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変わり始める気持ち ② sideディートハルト

「……ん? 何々? なんか悩んでる感じ?」


 会話をしながらも、アシュリーは騎士たちが模擬戦を始めたのを見て「おー」と感心している。一応、演習を見に来たという話も本当らしい。


「何か悩んでるなら、聞いてやってもいいよ。俺たち親友だろ?」


 親友の部分を強調して、アシュリーはディートハルトの肩に触れる。

 それから、彼はちらりと警備兵を見やると退室を促した。これで、特別に設けられた観覧席はアシュリーとディートハルトの二人きりだ。


「ほらほら、話してみなよ~」


 アシュリーはディートハルトと肩を組み、話せと迫る。実に楽しそうな彼とは対照的に、ディートハルトは眉間に皺を寄せていた。


(このお気楽王子が……。だが、気を遣ってくれてはいるんだろうな)


 ルカの父・ルークを喪った今、ディートハルトが気楽に話せる友人は近くにいない。個人的なことを相談できる相手など、もう存在しないに等しいのだ。

 アシュリーはそれを理解したうえで、話を聞こうとしているのだろう。


 アシュリーが、ディートハルトの幼馴染で友人だという話は本当だ。年の近い王子の遊び相手として選ばれ、幼い頃より彼に振り回されてきた。

 アシュリーは昔からいい加減な面が目立ったが、実は冷静で真面目なところもある。面白がって他言することもないだろう。


(少々不安はあるが……。アシュリーになら話してみてもいいか)


 他者の目がなくなったのをいいことに、ディートハルトはアシュリーを振り払う。「なんだよ~」と拗ねるアシュリーを横目に、ディートハルトはここ最近の悩みを……アリアとの仲について、語り始めた。

 アリアともっと仲良くなりたいが、結婚当初の自分の態度のせいで不信感を抱かれている。自分なりに好意を伝えても、意識してもらえない。

 そう悩みを打ち明けると、アシュリーは「へー」とにまにまとしている。


「……なんだその顔は」

「いーや。やっぱり、俺の見立ては正しかったんだと思ってさ」


 その通りだから、ディートハルトは何も言い返せない。もしも結婚相手がアリアではなかったら、こんな風に思うことはなかっただろう。

 ちなみにここでは話さなかったが、ディートハルトは三人でベットに入った際、寝起きの自分がアリアを抱きしめていることにも既に気が付いている。わかっているけれど、起き抜けのぼうっとした頭では、彼女を愛おしく想う気持ちを止められないのだ。


「お前のほうはアリアさんにだいぶお熱みたいだけどさ。それ、ちゃんと言葉にして伝えてるのか?」

「……」

「してないんだな。一度は彼女を突き放したんだ。今はそう思ってない、仲良くなりたいと考えてるって、はっきり伝えないとアリアさんも混乱するだろ」


 普段おちゃらけているアシュリーにしては、まともな意見だった。ディートハルトも賛同はできる。しかし、一つ問題があった。


「……好いた女性と、どう接すればいいかわからない」


 これにはアシュリーも真顔になった。

 ディートハルトは公爵家の嫡男で、もう二十五歳だ。仕事を優先してきたとはいえ、親に勧められて見合いだってこなしてきた。言い寄ってくる女性も多数いた。けれど、恋愛感情を抱くことはなかった。

 女性たちだって、「結婚する気はない」と冷たく接すればディートハルトから逃げていった。彼女たちは皆、ひどい男だと言って被害者として振る舞い、ディートハルトが冷徹男だという噂を流した。

 ディートハルトがもっと話したいと思うのも、抱きしめたいと感じるのも、アリアが初めてだった。

 ……だから、どうやって距離を縮めればいいのか、わからない。七つ下の妻を相手に初めて抱いた感情に、彼は戸惑っていた。


「……初恋?」


 アシュリーがおそるおそるそう尋ねてくる。否定できず、ディートハルトは彼をこづいた。




 結局その日のディートハルトは、酒の席を設けて夜までアシュリーに付き合うことになった。「そろそろ王都に帰るんだから、少しぐらい付き合え」とのことだった。

 聞けば、公爵家に滞在しなかったのも、ディートハルトを飲みに誘わなかったのも、新婚の二人に配慮してのことだったらしい。

 羽目を外したアシュリーにたらふく酒を飲まされたディートハルトは、珍しく酒が回った状態で屋敷に戻った。ふらつきながら玄関をくぐり、上着を脱いだらルカの部屋へ向かう。

 ベッドを覗き込むと、アリアとルカがぴったりとくっついて眠っていた。二人とも安心しきった様子で、気持ちよさそうだ。


「アリア……。ルカ……」


 酔ったディートハルトは、当然のように自分もベッドに潜り込む。落ちないよう、アリアのほうに身体を寄せた。本能に任せて、アリアを抱きしめる。

 するとルカにも手が触れて呪いによる痛みが走ったが、二人から離れたりはせず、手の位置を調整するに留めた。そうして、彼も間もなく寝息を立て始めた。


 翌朝には、起き抜けのアリアに「なんでいるんですか……」と問われた。二人は向き合った状態で、両者まだぼうっとしている。ディートハルトは、ずきずきと痛む頭に触れながらこう答える。


「自然とここに来ていた……。俺だって、きみと……きみたちと一緒に寝たい。仲間外れは嫌だ……」


 するとアリアは「はい?」とまったくもって意味がわからないという顔をした。


「あなたの帰りが遅かったからじゃないですか……。子供みたいなこと言って……」

「アシュリーの相手をしていたんだ、仕方ないだろう……」


 そう言うと、ディートハルトはアリアを自分のほうへ引き寄せる。アリアも慣れたもので、特に抵抗せず受け入れてくれた。


「頭が痛い……」

「飲みすぎなんですよお……」

「飲まされたんだ……」


 触れ合うと温かくて、眠気を誘う。二人の声は徐々に弱弱しくなっていき、揃って二度寝した。

 そんな二人は、先に起きていたルカが、ベッド脇で自分たちを眺めていることなど知らなかった。


「ハルにいさまとアリア、ラブラブ……」


 ルカは小さくそう言うと、口元を押さえてくすくすと笑った。

 実はルカは、寝起きの二人がベッドで仲睦まじくしていることを知っていた。二人が仲良くなることは、ルカにとっても喜ばしいことだ。だから彼は、早くに目が覚めたときには自らベッドを抜け出し、この夫婦を二人きりにしていた。

 結局、愛などないはずの夫婦は、使用人が起こしに来るまで身を寄せ合って眠っていた。



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