第八章
きらきら光る青い海と緑の島。
こんな世界は他にはないと思われる程の美しい景色を目の前に、ベラは思わずぼうっとなった。
「お~い。お客さぁ~ん。もうすぐ着くだべさぁ」
この景色をぶち壊しにしてしまうような声で船長が言う。
船長と言っても、小さな漁船に乗っている漁師だ。
ベラはと言うと、都の港に着く前までは豪華客船を思い浮かべていたので、国の経費削減のためにこの船に乗ってください、と言われてムカッとし、ここに着くまで一言もしゃべらなかった。
しかし、今。
「えーっ!すごいっ!きれいっ!あっ、見て!魚だよ!こんな近くに・・・。捕まえられそう!」
と大はしゃぎしていた。
「さっきの方が静かでよかった・・・」
グレンは船酔いの為に、青ざめた顔をしながら呟いた。
「譲ちゃん、魚の捕まえ方はこうだべ」
漁師はどこからか銛を持ってくると、一瞬とまり、そして水面に突き刺した。
「ほらよ。とれたべさ」
「え~っ!おじさん、すご~い!!」
「これ、持って行くだべ」
青ざめた顔をしているグレンが話に割り込んできた。
「もう、着いてるんだが」
おじさんは船の先のほうを見て、
「ひゃあ!」
と言いながら舵のほうに向かっていった。
ベラもそっちの方を見てみた。今にも桟橋と船の先がぶつかりそうだ。
「これって、ぶつかったらどうなるの?」
「そりゃ、桟橋が壊れる。僕は今気分が悪いんだ。もう話しかけないでくれ」
ベラは、話し相手がいなくなったので、舵の方に言ってみる事にした。
「おじさ~ん。大丈夫?」
「だいじょぶだべ。それより、そこの錨を海に落としてくれないかね」
「落とすだけ?分かった」
ベラは錨を持ち上げようとしたが、意外と重い。少し持ち上げただけでも息が切れるほどだ。
(まったくもう~。なんなの、これ!?こんな重いもんどうやって持ち上げろっていうの?)
そこでベラは思い出した。乗り降り用に船の壁が一部開いている場所があったはずだ。
「よいしょ」
引きずるだけなら何とかできる。ベラは必死に錨を引っ張り、乗り込んだ場所まで持ってきた。
そこには、人一人分ほど柵の間が開いている。
そして、ベラは錨を押して、海の中に入れることが出来た。錨についていたロープがどんどん海の中へ引き込まれるのを見て、
「吸い込まれてるみたい!!」
ところが、グイッと何かに引っ張られるような感覚がして、ベラは海の中に引き込まれた。
ジャッバーン。
海面に背中をたたきつけられて痛い。そして、海の中で自分の足を見て、何が起こったか悟った。
錨のロープが足に絡み付いている。