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重なる想い ④

「あなたがステラさんを大事に思うように、私も二人のことが大切です。あなたがルカを抱き上げ、撫でる姿が見たいのです。このまま解呪に失敗し続けるようなら、マルガレーテ様を頼りましょう。きっと、すぐにでも呪いを解いてくれます。……私に解いてほしいと言ってくださったこと、とても嬉しかったです」


 これは、嘘偽りないアリアの気持ちだ。

 できることなら、自分がディートハルトにかけられた呪いを解きたかった。彼の期待に応えたかった。でも、ダメだった。


「この先も挑戦し続ければ、いつかは解けるかもしれません。でも、それが何年も先になるのでは……」


 アリアはルカの姿を思い浮かべる。

 ルカはかつて、伯父が自分に触れてくれないせいで泣いていた。このままでは、ルカはまた涙することになってしまうかもしれない。

 危険な目に遭ったとき助けられない可能性だってある。

 だから、ディートハルトの望みを捻じ曲げてでも、呪いを解くべきだ。アリアはそう思うようになっていた。

 彼は無言のままアリアの髪を撫でる。どうすべきかと考えているのだろう。

 しかしすぐに答えは出たようで、アリアをぎゅっと抱き込むとこう言った。


「……わかった。なら、期限を決めよう」

「期限?」

「ああ。その期限内に解呪に成功しなければ……マルガレーテを頼ろう」

「旦那様!」


 自分の提案を聞き入れてもらえたことが嬉しくて、アリアは彼に寄り添う。やっぱりディートハルトは、なんだかんだでアリアの言葉を無視したりしないのだ。


「俺も、きみのことが大切だ。きみがそう望むなら、応えたい。今目の前にいるきみの気持ちを、大事にしたい」

「……はい」


 彼女の緑の瞳には涙が浮かぶ。

 マルガレーテを頼れば、ディートハルトの呪いを解くことができるはずだ。アリアは彼とルカがなんのしがらみもなく触れ合う姿を想像し、自身の涙を拭った。



「そうだ。ルカのところに戻らないと……」


 この晩、二人はルカになにも言わずにこっそりと部屋を抜け出した。このままでは、朝になって目覚めたルカが驚いてしまうだろう。

 夫婦の時間も大事だが、ルカを悲しませるのも本意ではない。そう思い、アリアは起き上がろうとする。


「っ……!」


 しかしそのとき、アリアの腰に鈍い痛みが走る。身体を持ちあげようとしていた彼女は、おそるおそるといった風にゆっくりと身体をベッドに戻す。


「う、動けない、かも……」

「悪い……」


 アリアは恨めしそうに夫を見上げる。

 これではルカの部屋まで行くことはできないし、ディートハルトに抱えて連れて行ってもらったとしても、翌朝に回復している保証はない。

 朝がきたとき、ルカ視点ではただ寝ていただけのはずのアリアが身体を痛めているのも不自然だ。


「どうしよう……」


 アリアがそう呟くと、ディートハルトはふむ、と考えてから上体を起こした。もしかして、ルカの部屋まで運ぶつもりなのだろうか。

 そんなアリアの予想に反して、彼はばさりとナイトローブを脱ぎ、裸になった。


「えっ!? ちょ、旦那様……!?」


 まさか、自分はまたしても彼に抱かれるのだろうか。彼の鍛え抜かれた肉体を見るだけで情事を思い出してしまい、アリアは目をそらす。


(前に見たときは、なんとも思わなかったのに……!)


 アリアは過去にも治療のためにディートハルトの身体を見ている。そのときは、立派に鍛えてるなあと感じただけだった。

 けれど、今は違う。男性としての魅力を感じ、心も身体も繋げたいと思うようになっていた。


(もう一回!? もう一回なの……!?)


 彼女は顔まで毛布で隠し、慌てふたむく。「そんなのダメよ」と思いつつ、どこかで期待している自分もいた。その間、ディートハルトはなにやらごそごそと音をたてていた。


(なに!? なにしてるの……!? 続きをするための準備!?)


 また触れてほしいという期待と、これ以上は無理だという不安でないまぜになり、アリアの心臓はどくどくと音をたてる。

 少し経つと、彼が毛布の中に手を差し入れてきた。


「っ……!」


 夫婦の営みが再開されるのだと思い込み、アリアはぎゅっと目を瞑る。

 しかし、「もう一回」がくることはなかった。彼は毛布を整え終えると、さらにもう一枚、自分たちの上に厚手の布団をかけた。


「……え?」

「それではつらいだろう。ルカには悪いが、今晩は二人で休もう。明日もゆっくりしているといい」

「あ、はい……」


 そう言うと、ディートハルトはアリアを抱きしめ、寝に入る。どうやら、アリアの体温を感じて眠りたかっただけのようだ。

 アリアは釈然としないまま、彼の腕の中で過ごすのだった。


 翌朝は、ディートハルトの部屋に入ろうとするルカを侍女のヘレンが止めていた。前にも見た光景だなあと思いながら、アリアはまだ痛む腰をさすった。


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