第二章
べラ達が暮らす王立魔法学院には、絶対に破ってはいけない規則が三つある。
なぜ破ってはいけないのかは定かではないが、そのどちらかを破ると一生呪われる、という話だ。
その規則の一つが、男子は女子寮に足を踏み入れてはならない、というものだ。
しかし、その規則が今、目の前で破られたのを見て、ベラは愕然とした。
そもそも、この学院は迷信深く、学園長でさえばかげた三つの規則を破らない。教師も、これは本当だと
信じきっており、女子寮の一つしかない入り口では、警備員が24時間見張っているのだ。
だから、男子が女子寮に入ってこられるわけがない。
でも、目の前に立っている少年は、涼しい顔をしてベラとグロリアを見つめている。
年はベラ達と同じか一つ上ぐらい。漆黒の髪と瞳。顔立ちはそこらのかっこいい人とは比べ物にならないほど整っている。
そして、静かな声でまた質問をした。
「ベラという奴がここにいると聞いたんだが」
「え・・・?ベラは、あたしだけど」
「ふうん。女王様からの命だ。今すぐ王宮に行かなければ」
そう言うと、ベラのラズベリー色の髪を引っ張り、部屋の外に引きずり出した。
「いたっ!あのね、この髪、がんばって伸ばしたんだから手荒なマネはやめてくれない?しかも、すっごく痛いんだけど!」
「それは失礼」
少年はそういった瞬間ベラの手を勢いよく離した。
おかげで、ベラは床に投げ出され、かすり傷を負う羽目になってしまった。
(この野郎・・・絶対許さない!)
「で、ほんとにあんた女王様からの使いなの?証明してみなさいよ」
ベラは、できるだけ平静を装って聞いてみた。
「そうだが」
そういって少年は一枚の紙を出した。
そこにははっきりと教科書で見た通りにサインが記されていた。
「へえ、本物なんだ。すごいねぇ。で、名前は?」
「お前に名乗る義務はない」
そう言って、少年は階段を下りていく。
「ちょっと、待ちなさいよ」
ベラも後に続いて、階段を急いで駆け下りた。
すると、途中で足を踏み外し、階段を転がり落ちてしまった。
そのままの勢いで、また床に顔を打ち付けた。
「いてて・・・・・・」
少年を追い抜かすことはできたが、五階から二階まで転がり落ちた故に、頭がくらくらしていて起き上がれない。
ベラの意識は、いつの間にか遠のいていった。
☆
気付くと、きれいなベットの上に寝ていた。所詮、ベラは平民である。
こんなにふわふわしていて、手触りのいい布団で寝るなんて、本来ならば考えられなかった。
ベラはがばっと上半身だけを起こして、周りを見た。
白いレースのカーテンがベラの周りを囲っている。天蓋付きベッドだ。
カーテンの境目を探す。あった。
そこからカーテンを少し開けると、声が聞こえてきた。
「女王様、お目覚めになられたようですよ」
若い女の人の声だ。
(女王様?ってことは王宮?なんであたし、こんな所にいるんだろう・・・・。ああ、そっか、思い出した。階段から転げ落ちて、気絶したんだった。じゃあ、あいつはどこにいったんだろう)
色々思い出していた時だった。カーテンがいきなり全開になり、朝日が差し込んできた。
「まぶしい・・・」
「ごめんなさい。大丈夫かしら?」
そう言って、一人の女性が覗き込んできた。
黄金の流れるような美しい髪と、よく晴れている青空のような透き通った青い目の美しい女性である。
ベラはびっくりして飛び上がり、後ろにひっくり返った。なんと、覗き込んできた女性はクラリオン女王だった。
「まあ、とにかく元気になられたようでよかったわ」
「は・・・はい・・・」
女王は微笑み、それから人を呼んだ。
「グレン!来なさい」
「はい」
そうして、一人少年があらわれた。
なんとその人が、さっきの少年だった。
「これで、王国中のベラとグレンは見つかりました」
グレンは女王に報告している。
「待って、あなた、自分の分は入れた?」
「はい、一応」
「そう、良かったわ」
そう言って女王はもう一度微笑んだ。
ベラだけが、事情を飲み込めず目を白黒させていたのだった。