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重なる想い②

「俺はステラのことなんて、なにもわかっていないんだ。俺がこんな男だから、ステラも許してくれないんだろう。俺は妹夫婦を死なせて、妻にまであんな態度をとる、優しさからは遠い人間で……」

「っ……」


 自分を卑下する言葉を、これ以上聞きたくなかった。

 たとえ彼自身であっても、ディートハルトという人のことを悪く言ってほしくなかった。


(あなたは、優しくて、誠実で、家族思いで……。私以外に呪いを解かせないって言い張る、頑固な人で……。私は、そんなあなたのことが……)


 アリアの心など知らず、ディートハルトは尚も自分の悪いところを並べ立てる。

 アリアは、とうとう我慢ならなくなった。彼女はぐっと彼の胸ぐらを掴むと、自分のほうに引き寄せる。


「……少し、静かにできますか」


 アリアがぎっと睨みつけると、ディートハルトはたじろぐ。それから彼はルカが眠るベッドを見やり、声を潜めた。


「あ、ああ。すまない。せっかくきみが協力してくれているのに、弱気になって卑屈なことを言ってしまった。あまりうるさいとルカも起きてしまうし、そろそろ……」

「……そうじゃなくて」

「?」


 胸ぐらを掴んでいた手が、彼の胸にそっと触れる。アリアは彼に縋り付くようにして、こう懇願した。


「私の好きな人のことを、そんな風に言わないでください」

「……は」


 夫を見上げるアリアの瞳は、潤んでいた。対してディートハルトは、面と向かって好きだと言われるとは思っていなかったのか、目を見開いている。


「私は、あなたのことが好きです。嫌な人だと思っていたのに、いつの間にか、あなたのことをお慕いしていました。……あなたは、私のことをどう思っていますか」

「そ、れは……。素敵な、女性だと……」


 ディートハルトの目が泳ぐ。彼の気持ちはこれまでの行動や言動からなんとなく察してはいた。

 けれど、決定的な言葉を口にされたことはない。逃がすものかと、アリアは追撃する。


「もっとはっきり言ってください。回りくどいことをせず、ストレートに」

「……好きだ。もう、きみのいない人生は考えられない。ずっと三人で一緒にいたい」


 観念したのか、ディートハルトはようやく「好き」の一言を口にした。

 そうだろうと思ってはいたが、実際に言われるとやはり嬉しいし、安心もする。

 アリアはそのたった一言を噛みしめながらも、ディートハルトに訴えかけ続ける。


「……では、もしも私が自分のことを不出来な妻だとか、ろくでもない姉だとか言い出したら、どう思いますか」

「……そんなことはないと、憤るかもしれない」

「同じです。私も、たとえ本人の言葉であっても、好きな人を否定されたくない。私はあなたのことがこんなに好きなのに。いいところをたくさん知ってるのに。それを否定しないで」

「アリア……」


 窓から月明かりが差し込んで、二人を照らし出す。ディートハルトが泣きそうな顔をしていたから、アリアは思わず笑ってしまった。


「なんて顔してるんですか。公爵家次期当主の騎士団長様なのに」


 彼女がディートハルトの頬に触れると、彼がアリアの手に自分のそれを重ね、頬をすり寄せた。


「きみの前だからだよ。冷たい態度をとる夫に突っかかって、人の事情に踏み込んで。俺のことをよく思っていなくても、ルカのことを受け入れてくれた。情けない姿を見せた俺のことを、好きだと言ってくれた。叱ってくれた。そんなきみの前だから、こんな顔ができる」


 ディートハルトの目尻には、光るものが浮かんでいた。

 アリアがそっとそれを拭うと、彼に抱きしめられる。アリアからも彼に身体を預け、二人は目を閉じる。

 こうしていると、互いの境界線もわからなくなってしまいそうだ。


「……突っかかるとか踏み込むとか。私、ちょっと強引すぎました?」

「いいや。感謝してるよ。きみの強引さに救われた」


 ディートハルトがアリアの髪を撫でる。その手つきがとても優しくて、触れられると心地いい。自然と二人は見つめ合い、互いに引き寄せられそうになったとき――。


「んん……」


 静かな部屋に、ルカの声が響いた。起こしてしまったかしら、とアリアが心配したのも束の間だ。

 ディートハルトは自分たちにカーテンをかけて覆い隠すと、アリアの頬に手を添え、唇にキスを落とした。


「っ……!」


 彼女は驚きから目を見開くが、すぐに彼を受け入れて目を閉じる。

 二度目の唇へのキスは、結婚式でのそれよりずっと甘かった。


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