重なる想い ③
夜も更け、アリアはベッドに力なく身体を横たえる。
二度目のキスのあと、二人はディートハルトの私室へ移動していた。
ぼうっとするアリアのもとに、ナイトガウンを羽織ったディートハルトが水を持ってくる。
「……アリア。痛むところはないか」
「痛いところは、色々ありますが」
「すまない……」
水を受け取りつつも、アリアは夫を恨めしそうに睨みつける。彼に肌を見られるのはまだ恥ずかしくて、一糸まとわぬ身体は毛布で隠した。
そんな彼女をディートハルトは愛おしそうに見つめてくる。彼が隣に座り、腰を抱いて髪にキスしてきたものだから、アリアはこれ以上ないほどに全身を赤くした。
(ああ~もう! 恥ずかしい! 結婚当時の私、よく何も考えず初夜のお誘いをしたわね!?)
あまりのことに、アリアは毛布で顔を隠す。すると、ディートハルトが苦笑するのがわかった。
二人の結婚から、半年以上が経過している。
精神的な繋がりは深めていたものの、これまで一度も身体を重ねていなかった。しかしこの晩、彼らは名実ともに夫婦となったのだ。
(二度目のキスのあと、旦那様に『俺の部屋に来ないか』と誘われて……。そのまま……。キスだって、数えきれないぐらいして……)
ベッドに入ってからの彼が情熱的すぎて、もう何度キスしたかもわからない。
一度目から二度目までは半年以上かかったというのに、三度目以降は数えられなくなるなんて思いもしなかった。
この部屋であったことを思い出し、彼女は毛布をかぶったまま力なくベッドに倒れ込んだ。
彼も続いて横になり、毛布の上からアリアを抱きしめてくる。労わるように腰をさすられて、アリアは「んん……」と言葉にもならない声を漏らした。
「アリア……」
名前を呼んでくる彼の声は、蕩けるように甘い。ウブなアリアなど、それだけでどうにかなってしまいそうだった。
(も、もう無理……! 本当に無理っ……!)
二度目のキスをして、夜をともにし、心も身体も繋げた。
彼を愛するようになったアリアにとって、それらはとても幸せな時間だった。それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
自分がどんな声を出していたのか、どんな表情をしていたのかもわからない。
全てをさらけ出してしまった気がして、どんな顔で彼と向き合えばいいのかわからない。
アリアは毛布にくるまったまま丸まり、芋虫のようになっていた。
「……すまない。勝手をしすぎたか」
アリアの態度のせいか、ディートハルトが後悔を滲ませる。
彼は騎士で、男性の中でも体力も力もある。そんな自分に付き合わせたせいで、アリアに嫌な思いをさせてしまったと思ったのだろう。
けれど、アリアは彼にされたことを嫌だなんて思っていなかった。
「……そんなことは、ありませんが。優しかったと、思います。ただ、恥ずかしいだけで……」
「そうか」
誤解されたままにするのも嫌で、彼女は毛布から顔だけ出す。懸命にそう伝えると、彼は安心したように微笑んだ。
(……旦那様だって、初めての夜のあとにこんな態度をとられたら不安よね)
そう思い直したアリアは、少しだけ毛布をめくる。
「……布団、入ってきてもいいですよ」
羞恥心が抜けずにつっけんどんな言い方になってしまったが、ディートハルトはそんなこと気にせず毛布の中に入ってきてくれた。
今度は、彼の手がアリアの素肌に触れる。先ほどまでのことを思い出してむずむずするけれど、心地いい。
そうして抱き合い、静かな時間が流れた。アリアがまどろみ始めた頃、ディートハルトが口を開く。
「アリア。俺たちに付き合ってくれて、ありがとう。さっきは弱気なことを言ったが、呪いを解くことをまだ諦めてはいない。それに……もしも解呪できなくても、俺は今と変わらず、きみとルカとともに暮らしていきたいと思っている」
「旦那様……」
そう言ってくれるのは嬉しい。でも、アリアは「解呪できなくても」という彼の言葉に頷くことはできなかった。
「旦那様。やっぱり、マルガレーテ様に解呪をお願いしてみてはどうでしょうか」
「だが、俺はきみに……」
「わかっています。でも……」
アリアは少し考えてから、自分の望みを彼に伝えた。
「私は、ステラさんの気持ちを大事にするあなたのことが好きです。そういう優しさや誠実さを尊敬しています。……でも、あなたとルカが触れ合い、笑い合う姿も見たいのです」
「……」
アリアは今、ディートハルトとは違う考えを口にしている。それでも彼は何も言わずに耳を傾けてくれた。




