雨宿りのコーヒー店で。
君を大切に思う僕がいる。
雨宿り中のコーヒー店で、さっき買ったばかりのノートを広げる。この新しくした日記帳の始まりには「君」のことを書いておこうと思う。もしかしたら、いつか何も思い出せなくなる日が来るかもしれない。だから、いま、覚えていられるうちに自分を綴っておこうと思う。忘れないように書き留めておこうと思う。例え何もかも忘れてしまったとしても、これを読めば、自分が何者なのか覚えていられる。分かってもらえる。色褪せても残しておける。そう思ったんだ。
僕より三つ年下の君とは、ほとんどが正反対だった。性格も得意科目も好きな本もまるで違っていた。僕は運動音痴だったけれど、君は体操選手のように飛び回っていたし、おとなしくて人見知りな僕に対し、社交的で友達とわいわいしているのが君だった。普通なら、きっと交わることのない平行線のような関係だった。
君が専門学校に進学するため遠くへ引っ越していった後も、僕はここで暮らした。互いに社会人となってからは、たまに会うこともあったけれど、だんだんそういう時間も少なくなっていった。その代わり、誕生日やお正月には必ずメッセージを送ってくれた。短い文だけどほんのり笑顔になれるような優しく温かいメッセージだった。
でも、その年の誕生日にはメッセージが届かなかった。次の日になっても届くことはなかった。それから二日して、ようやくメッセージが届かなかった理由を知ることになる。
仕事帰りのコンビニで、お金をおろした君の後をつけてきた男がいた。男は突然刃物を突き付け「さっきの金を出せ」と迫って来たのだ。君は勇敢にも「全額は無理」とそれを断る。なぜか弱気な刃物男は「少しでもいい」と呟く。そこで三万円を渡すと、さっと逃げて行ったのだそうだ。その後、警察の調べで、相手が名のある県議のご子息だと分かったため、示談にするのに動いていた、と。
君は!なにを戦ってんだよ!勇敢にもほどがあるだろう!まったく。兄ちゃんは人生でこれほど肝を冷やしたことはなかったぞ!色白で華奢な兄に対し、縦にも横にも貫禄があり金髪ショートのがっちりボディな妹。きっと男に間違われたのだろう。そうでなければ心だけでなく、きっと体も傷つけられたに違いない。
「親代わりのお兄ちゃんが私の唯一の家族。だから体だけは大事にしてね。」
今年も妹からメッセージが届いた。日記帳に書き写す。僕が健康第一を誓うのは年に二回。五月と一月。誕生日とお正月だ。
僕を大切に思ってくれる君がいる。




