より少し離れた商店街の路地裏に喫茶店“ガスパール”はある。地下に降り、木製のドアを開けるとカランカランと如何にもレトロな音を立てた。

「いらっしゃい、アリサちゃん。」

初老のバリスタがニッコリと目を細めた。髪は白髪と言うよりは銀髪に近い。銀縁眼鏡の奥には綺麗な青い瞳が見える。

「こんにちは、ブラックマン。」

わたしはカウンター前の椅子に腰掛け、アイスコーヒーを注文した。

「アリサちゃん、いつも言うけど珈琲はホットじゃないと豆本来の味が薄れて勿体無いよ。」

ブラックマンは溜め息混じりにグラスを手に取る。

「そうね。でもわたし猫舌なの。」

アイスコーヒーと一緒に緑の宝石が付いた指輪を受け取った。

「今回は一人だよ。気をつけてね。」

「対象は?」

「詳しくはそれに。おそらくローマとドイツが動いてる。」

「そう。ありがとう。」

ストローを口から離して指輪を嵌めた。パチリと小さく音が鳴る。同時に頭の中に声が流れ込んできた。


三日前、トイトブルグの森にて。我々が依頼しているドイツの民間調査隊より森の古城からソロモンリングを発見したとの報告があった。封魔種は不明。だが昨日、この調査隊との連絡が完全に途絶えた。至急、現地に飛び調査隊の安否確認及び発見されたソロモンリングを入手せよ。今回は緊急の為、サポート無しで任務を完遂せよ。


「ソロモンリングですって…!!厄介だわ。」

わたしは急いでアイスコーヒーを飲み干し席を立った。

「ご無事で。」

ブラックマンは一瞥して軽く頭を下げた。

「急がなきゃ…!」

わたしは地下にある小型の飛行艇に乗り込んだ。目的地を入力し、エンジンをかけた。飛行艇は瞬く間に地下の滑走路を走り抜け空へと飛び出した。



《同時刻ドイツ、トイトブルグの森にて》


(はぁ。はぁ。化け物め…!我がローマ魔法兵団が全滅だと!?…このまま撤退しても俺はタダじゃすまねぇが…ソロモンリングさえ持ち帰れば何とかなる!)

ローマ陸軍魔法兵団分隊長のエンリコ・グッチは焦っていた。トイトブルグの森にてソロモンリングが発見されたと情報を入手。現地へ来たが奇妙な攻撃を受け、隊は全滅してしまった。

(必ず逆襲してやるぞ…!)

偵察に向かおうと歩き始めたその時、突然上から巨大な氷塊が落ちてきた。ズズンという音が響く。エンリコはギリギリ躱す事が出来た。見上げると落下してきた氷塊の上に女が立っていた。青い髪に色白の肌、真っ黒のバトルスーツは胸の部分がガバリと開き、青い宝石を付けた豊満な胸が強調されていた。

「見つけたわよ!」

「くっ!!何者だ!」

エンリコはすぐに戦闘態勢に移る。

「あらぁ。良いオトコ。でもアタシを知らないなんてモグリねぇ。」

女はそう言うと、胸に埋まった宝石が青く光り始めた。その光から氷の礫が現れ、エンリコに襲いかかる。

「…!貴様、ソーサリオンか!」

エンリコは身を翻し、持っていた魔法銃を女に向けた。女の眉間にシワが寄る。

「よくも我が同胞を殺ってくれたな…!思い知らせてやる…!」

エンリコは右手で魔法銃を数発撃ち、左手を女に向けた。

「精霊シルフィードの名の下に…吹き飛べ!」

女が銃弾を躱すとエンリコの左手が一瞬ブレた。その瞬間、左手より衝撃波が発生し、一直線に女に向かった。

「ふふん、エア・ブラストねぇ。なかなか最近の魔法兵器は進化してるわね。」

女の宝石がまたも青く光ると、衝撃波は水滴となって大地に落ちた。

「…なにぃ!」

「ふふん。これだけ気温の低い場所なら大気中の水蒸気を凝結させる事なんて訳ないわ。もっともあなたの魔力が低いのも問題だ、け、ど。アタシをふっ飛ばすには力が足りないわよ!」

