異世界に転生した男が魔王と呼ばれるまでの話
開いてくださいありがとうございます。
とある職人が死んだ。
最低でも一週間以上、寝食を忘れての死亡だった。
何をやっていたかといえば、製作。男の趣味であり仕事であり生きがいでもあった創作だ。
プラモデルの改造から始まり、フィギュア、編み物、彫刻、細工。己の指を使い何かを作り出すことにとり憑かれるように男は作業を行なった。
男の腕前は高く、作ったものをオークションに出せば数万から数十万になる程に精巧な出来だった。
いつものように。いつも通りに。
男が最後に作ったのは傑作と呼ばれ数千万の価値が付くことになるが、男にとっては関係のないことだ。
男は死んだ。
死んで。異界に転生した。
その世界は魔法があり、人間以外の種族が生きるまるでファンタジーのような世界だった。
神に会うこともなく、かと言って何があったのかを理解することもなく男は呆然と、最初の十年あまりを過ごす。
男はその十年で確信すると同時に、神へ喜びの声を上げる。
「ああ、神よ。てめぇが俺をこの世界に落としたのなら感謝しよう。俺が何かを作る機会を与えたことを」
居るのかどうかは別として、世界に祈るように男は感謝の意を捧げた。
俗にエルフと呼ばれるその種族は森の神によって作られたといわれる種族。
外気に存在する魔力を取り込み養分とし、魔力が存在する限りは幾らでも生きていられるという特徴を持つ。
それゆえに、男は感謝したのだ。
前回のような悲劇が起こらないという確信を抱いて。
男は里から出た。必要最低限の道具だけを持って里から飛び出し、森の奥深くに存在する洞窟に住み着いた。
エルフたちが住む里が暮らし難かったというわけではない。ただ生きるだけなら里は何の問題もなかった。
しかし、男にとって親からの愛情も隣人からの愛情もわずらわしいものでしかない。
己の生を削ってまでその手で作り続けた男だ。他者の感情に頓着するほど器用な者ではなかった。
だから男は洞窟で手始めに、木を彫った。
太い枝を器用に彫りみるみる内に形を変えていく。木の中にある何かを掘り起こすように、楽しそうに形を変える姿は無邪気なもので。
自分の片腕ほどの大きさのものを最初に作り出した。
姿は人間。記憶の中にある適当な漫画のキャラを彫ったものだ。丁寧に丁寧に、愛情をこめて作ったソレは完成すると同時に動き出す。
男は知らないことだが、エルフ族の魔力は創作型魔力と言い物に魔力をこめる作業が得意な種族だった。
その作業は本来容易ではない。集中の極みに至った者だけが扱える技術。
生涯最高の一作を打ち出したものだけが行なえる芸当。
それを男は、易々と行なう。
太い木の枝で作れた彫刻は動き出し、男はそれに便宜上ゴーレムと名をつけて使った。
枝や石を持ってこさせるのに便利だったからだ。
更にもう一度、作れば作るほどゴーレムは増える。女性の姿をしたゴーレムが居れば、純粋に岩を掘って作られた屈強なゴーレムも居た。
しばらくすると枝と石に飽きたのか男は泥をこねくりまわす。
泥によって姿を作られたものは俗に悪魔と呼ばれるものに近い精神を宿した。
女性型のソレが誘惑してくるのをわずらわしく思った男は男性型を作り、放置した。
放置している間にソレら二つは子を為した。
男は驚くまでもなく、黙々を作品を作り続ける。
ある時は冷めた溶岩からドラゴンを。
ある時は氷から精霊を。
ある時は蜘蛛の糸から毛糸を作り、それもまた怪物となる。
すでに男が作り出すものは全て怪物となっていた。意識して、ではなく無意識のうちに。
料理を作ってみようと、絵画を作ってみようと。気分を変えて刀を打ってみようと。その全ては新しい生命体を作る作業になっていた。
しかし男は、それを気にしない。
いつしか小さな洞窟は奥に掘り勧められ、迷宮といえる大洞窟となる。
その奥には男が作り出した魔物たちが城を作り、男のための部屋を用意した。
創作物が何をしても何の反応も返さなかった男だが、そこで初めて男は気まぐれか礼を言った。
そして男の製作が始る。
材料を求めればすぐに出される。永遠に物を作り続ける生活は男にとって至福の時間だった。
思うがままに思い通りのものを作る生活。
稀に外へ出て数十年をかけて大樹を作品にする事もある。稀に外へ出て百年かけて山を作品する事もある。
もはや何百年経ったかもわからないぐらいの作り続けたある日。
彼の城が燃えた。燃える中でも男は作り続ける。
見知らぬ他人が部屋に入ってきた時も男は作品を手掛ける。
「エルフが何故ここに!?」
見知らぬ他人が問えば、丁度よく手掛けた作品が完成し新たに産声を上げる。
瞬間。
その他人は絶叫し作品を破壊し、男の首を刎ねた。
これはそれだけの話。
魔物という存在を作った、魔王の話。
その男が死んだ後も世界から魔物が消えることはなく。
ただ一人の職人が世界を変貌させてしまった、ありふれたお話。
読んでくださってありがとうございました。




