第三章
「―――これで分かったか?」
「ああ、うん。やっと理解できたよ」
ここは、ミーナ王国の王宮のとある部屋だ。その広くてがらんとしている部屋で、ベラはグレンから事情を聞いていた。グレンが三回ほど話を繰り返してやっと、ベラは事情を飲み込めた。
「でも、どうやったら神様の言ってたベラとグレンが分かるわけ?」
「さあ。もう一回聞いてみるんじゃないか?」
「え!?グレンにも分からないの!?」
グレンは頷いた。
「女王様は身内に心配かけまいとしていて、最近は殆ど何も話してくれない」
「え!?身内?そういえば、グレンの苗字、あたし知らないんだけど」
「知らないままでいい」
そういうと、どこかへ行くように椅子から立ち上がったので、ベラも慌てて立ち上がった。
「ちょっと、どこ行くの!?」
「当然、謁見室に」
ベラとグレンは部屋から出た。
「はあ?聞いてないんだけど」
「さっき今。お前、聞こえなかったのか?」
それから、ああ、そうかとつぶやき、
「この国の王家は自分と血が繋がった人と好きな時に通信ができる」
(通信って、心の中で会話するってこと?すごいなあ、王家は。すすん・・・・・)
「って、ちょっと待って!じゃ、グレンは女王様と血が繋がってるってこと!?」
ベラは勢いのあまり、グレンの肩を摑んでしまっていた。
グレンは王子様なのかも・・・とベラが思いだしたからだ。
「そうだけど・・・・」
相手は当惑したような返事を返した。
「苗字は?」
「ブレイズ。それと、重い」
ベラは一瞬ぽかんとした。
それから、グレンの肩を離した。
(ブレイズ?確か女王様の苗字は、もっと複雑だった気がするけど・・・・)
しかし、それでもよく分からなかったので、単刀直入に聞いてみる事にした。
「グレンって、王子様なの?」
先を歩いていたグレンは、振り向いたが、その顔には軽蔑を通り越して憐れみの表情が浮かんでいた。
それから、無言で歩き出す。
(って、無視!?あ、だけど厳密に言うと無視じゃないかも。だって、こっちの方見たし。まあ、いっか)
それからまもなくすると、謁見室のやけに大きい扉が見えてきた。三メートルはありそうな、ごてごてに
装飾した扉だ。
扉の前には衛兵が十人ほどいて、グレンはそのうちの一人になにやら話しかけていた。話を聞いた衛兵は他の衛兵に呼びかけた。
「ここに居られるのは、公爵家ブレイズの跡継ぎ、グレン様である!皆の者、通せ!」
衛兵達は、一糸乱れぬすばやい動きで扉の横に動き、さっきの一人が重々しいドアを開けた。
しかしそこにあったのは、謁見室ではなく、ただの通路だった。ベラはがっかりした。
(あ~あ、つまんないの。きれいな飾りとか、見れると思ったのに・・。だけど、きっとこの先にあるんだよね、たぶん。ってゆーか、グレンは公爵様なのか。道理で偉そうな訳だ)
「行くぞ」
突然、グレンがベラの腕を掴み、通路へと進んだ。
グレンは、はっと息を呑んで、そこから動かなくなってしまったので、仕方なくベラは強制的にグレンを進ませようと、前に一歩進んだ。
「ベラ!危ない!」
風が頬を掠める。ふと横を見ると、矢が大量に刺さっていた。
「うげー。何でこんなものが・・・・・」
「選抜テストだ。これをクリアすれば、王国調査隊の隊員になれる」
「じゃあ、これからもトラップが続くって事?」
「ああ。覚悟しといた方がいい。どこに何が仕掛けてあるかは分からないけど」
後ろを見ると、いつの間にか扉がしまっていた。
煌々と明かりが点いているが、ベラには得体の知れない闇に見えるのだった。