「…っ!!」

エンリコは敵わないと判断し、すぐさま逃亡を図った。

「逃がさないわよ!」

いつの間にかエンリコの足は濡れていた。それは急激に凍り彼の自由を奪った。

「…あぁ。ついてないぜ。」

エンリコは涙を浮かべたまま、全身が凍ってしまった。

「死にはしないわよ。氷が溶けたら動けるようになるわ。…しかしアークの反応はしなかったわね。だとするとリングはドイツ軍??」

女は腕を組み少し空を見上げ、すぐにその場を去った。



わたしは飛行艇を森の近くの平野に着陸させた。森からは邪悪な気がビシビシと感じる。とりあえずリングが発見された古城へ向かわなければ…。

暫く森の中を進むと、ローマ兵の亡骸を彼方此方で見かけた。奇妙な事にその全てに外傷は無い。しかし顔は苦痛に歪み、完全に生き絶えていた。ひどい…。人間の仕業じゃないわね…。

道中、誰かに見られているような気がした。いや、見られている。攻撃はして来ないが、ジトっとした何とも不快な視線だ。背中がゾワゾワした。とにかく立ち止まりたくなかったので先を急いだ。ようやく古城が見えてきた頃には日はすっかり落ちていた。ラーフェンスベルク城…今は城主がいない廃城だったわね。

様子を伺いつつ慎重に近づいてみると城門が開いているのが分かった。見張りらしき人影は見当たらなかったが、正門から入るのはリスクが高い。履いているウィングブーツを使って城壁を登ることにした。ウィングブーツは反重力の魔法が使われている。空を飛ぶ事は出来ないが、地球の十分の一程度の重力で動く事が出来て便利だ。

裏の城壁に周り、さて登ろうとしたその時だった。わたしは背後に何者かの気配を感じた。誰かいる…。気配を全く感じなかったわ…!

