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第一章

天球儀――――それは、このミーナ王国では唯一無二の国宝だった。


どの宝石よりも価値が高く、どの猛獣よりも危険なのだ。

だから、いつも厳重に警護され、盗まれた事はなかった。


が、メリッサと呼ばれる悪の魔女に盗まれてしまったのだった。

メリッサは、高度な魔法の実力を持っているにもかかわらず、それを自分の欲のために使う、この国にとっては最大の敵である。


この国の女王、クラリオンは焦っていた。

(もし、メリッサがあの天球儀の使い方を知ってしまったら・・・・・・)

(もし、メリッサがあの天球儀を使ったら・・・・・・・)

(いいえ。メリッサはきっと知っているのだわ。もう、遅いかもしれない・・・・・・・・)

(誰かに助けてもらわねば。そうよ、今が神に教えてもらうべきなんだわ)

クラリオン女王は侍女に命じ、例のハープを持ってこさせた。

「ナタリー、お願いだから、神の真意を聞いて」

ナタリーという名の侍女は、心底おびえながらも、返事をした。

「はい」

女王はすっと目を閉じ、ハープを引き始めた。

自分の中の神の血が全てを分かっていた。

微妙な音色が室内に響き渡る。


そして――――――神がクラリオン女王に降臨した。


恐る恐る、ナタリーが問う。

「天球儀は、どうすればいいのですか」

「そ・・・・ベラ・・・・・・グレン・・・・引き・・」

ナタリーは顔をしかめた。

いつもは明々白々に聞こえる神の声が、雑音のような音に掻き消されている。

これまで三回やったが、こんな事ははじめてだった。

「ふ・・・ふふ」

不気味な含み笑いががらんとした王室に響き渡った。

「愚かなものよ。これからはメリッサ様の時代ということも分からないのか」

さっきの神の声とはうってかわって、とてもはっきりと聞こえる。

「私は神になった。それもこの天球儀のおかげ。この国が滅亡するのも近い!!!!」

「ベラとグレン・・・・・・」


そうして、神の降臨は終わった。

クラリオン女王は慄き、ナタリーは泣き出しかけていた。

(ああ、何ということだろう。私はメリッサを呼び出してしまったのだ!!)

女王も泣き出しかけていたが、ここでは泣いてはいけない、と思いこらえて、命じた。

「直ちにベラとグレンを王国中から探し出し、此処に連れて来るよう命じなさい」

「分かりましてでございます!」

ナタリーは飛び出していった。


(なぜ、メリッサは現れる事ができたのだろう。彼女は神の血を引いていないはずなのに・・・・・・)




ベラは、14歳のラズベリー色の髪に青みを帯びた緑の目という本人の嫌いな組み合わせの、ただの落ちこぼれの学生だった。

そして、今、田舎町にある、王立魔法学院の中等部寮の自分の部屋で、親友のグロリアとともに魔法の練習をしていた。

「違うわ。魔法はね、イメージが大切なの。分かる?」

 彼女たちは今、窓際に置いた植木鉢に植物を生やす練習をしているのだが、学院一の落ちこぼれであるベラは一向に植物を生やす事ができないでいた。

「そのくらい分かるよ。あたし今、ジャックと豆の木に出てくるようなすごいのを想像してるもん」

「じゃ、やってみましょ。いっせーのーせっ!!」

ベラは、渾身の力で杖を握り締め、頭の中で大きな豆の木を想像しながら、グロリアと同時に唱えた。

「植物を司る神よ。願わくば、この地にひまわりの芽を生やしたまえ!!」

「植物を司る神よ。願わくば、この地にひまわりの芽を生やしたまえ!!」

二人の杖の先から光が発され、植木鉢はまばゆい光に包まれた。

しかし、片方の光は糸が切れたようにすぐに消え、もう一方の光は徐々に引いていった。

 一つの植木鉢には立派なひまわりの芽が植わっており、もう一つの植木鉢には、黒く焦げたような物体が残された。

「まあ、ざっとこんなもんかな?ねえ、次、火炎放射の練習をしない?」

もちろん、ひまわりの芽を生やした方がグロリアである。彼女はずば抜けて優秀な学生で、中等生にもかかわらず、教師から一目置かれていた。

「火炎放射って・・・・自分の属性だからってさあ・・・・・・」

魔法使いには、一人ひとり必ずずば抜けて得意なジャンルがある。そのジャンルは大きく5つに分かれていて、火、水、草、土、風となっている。そこで、人々は火が得意なら火属性、水なら水属性・・・と呼ぶようになった。

グロリアは火属性だが、ベラは何属性か分かっていないのだ。

ベラの成績は水が2、他が1というどん底で、学院長から「特殊」と呼ばれている。水は少し得意だが、

これは水属性と断言できるほどの能力ではなかった。

それに比べグロリアは、大変優秀な生徒だ。

普通は自分の属性でも4か5、それ以外は1か2のところを、火が5、草が4、他は3という素晴らしい成績の持ち主で、上級生からも妬まれるほどだった。

「じゃあ、水の練習でもする?」

グロリアの提案に、ベラは喜んだ。

「やったっ!じゃあ、バケツ持ってくるね」

しかしその時、バタバタと誰かの足音がこの部屋の前で止まった。

ベラが何か言う暇もなくドアが開けられ、ベラ達と変わらない年齢であろう少年が飛び込んできた。

そして彼は言った。

「ベラという名前の奴はいるか?」

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