第五章
「え?じゃあ、負けたらどうなるの?」
「トレビア~ンな質問だね。負けたら、トレビア~ンな行き方であの世に行くのさ」
金髪の巻き毛の少年は言った。
「え!?負けたら人生終わりって事!?」
「ウィ。じゃあ、そろそろ・・・」
戦いを始めようとする少年を、ベラは慌てて制した。
「ちょっと待ってよ!あたし、あんたの名前、知らないんだけど」
「僕の名前は、ジョルジュ・パトリック・ギオー。年齢は十三歳!トレビア~ンでしょ?」
「ってことは・・・あたしは十五歳だから、二歳も年下なのかぁ。あ、そうそう。あたしの名前はベラ・キャンベルだよ」
ベラは、グレンの方を見た。
「ちょっと、早く名前いいなよ。早く戦って、なんとしてでも、他の奴らより早く着かないと・・・」
「こんな奴に名乗る義務はない」
「ま、本人が言いたくないんだったら構わないけどね。僕のトレビア~ンな名前に怖気ついちゃったのかな?」
(ふう。戦いかぁ。そういえば、学院でも戦いの実践ってあったけど、あたしだけやらせてもらえなかったなあ。あれ?何でだろう?)
ベラはそこまで考えてはっとした。
「あ――――!!」
「どうした?」
いつの間にかベラの一歩前に出ていたグレンが振り返った。
「あたし、まだ属性が分かってないんだった!グレンは何なの?」
「闇」
「闇?何それ?」
グレンは一瞬呆れた表情を見せたが、すぐに真顔になって言った。
「説明は後で。それより、あいつの属性は風だ。気をつけろ」
「了解です!」
そうはいったものの、ベラは実際に戦った事はない。だから、どういう風に気をつければいいか分からなかった。
「じゃあ、いくよ~!はじめっ!」
あまり緊張感のない合図を掛け声に、勝負が始まった。
(えーっと、とにかく杖をださなきゃ!がんばれあたしっ!)
ベラは、腰巻いていたベルトに挟んでいた杖を出した。
(で、それで?たしか、呪文を唱えるんだっけ?)
左手に杖を持ってしまったので、ベラは右手に杖を持ち替えようとした。
だが、いつもは何気なくやっていた動作でも、緊張するとやりにくい。
ベラは杖を取り落とした。
(これはやばい!)
「やったあ!隙ありっ!」
とたんに風の渦が発生して、杖はその渦に飲み込まれてしまった。
「ああっ!あたしの杖!」
「馬鹿だな」
風の渦はジョルジュの方に飛んでいった。
そして、ジョルジュの手の上にベラの杖を落とし、消滅した。
「はあ。何をやっても上手くいかない。あたしってドジ・・・」
「隙ありっ!」
風の渦が超特急で飛んできた。
「わっ!」
ぎりぎりでそれを避けると、次は横から強い風が吹いてきた。
しかし、突如現れた土の壁によって、その風は阻まれ、ベラの所には届かなかった。
「ちぃっ!」
その舌打ちは、本気だった。
(ジョルジュは、本気であたし達を殺そうとしてる。これは、あの技を使うしかないのかも・・・。だけど、あの技には書くものがなきゃ)
そこまで考えて、ベラははっとした。
(そうだ!たしか、ある小説に血でダイイングメッセージがどうのこうのっていうのがあった!だから、血を使えば・・・)
ベラは右手の人差し指を強く噛んだ。
傷口から血がぽたり、とたれる。
(よし。お父さんはあれは人に向けて使っちゃいけないっていってたけど・・・。緊急事態だし)
ベラは地面にしゃがみこむと、しるしを書いた。
雷のようなギザギザを書いただけだが、この魔法の威力は相当強い。
(よしっ!後は・・・)
「召喚っ!」
しるしが淡く光りだし、その上に光の玉が現れた。
「それは・・・古の召喚魔法?」
皆が呆然としているようなので、ベラはかなり得意になった。
「こんなものかな。いけっ!雷光!」
眩し過ぎるほどの光とともに雷がジョルジュに落ちた。
ジョルジュは、どうと倒れた。
「どうよ、あたしの実力」
「古の召喚魔法なんてどこで習ったんだ?」
「お父さんに教えてもらった!」
「あ、そう」
そこに、金髪のくるくる少年がやってきた。
「ボンジュール。ごめん、ちょっと遅れちゃったぁ。さあ、これからトレビア~ンな僕とのバトルが・・・ってあれ?」
「え?さっきもう倒したけど?」
「どうやら違う人が僕に成りすましてたみたいだねぇ。ま、先に行っていいと思うよ」
ベラとグレンは、一瞬顔を見合わせた。
「やったぁ!かったぁ!」
「先行くぞ」
「あ、ちょっと待ってよ~えへへ」
勝利に喜んでいるベラに、グレンは、
「油断大敵、そう習わなかったのか?」
「えへへっ。いや~それほどでも~」
完全に勘違いしている事を悟ったグレンは、すたすたと歩き出した。
「ちょっと、待ってよ!ケチ!」
「先に行っただけでケチになるのか?」
ベラは口ごもる。
「あ、えーっと・・・って、もういいや!あたし知らない!」
その大声は、ホール中に響き渡った。