「あの。」

声がした。わたしは咄嗟に腰の銃を掴んだ。

「あ、あの、違うんです。私は貴女の敵ではありません!」

振り返ると男が両手を上に挙げていた。男は丸刈りで歳は40歳くらいだろうか。

「驚いたわ。全く気配を感じなかったもの。貴方は誰?」

わたしは腰の銃に手を添えたまま聞いた。

「あぁ、すみません。私はロベルト・マイヤーと申します。」

「アリサよ。で、ロベルトさんはここで何を?…観光って訳ではなさそうよね。」

わたしはロベルトが腰に身に付けている魔法銃を指差した。

「え、えぇ。私達はとある組織からアークの発掘調査を依頼されていまして、私はその調査隊の指揮を執っていました。」

「私達?執っていた?貴方は一人だし、どうして過去系なの?」

「…隊は全滅しました。更に発掘したアークを奪い去られてしまいました。」

「それは…ソロモンリング?」

ロベルトはコクリと頷いた。間違いない。彼が調査隊の生き残りだ。更にリングは奪い去られてしまった。状況はかなり悪い…。

「仲間は全滅し、私だけ何とか逃げる事が出来ました。隠密の技術だけは自信がありましたので、組織の方が助けに来るのを城の近くで待っていたのです。」

「で、わたしが現れた、という事ね。」

「そうです。申し訳ありません…。隊は全滅し、指輪も奪われて、私は…。」

ロベルトは顔を両手で覆い、肩は小刻みに震えていた。

「悪いけど泣いている暇は無いわ。今、城の中はどうなっているの?」

「あ、あぁ。そうですよね、すみません…。城の中は我が仲間達の亡骸と、ドイツ兵団が占拠しています。」

「ドイツ軍がいるのね。でも変ね…。見張りが一人もいないわ。」

「…確かに変ですね。でも、おそらく指輪を発見した地下にいると思います。」

「地下?」

「えぇ。城の隠し扉から地下へと続く道があり、奥の祭壇に指輪と魔法陣が発見されました。」

「魔法陣…。過去に一度は契約済みって訳ね。…分かりました。ロベルトさんは組織に報告してください。わたしは中に入って指輪を奪還します。」

ロベルトは首を横に振った。

「いいえ、私も参ります。道案内をさせてください。足手まといにならないようにしますので。」

「…死んでも知らないわよ。」

「えぇ。御心配不要です。私もこのままでは帰るに帰れませんよ。」

「分かったわ。行くわよ!」

私は正門に回り、正面から城に入った。気のせいだろうか、一瞬空間が歪んだ気がした。ロベルトの道案内のもと、城の地下へと降りた。

暫く進むと書物庫に出た。部屋というよりは大広間並の広さがあった。壁はぎっしりと書物で覆われていて…。

「!!」

わたしはギョっとした。ロベルトがいなくなっていた。それどころか、今来たはずの道が壁になっており、帰る道が無くなっていた。周りにはいくつか扉がある。わたしは扉を開け、くまなく歩き回ったが必ず書物庫に戻ってしまう。…バッドだわ。こんな事はあり得ない。…お城に入った時から、既に攻撃されていたって事ね。

わたしは左右の腰に装備していたガンホルダーから左と右それぞれの拳銃を取り出した。銀の銃に金の銃、撃鉄を起こし構えた。

「やれやれ。なめんじゃないわよ!」

わたしは誰もいない方向に向かって二発発砲した。



アリサを自らのアークにより迷宮地獄に落としたロベルトは城の最上階にいる主の所へ戻った。もちろん彼は調査隊ではなく、ドイツ軍お抱えのソーサリオンだった。


「始末しました、大尉。」

ドイツ陸軍魔法兵を十名程従え、男は立派な椅子に座っていた。

「御苦労だった、ロベルト。やはり君を連れて来て良かったよ。」

「いえ、しかしあんな小娘、大尉の新たな力でも充分だったと思いますが…。」

男は立ち上がり笑った。

「クックック。あの小娘はおそらくソーサリオンだ。念の為だよロベルト。」

「ハッ!失礼致しました!」

「しかし忌々しい奴等のソーサリオンを一人葬った事は大きい成果だ。クックック、上もさぞ喜ぶだろう。」

「では、大尉。撤収しますか?」

「…いや、まだネズミがいるみたいだぞ、ロベルトよ。」

男が上を見上げた。小さな小窓に女が座っていた。ロベルトも上を見上げる。

「だ、誰だ貴様は!けしからん格好をしおって。…うぅむ。実にけしからん。」

女の髪は青く、色白の肌に胸の部分がガバリと開いた真っ黒のバトルスーツを着ていた。

「ふふん、悪いけどアタシ坊主は趣味じゃないの。ごめんなさい…ねっ!」

胸に埋まった宝石が光り、氷の弾丸が魔法兵達を襲う。

「ぐぁっ!」

「…コソ泥が。死にに来たのか?」

男は女を睨みつけた。

「ふふん、ハンス・シュナイダー大尉ね。初めまして。ローマ兵団を殲滅したのは貴方?」

シュナイダーの眉がピクリと動いた。

「アンタ、悪魔と契約したでしょ。力試しにローマ兵団を皆殺しにして。」

「…ほぅ。良く分かったな。」

ニヤリとシュナイダーは笑った。

「リングの共鳴反応がしないもの。でもアンタ如きが良く契約出来たわね。失敗するリスクは考えなかったのかしら?」

「…クックック。冥土の土産に教えてやろう。アークには色々と種類があってな、封じている力の大きさによって契約の方法が変わるのだよ。大いなる神や大悪魔が宿るアークをスーパーアークと呼び、中級クラスの神や精霊、悪魔が宿るのはアークと呼ぶのは知っているだろう?」

