魂と心の出会い
業―それは、人ならだれでも持っている罪。人を殺したならもちろん業になる。何か過ちを犯せば、それも業となる。どんなに小さい事でも―
ある少女は心の扱い方を知らなかっただけ。ある青年はただ大切な人を守っただけ。ある女は自分を自分で助けただけ。ある犬は自由になりたかっただけ。それでもその業は心にいつまでも縛りつく。たとえどんなに小さい業でも…いつまでも…いつまでも…心を苦しめる。
しかし、まだ彼女達は知らない。純粋に生きたかったのに、ただ、生まれたということが業となってしまうような悲しい者もいることを―
東大陸グレリアル…広大な土地を有し、四大陸の一つ。そのほかに四大陸には、北大陸ソルグ、西大陸コルデス、南大陸ソウテツがあり、国境をめぐる争いははるか昔に終結したため、平和が訪れた。今では、四大陸間の行き来は自由になり、多くの旅人が四大陸間を回った。しかし、動物の異常な進化が起きそれらは、「化物」となった。その所為で、旅人で、四大陸を回ったのは、誰一人居なかった…
だが近年、ある力を使い、化物に対抗できる旅人が生まれた。そして、そういった者達が増え、今では、冒険、自分探し、旅行…旅は、いろんな理由で始めるものになった。
グレリアルのリールという町で「ソウル・ウィンド」という子供が歩いていた。子供っぽい服装だが、もう歳も17で大人に近い。彼女は大荷物を背負っていた。気付いた人もいるだろうが、「ソウル」という名は男のような名だが彼女は女だ。後ろで結んだ、きれいな黒髪にオレンジの上着、黒いティーシャツ。なかなかの美少女だ。ただ、他と違うのは業を使えるという事だった。
業は不の力、業は確かに誰にでもある。だが、誰でも使いこなせたりしない。自分の罪を力にする…旅人でも世界に百人いるかいないかぐらいである。軍人にもそういう人はいるのだが…罪がある人はあまり軍人にはならないので、人数も五十を切るぐらいしかいない。彼女―ソウル・ウィンドは、そんな数少ない業を扱える一人の旅を始める若者だ。
そして彼女は旅の必需品の買い出しをしているのだが…
(困った事になったなあ…)
ソウルはそう思い、肩をすくめる。理由は簡単。それは…
「おい、ジョーちゃん。俺達と遊ぼうぜ!」
というチンピラ二人のナンパである。
(うわー、ナンパかー。カッケ―チンピラどもなら金貢がせてポイなんだけどこいつら気持ち悪いしなー。無視して帰るか)
ソウルはそう思い、帰ろうとしたのだが…チンピラに手を掴まれてしまった。
「おいおい、それはだめだろー。」
「そうだぜ。何?君俺達と戦えるの?それとも何か?『きっと素敵な王子様が助けに来てくれるわ』とかとでも思ってんの?」
ゲラゲラ笑いあうチンピラをよそにこう思っていた。
(ギャーーーーー!触られたーーー!気持ち悪!!こいつら絶対ぶっ飛ばす!)
