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重なる想い

 その二日後には、アリアたちはマルガレーテに見送られながら王都を発った。

 もう少し王都にいることもできたが、そもそも王都にステラと縁のあるものは少ない。

 ブラント領に戻った方が、「正解」を見つけやすいだろうと判断してのことだった。

 別れの際、泣きそうになったルカはマルガレーテに「また来るといい」と頭を撫でられていた。


 ブラント領に戻るまでの道中も、アリアは毎日のように解呪を試した。

 ステラがブラント領と王都とを行き来きしたときと同じルートだから、一応、縁のある品や場所があるのだ。

 しかし全て空振りし、ただただ美味しいものを食べたり、素敵な景色を眺めたり、良い宿に泊まったりするだけになっていた。


(くっ……! 全敗だわ……! でも、ブラント領に戻れば、きっと……!)


 アリアは毎度悔しい思いをしながらも、ステラの故郷でもあるブラント領に望みをかけた。

 けれど、ブラント領に戻ってからも解呪は上手くいかない。

 帰宅からしばらくの間は、ディートハルトも「これはステラの好物で……」と自信ありげに食べ物を用意したり、領内の観光地へ連れて行ってくれたりした。アリアだって、今度こそ成功するかもと期待した。

 でも、ダメだった。なにを用意しても、どこへ行っても、ただ三人で楽しむだけになってしまう。


 そんなことを繰り返しているうちに二カ月ほど経過してしまい、ディートハルトも案を出すのに苦しそうだ。

 ある日は、彼が「ステラは人参のグラッセが好きだった」と言うから、人参のグラッセを用意した。

 特に変化はなかったから、次は人参そのものを用意して、祈った。当然のように、やはり失敗した。

 すると今度は、ディートハルトが「そういえば、ステラが人参のケーキを手作りしたことがあった」と言うので、アリアが人参ケーキを作って捧げ、解呪に失敗し、ルカを含めた三人で一緒に食べた。


 さらに一か月が過ぎたころには、ディートハルトはすっかり自信を失っていた。心当たりのあるものは、全て出しつくしてしまったのだろう。

 そんなある日の晩、三人でベッドに入りルカが眠りについたころ、ディートハルトは小声で「アリア、まだ起きているか」と声をかけてきた。

 アリアが「はい」と答えると、彼がそっとベッドを出たからアリアも続いた。

 ルカが眠るベッドからは少し離れて、夫婦は窓から外を眺める。アリアの肩にかけられたストールは、夜は冷えるからとディートハルトが気遣って渡してくれたものだ。


「解呪の件、付き合わせてすまないな」

「いえ、とんでもないです。あなたの妻としての、私の仕事だと思っていますから」

「……そうか」

「そうですよ。『付き合わせてすまない』なんて、らしくないこと言わないでください。結婚したばかりの頃の、冷たいあなたはどこへいったんですか?」

「っ……。それは……」


 アリアは下からディートハルトを覗き込み、からかうように笑う。彼はといえば、気まずいようで言葉に詰まってしまった。

 そんな姿がなんだか可愛らしく思えて、アリアの唇は弧を描く。


「ふふ、冗談ですよ。今はもう、わかってますから。あなたは、ちょっと不器用なだけの優しい人だって」

「優しい、か……」

「旦那様?」


 アリアはてっきり、優しいと言われたディートハルトが照れたり、「別にそんなことないだろう」とムキになって否定したりすると思っていた。けれど、彼は静かにそう口にするだけだ。

 声が憂いを帯びている気もして、アリアは心配になって彼の表情をうかがう。すると彼は、苦しそうに目を細めてアリアの頭に触れた。


「……俺が本当に優しい男だったら、どれほどよかったことかと思うよ。優しい男だったら、出会ったころのきみを傷つけたりしなかった。良い兄だったら、呪いだってきっともう解けている。俺は結局、良い夫でもなければ、良い兄でもない」

「そんなこと……」


 たしかに、新婚当時のディートハルトの態度はひどいもので、到底良い夫ではなかった。

 今でこそ良好な関係を築いてはいるが、妻として迎えた女性の性格次第では、新婚生活は破綻していただろう。


(でも……良い兄ではあったんじゃないの? ルカにとって、良い伯父さんでもあるでしょう? 優しい人じゃないなんて、そんなの……)


 きっと彼は、何か月も解呪に失敗し続けたことで、心が弱ってしまっているのだ。

 マルガレーテの言葉から察するに、解呪の失敗はステラからの拒絶を意味する。あれだけの時間と回数をかけて拒絶を繰り返されれば、気持ちも滅入るというものだろう。


(だとしても……。なんか、嫌だな)


 そうとわかっていても納得できなくて、アリアの胸がつきりと痛んだ。


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