「…それぐらい知っているわよ。スーパーアークとの契約は逆に神から契約者を選ぶそうね。」

「クックック。いや、これからが話のミソでな。このソロモンリングに封じられている悪魔は、かつてソロモン王自らが使役していた72体の悪魔でな。こいつらはアークの中でも実にアウトローな奴らさ。中には契約に生贄を捧げれば良いだけの悪魔もいる…。」

女の顔が引きつる。

「アンタまさか…。」

「そのまさかよ!ちょうど良いところに調査隊を名乗るゴミどもがいたのでな。クックック。」

「クズね。アンタはもう喋らなくていいわ。」

「盗賊メア。俺の女になれば命は保証してやるぞ。」

「ふふん、トレジャーハンターと言ってよね!」

メアの背中からコウモリのような羽が生えた。

「アンタを始末して指輪はいただくわよ!」

メアはシュナイダー達に向かって飛んだ。

「…残念だよ。」

シュナイダーの指輪が赤く光る。その瞬間、メアは激しい頭痛を感じて地面に落下した。

「…そ、そうだわ、確かローマ兵の体には外傷がなかった…!こ、これが、その指輪の力…。」

「如何にも。我が力は精神の支配。お前は頭に割れる様な痛みを感じているだろう。このまま頭を狂わせて殺すのは惜しいがな。」

「くぅ…。」

シュナイダーがトドメを刺そうとした時だった。


ガシャン!…ドサッ


後ろから何かが割れる音と誰かが倒れる音がした。

「…な!?」

シュナイダーは振り返った。空間に二発の弾痕が空いており、倒れていたのはロベルトだった。彼は両胸を銃弾で撃ち抜かれて既に絶命していた。同時に彼の迷宮“ラビリンス”の力は喪失した。

「こ、これは…マジックバレット!まさか…!母親の力を継承しているのか!?」

シュナイダーは空間に空いた弾痕から徐々にヒビが入るのを確認し、窓から逃亡した。メアにかけられていた力は解けた。

空間がバリンと割れた。割れた空間からアリサが現れ、迷宮から脱出した。倒れているロベルトを確認して、はぁと息を吐いた。

「…あなただったのねロベルト。残念よ。」

アリサは心臓と肺を撃ち抜かれたロベルトを横目にメアの方に歩いた。

「大丈夫?猪瀬さん。」

「…ちょっとアリサさん!その名前は学校だけにしてくださる?っつ、いたたた…。」

「油断したわねメア。ついでに状況を教えていただけるかしら?」

盗賊メアの正体は同じクラスの猪瀬エリカだ。学校では大人しく清楚な女の子なのだが、裏では非公認のソーサリオンとしてトレジャーハンター業を行っている。露出が高いのはアークの影響か、こっちが素なのか分からない。彼女は水のアークの力を使う。業界ではちょっとしたお尋ね者だ。わたしはメアより状況を聞いた。


「…そう。調査隊はもう…。」

悲報を知り、わたしはシュナイダーを始末しなければいけないと決意した。

「あの窓から逃げたわよ。でも、あなた勝てる相手なの?」

「大丈夫よ。彼の力はわたしには効かないから。」

メアは首をかしげた。

「そういえば、あなたのアークって何かしら?マジックバレットはオバ…マスターの力でしょう?」

「そうよ。月の女神アルテミスのスーパーアーク。マジックバレットは一つの銃につき6発まで必ず命中するの。7発目を撃つと自分に返ってくるらしいわ。ま、わたしの銃は二丁とも弾数6発だけどね。だけどわたしが使えるのはその力だけ。アルテミス本来の力は母さんしか使えないわ。」

「じゃ、あなたのアークは?」

「わたしの力は…」


「何よそれ〜!このタイミングで都合良すぎるでしょ!」

わたしの力を知ったメアはケタケタ笑った。

「いえ、偶然じゃないわ。おそらくこうなる事を予測してわたしを派遣したんだと思うの。」

「なるほどね。まぁアタシはもう手を引くわよ。行っても足手まといになりそうだし。」

「分かったわ。学校行きなさいよね。マール先生怪しんでたわよ。」

「ふふん、アタシあの女嫌いなのよ。」


ドドン!