ソウルは物に業の力を加え、強化する戦闘スタイルだ。ソウルが使うのは…ヨーヨーだ。ソウルはヨーヨーが得意なため自分に合うのはこれだと常日頃認識している。
ソウルはチンピラを倒そうとヨーヨーを取り出し、応戦体制に入った。それを見たチンピラが馬鹿にしかけた瞬間…一人の影がチンピラとソウルの間に割って入った。そして、その影の人物は一般人には見えないほどの速さでチンピラに肘鉄を叩き込むと、もう一人のチンピラに向き直って襟首を掴んでそのチンピラを近くにあったバーにぶん投げた。その衝撃で辺りには土煙が舞った。そしてバーの一部は音を立てて崩れた。
それを間近で見たソウルはこう思った。
(カッコイイー。まさか本当に王子様的な!?『助けに来ましたよ、姫』的な!?キャーーー!そうだったらどうしよーっ!気に入ってくれるかなー!?そんで…)
土煙で相手の顔が見えていないまま、相手の正体のわからないうちに妄想家のソウルの妄想は膨らんでいく。 そして、土煙が晴れたとき、ソウルの期待は見当違いどころか、全く違っていた。
「あ?」
現れた少年の最初にソウルを見て発した言葉はそれだった。ソウルは思った。
(え…何こいつ…チンピラの仲間?金髪に…ピアスに…指輪…。イヤーーーーーーーーーーッ!王子様がーーっ!私の理想の王子がーーーーーっ!夢がーーーーーっ!確かに顔はいいよ!どっちかっていうと…イケメンの方だろうけど…でも『大丈夫ですか?御嬢さん?』みたいな声かけてくれる紳士様がよかった!目があった時に『あ?』っていうんじゃなくて!うーーーーー!悲しい…)
ソウルは半分恨みをこめた眼で少年を見つめた。しかし、少年はそんなソウルを気にも留めずにただ壊してしまったバーの店長が出てきたのを確認し、「逃げるぞ」といいソウルの手を掴んで、近くの森まで大急ぎで逃げた。
「えっ?ちょっ…キャーーーーー!」
というソウルの事を考えずに。
ウースウッド…リールのすぐ近くにある森で、化物もでるにはでるが、対して危険のない静かな森である。ソウルは少年に引きずられ、ここまで来た。ソウルは言った。
「痛たたたっ。おしり痛ーい。あんた初対面の女の子に何てことすんのよ!」
「あーーーお前女だったんだーーーーー。」
少年は漫画雑誌をパラパラめくりながら適当に答えた。ソウルは反論した。
「見りゃ分かるでしょ!あんたの名前は?」
「……ハート・ブレイド」
少年は照れくさそうに言葉を詰まらせた。ソウルは大笑いした。ハートという名が女っぽかったからである。
「あははははははははははっははは…はあー笑ったっと。あたしは『ソウル・ウィンド』よろしくね!」
その時ハートは大笑いした。こう言いながら。
「プッ!お前人のこと言える名前じゃねーじゃん!あははははは…」
そして笑い続けていたハートはソウルの大技『五千ダメージキック』というみぞおちに思い切り蹴りを入れる荒技をくらい倒れた。
―数分後…復活したハートはソウルにこう聞いた。
「んでよお前これからどうするんだ?」
「えっと…あ、ねえあんたあたしのボディガードになってよ。あんた強そうだし。あたし、四大陸回りたいんだけど、女の子の一人旅はさっきみたいなナンパなんかに遭うと大変だし…ねっ、いいでしょ?」
ソウルはいい案を思いついたと思った。ハートはこう言った。
「あぁ?誰がテメーのガードやんなきゃいけねーんだよ。」
「さっき助けてくれたじゃーん!」
「あれは昼寝の邪魔だったからだ!」
ワーギャー言い争い、ついに喧嘩になった。
ボカッ
ポカッ
バキッ
ムニャッ
喧嘩の擬音が響いていた場所に気の抜けた擬音がなった。ソウルは一度その音が自分の胸から出たと思い。見ると…そこにはハートの腕があった。喧嘩しているときに触られたらしい。ソウルは顔を真っ赤にし、事故にも関わらずハートに鉄拳を叩き込んだ。
「いや…わざとじゃねえって…」
