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弟、襲来 ②

 その後、少しだけ休憩してリアムの旅の疲れを癒したら、アリア、ルカ、リアムの三人でお屋敷を散歩した。


(手紙に書いてあった通り、天使みたいだな……)


 リアムはちらりとルカを見やる。彼から見て、ルカは愛らしい男の子だ。まだ五歳の、守るべき存在だと思える。しかし、だ。


(愛人の子じゃないだろうな)


 ルカに「ここはごはんをたべるところ」「ごはんをつくるところ」と案内されつつも、リアムは以前の姉と同じ疑問を抱いていた。


(もし愛人の子だったとしても、ルカ本人にはなんの罪もない。だから、ルカは悪くない。だが旦那は別だ! 愛人と子供の存在を隠して結婚して、あまつさえ姉さんに世話をさせるなんて、最低だ! クズだ! ドクズ野郎だ!)


 内心で姉の夫・ディートハルトを批判しつつ、ルカには笑顔を向ける。リアムは姉と同じく、子供に罪はないと分別のつけることができるタイプだった。


(幸い、好きなだけ泊まっていいと言われている。僕の滞在期間中に、真実を暴いてやる!)


 彼は屋敷の中をじろじろと観察する。不貞の証拠を集めるためだ。

 リアムとアリアは姉弟というだけあって、思考回路が似ていた。


***


 リアムの到着から数時間が過ぎ、ブラント公爵家は夕食の時間を迎えていた。

 夕食前には、帰宅したディートハルトとリアムが挨拶を交わす場面もあった。

 そのときのリアムはにこやかだったものの、姉の旦那に対する敵意が滲み出ていた。

 しかしディートハルトがそれを気にするそぶりはなく、義弟を家族揃っての夕食に誘っていた。


 食事中、やっぱりリアムは態度が悪い。ただそれはディートハルト限定で、ルカや公爵家の使用人に対しては本来の柔和さを見せている。

 ルカやアリアと笑い合っていたのに、ディートハルトが会話に参加した途端に「けっ」と嫌な顔をするのだ。


「あなたなんて、姉さんの良さをよく知りもしないくせに」

「ちょっとリアム? 旦那様に失礼でしょう?」


 リアムがそう発言したときには、流石のアリアも弟を叱りつけた。しかし、翌日も態度は変わらない。

 朝食の時間も、リアムはディートハルトを睨み続けた。

 さらに午前中は、ディートハルトが執務室にこもっているのをいいことに、リアムは使用人たちにルカとディートハルトの関係について聞いて回っていた。

 それらの行動から、アリアも弟が何を考えているのか察した。


(私と同じように、愛人の子じゃないかって疑ってるのね……)


 たしかに、傍から見れば疑いたくもなる状況だろう。元々ブラント公爵家と関係のある者ならば、彼らが伯父と甥として接していたことも、ルカの両親のことも知っている。

 けれどアデール伯爵家の面々はそうもいかない。だって、結婚式の日までディートハルトに会ったこともなかったのだ。

 当然、彼の妹や甥と面識があるはずもない。「この子は甥っ子です」と言われても、リアムが「本当に甥なのか」「新婚なのにどうして連れてきたのか」と感じるのも無理はないだろう。



 昼食を終えたら、ルカを含めた三人で庭を散歩した。

 初対面の時、リアムはルカを怖がらせた。けれど流石は三人の弟の兄といったところか、既にルカの心を掴んですっかり仲良くなっている。

 リアムがルカを肩車すると、それ以降、ルカが自分から抱き上げてほしいとねだるようになった。それを見守るアリアも、微笑ましい気持ちだ。


(楽しそうでよかったわ。……旦那様も、本当はこうしてルカに触れたりしたいのかしら)


 リアムに抱えてもらい、いつもより高くなった目線で木の実や花を見るルカはとても楽しそうにしている。そんな中、アリアはディートハルトがどんな気持ちで過ごしているのかと考えてしまい、目を伏せた。

 少し経つと、ルカのお昼寝の時間になった。ルカが寝就いたことを確認すると、アリアは弟と二人で過ごす時間をとった。

 姉弟で庭を歩きながら、アリアは愛人疑惑を晴らすための言葉を探した。何か考え事をしているのか、珍しくリアムも大人しい。


(どう話せば、リアムは納得してくれるのかしら……。愛人なんていない、妹さんの子よと話したところで、簡単には信じられないわよね)


 アリア自身も、過去にはディートハルトを強く疑っていた。だから簡単には疑いが晴れないことも理解できる。


「あのね、リアム……」


 それでも、無言でいるわけにもいかない。ルカがいない今がチャンスだと感じて、アリアは意を決して口を開いた。しかし、それを遮るようにリアムが話し出す。


「姉さんはさ、甥っ子だって話、信じてるの?」



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