「!!!」

東の森の方向から爆音が聞こえ、落雷が見えた。

「落雷!?シュナイダーじゃないわよね。」

わたしは窓から森を見ると、遠方で煙が上がっているのが見えた。

「行ってらっしゃい。また学校で会いましょ。」

そう言うとメアは羽を広げた。

「そうね。また、学校で。」

わたしはすぐに落雷があった方向へ向かった。

わたしのマジックバレットには難点がある。対象を視認出来ない限り、弾丸は命中しない。また、ラビリンスの様に敵の空間そのものが攻撃対象である場合は敵の胃袋を撃ち抜くような感覚で撃てるので、それに当てはまらない。まずはシュナイダーを見つけなければ…。


落雷のあった現場に着くとシュナイダーは半身を雷に打たれ、瀕死で倒れていた。

「…ついてないわね。」

シュナイダーはアリサが銃口を向けているのを確認したが、もう力を使う体力は残っていなかった。

「…あぁ。ついてない。だが、我が人生が貴様の様な小娘に終わらせられると思うと、死んでも死に切れんわ!」

シュナイダーは指を噛み切り、指輪に自身の血を捧げた。指輪は赤く光り出す。わたしは引き金を引き、シュナイダーの頭を撃ち抜いたが、彼はムクリと起き上がった。もう彼は人間ではなかった。

「バカな事を…!」

わたしは銃口を向けた。かつてシュナイダーだった者が口を開いた。

「此奴は我に自身の命を差し出した。我も此奴と共にじき朽ちる。だが、貴様の命は頂くとしよう。」

悪魔の目が赤く光ると、頭が割れる様に痛み出した。これがこの悪魔の力…。

「あ、貴方の名前は…?」

振り絞るように言った。

「我はガープ。ソロモン72柱の一柱、地獄の大総裁なり。」

「ガ、ガープ…。精神を操る悪魔ね…。」

「如何にも。小さき者よ、我と契約するかそのまま死ぬか選ぶが良い。此奴の身体はもう朽ちる。久しぶりの現世だ。まだまだ楽しみたいぞ。」

「はぁ…。グッドだわ。でもその選択肢、一つ足りないわよ。」

わたしは割れる痛みをこらえ、持っていた銃をホルダーに戻した。

「まだわたしには戦う選択肢があるわ!」

「…ならば死ね。」

ガープの力が強まる。わたしは自身のアークを発動させた。強烈な光がわたしの身体を包み、ガープの力は消えた。

「………何?」

ガープは思わず後ずさった。

「ガープ。貴方にわたしは殺せないわ。」

わたしは光の中から一冊の魔術書を取り出した。ガープの目が開く。

「小娘…!何故貴様がそれを…。」

それはかつてガープが仕えていたソロモン王の魔術書だった。

「わたしの名前は、アリサ・ミューラー。お前達を封印、使役する力を持つ、ソロモンの鍵のアークよ。」

魔術書を開き、ガープに向けた。彼はもう抗うことが出来なかった。

「…小さき王よ。我が力、再び使うがいい。だが、忘れるな。我らは常に貴様を殺す事を夢見てるぞ…!」

強烈な光がガープを包み、魔術書に封印される。その瞬間、シュナイダーの身体は崩れ落ち指輪と共に灰となった。わたしは魔術書をパタリと閉じた。

「封魔完了。グッドだわ…!」

任務を果たし、わたしは足早に飛行艇へと引き上げた。

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