ハートは鉄拳を叩き込まれたところである鼻をおさえ、こう言った。ソウルは構わずとどめを刺すと、こう言った。
「女の子の胸触っといて…わざとじゃないだぁ?こちとら、むちゃくちゃ泣きたいんじゃぁーーーーー!」
ソウルは気絶しているハートをさらにボコろうとした時、先程のチンピラを混ぜた7、80人に囲まれた。先程のチンピラの一人が威張ったようにこう言った。
「おい小娘ぇ!そのの男と一緒にとんでもねー事してくれたなーーー!」
「チッ、さっきのヤロー生きてたか…」
「いや、死んでたらアンタ刑務所行だからね?」
ソウルはいつの間にか復活したハートにそうツッコんだ後、ソウルはハートの肩を踏み台にし跳躍すると、ヨーヨーを取り出し、相手に向かって普通のヨーヨー感覚で遊ぶように戦い始めた。相手に両の手に持ったヨーヨーをぶつけ、ブーメランのように手元に戻す。その戦闘にチンピラ達は戸惑いを隠せなかった。
一方、肩を踏み台にされたハートはチンピラ達をぶん殴る…殴る…殴る…そしてその衝撃で、ハートの手に付いていた、指輪が取れてしまった…その瞬間、ソウルはチンピラ達に向かってこう叫んだ。
「やめろーーーーーっ!」
ソウルには業を使えるので、業を見る力がある。その人の持つ業がどれほど罪深いか、どれだけ強大かという事を。業をつかえれば誰でも出来るものだ。人に自分の罪の重さを知られないようにするため、業を持つ者は、業を抑えるグッズ『業制御具』略して『業具』と呼ばれるものを身に着けている。もちろん『業具』を取らなければ、その人の業も見えないし、業を使うこともできないが人の業は見える。ソウルは『業具』を着けたまま戦ってるのだが、ソウルの場合、ソウルと『業具』が合っていないのか少しだけ『業具』装着時でも業は出せる。…この説明で分ったと思うが…ソウルは見てしまったのだ…そして、知ってしまった。自分とそれほど歳が離れていなさそうな少年である『ハート・ブレイド』が自分では到底耐え切れないような業を抱えているという事を…
結局、チンピラ達はソウルの忠告を聞かず全滅した。
(また見られちまったか…)
ハートはソウルが自分におびえるだろうと思い、立ち去ろうとした。しかし…
「まって!」
顔を俯けたソウルに手を掴まれたハートはソウルの手が震えていることに気付き、こう思った。
(こいつも…同じか…皆…俺の業見ると『怖い』って思うんだろうな…)
ソウルは顔を上げると、笑顔でこう言った。
「あんた、凄いじゃん!ますますボディガード頼みたくなちゃったよ!興奮して震えが止まんないわー!」
ハートは心の底からこう言った。
「はぁ?」
続けて疑問をソウルにハートは投げかけた。
「お前…怖くねーの?俺の事。」
「何言ってんの?あ、指輪落ちてるよ。」
ソウルはハートの指輪についてる宝石が『業具』の役割なのだと思いつつ、ハートの指に指輪をはめようとした。だが、指輪は第二関節程度までしかはまらず、イラッときたソウルは思い切り指輪を押し込んだ。その次の瞬間…
バリーン
という音とともに、壊れた指輪が地面に落ちた。ソウルは呟いた。
「テヘッ☆」
ハートは激昂した。
「テヘッじゃねーよ!どうしてくれんだ!使いモンになんなくなったぞ!」
代わりとしてソウルが案を持ち出した。
「あ、じゃあこの使ってない『業具』…あげるよ!」
ソウルの案にしぶしぶ賛成し、ハートはその鍵穴の業具を手にかざした。そして、ソウルがそのカギを閉めた。すると、その業具はハートの手の中に沈んでいった。ハートは一つ疑問が浮かんだ。それは…
「なあ、おい。鍵穴式って鍵閉めた人間でしか開け閉めできないんじゃなかったっけ?」
ハートをソウルにその疑問を口にするとソウルはニヤッと笑い、こう言った。
「そうよ…これでアンタは私についてくるしかなくなったのよ!」
ソウルにそう言われたハートはしまったと心の底から思った。そうして無理やりハートをボディガードにしたソウルは四大陸巡りを開始するのであった…