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【完結保証】没落伯爵家の私が嫁いだ相手は、呪われた次期公爵様でした ~放っておけずにいたら、夫と甥っ子くんに溺愛されています!~  作者: はづも
第二章

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三人で、一緒に ③

「んん……」


 カーテンの隙間から朝日が差し込み、アリアは目を覚ます。視線の先には、いつもの朝と違う光景が広がっていた。


(あれ……? 私、なにをして……?)


 ぼんやりとしたまま昨日の記憶を掘り起こし、昨夜はルカと一緒に寝たことを思い出す。そのはずなのに、アリアの視界にルカはいない。少しだけ、ベッドのスペースが空いているのみだ。


「ルカぁ……?」


 どこに行ったのかしら、とアリアが身体を起こそうとする。しかし、どうしてか身体が動かない。まるで、大きなものに後ろから身体を抑え込まれているかのようだ。

 なにかしら、とアリアは自身の背後を確認する。すると、そこには――。


「っ……!?」


 ディートハルトの端正な顔がすぐそばにあった。まだ眠っているようで、彼は目を閉じている。

 アリアの動きを封じているのも彼で、抱き枕のようにされていた。さらには、彼の手が少し自分の胸に触れていて、それに気が付いたアリアは頬を紅潮させた。


「ちょっ……! ちょっと! 旦那様!」


 ディートハルトの拘束から抜け出そうと、アリアがもがく。けれど騎士団長でもある彼はびくともしない。

 そうしてアリアが動けば動くほど彼の手がきわどい位置にあたり、彼女はついに声を張り上げた。


「だ・ん・な・さ・まっ!」


 すると、彼が青い瞳を覗かせる。これで解放されるとアリアが安心したのも束の間で、どうしてか、彼はより強く抱き寄せてきた。


「え、ちょっ、旦那様?」


 その上、頬をすり寄せられている気もする。寝起きにこんなことをされるなんて、まるで愛されているかのようだ。

 あまりのことにアリアが硬直していると、彼はアリアの耳元でこう囁いた。


「……ありがとう、アリア。きみのおかげで、俺は……」


 夫の腕の中でアリアがぎゅっと目を瞑る。羞恥に耐えながらも、彼の言葉の続きを待った。

 ……しかし、その先が聞けることはなかった。代わりに、すーすーと穏やかな寝息が聞こえてくる。


(なに!? なんて言おうとしてたの!? 『俺は』なに!?)


 ディートハルトの本音が聞けると思ったのにと、アリアはすっかり拍子抜けしてしまった。

 それと同時に、彼から愛情や感謝を向けられることに期待してしまった自分にも気が付く。

 ついに耐えきれなくなったアリアは、そんな自分の気持ちを誤魔化すかのように腕に力を込めた。


「いい加減、起きてください!」


 ディートハルトのみぞおちに、アリアの肘が入る。流石の彼も目を覚まし、何が起きたかわからないといった様子でぽかんとしていた。

 二人は上体を起こし、ベッドの上で向き合う。

 アリアは肩で息をしながら彼を睨み、ディートハルトはただただ自分の胸元を押さえる。どうやら、アリアを抱きしめていたことにすら気が付いていないようだ。


「……おはようございます。旦那様」

「あ、ああ。おはよう……」


 嫌みっぽく挨拶しても、彼は戸惑うだけだ。アリアは一つため息をついて、ディートハルトを許すことにした。


(まあ、寝てたんだもの。本人の意識がなかったんだから仕方ないわよね。くっついてくるタイプなのは意外だったけど……)


 今になって、がっしりとした彼の身体の感触を思い出してしまった。頬が熱くなるのを感じながら、アリアはぷいっと顔を背けた。

 二人の間に、気まずい沈黙が流れる。しかし、アリアはあることに気が付いてディートハルトに向き直る。


「旦那様、お身体のほうは大丈夫ですか? どこか痛むところなど……」

「ん……。そうだな……大丈夫そうだ」

「でしたらよいのですが……。一応、見せていただいても?」

「ああ……」


 寝起きだからか、ディートハルトも素直だ。彼は自身の胸元に手をかけ、服を脱ごうとする。

 アリアとしては腕や足だけ見せてもらえばよかったのだが、脱いでくれるならそれに越したことはない。

 彼が素肌を晒す直前、どこかからがたがたと物音が聞こえてくる。


「……?」


 その音の正体を探るため、アリアは辺りを見回す。すると、部屋のドアが開けっ放しなのがわかった。さらにその周辺からひそひそと話す声も聞こえてくる。

 朝の姿を見られていたことを確信したアリアは、そっとベッドを抜け出して、廊下を覗き見る。


「坊ちゃま、もう少しだけ待ちましょうね。今、奥様と旦那様がとてもいい感じで……」


 そこには、部屋の入口でルカを止める侍女のヘレンと、自分の口を押えてこくこくと頷くルカの姿があった。


「……ヘレン?」


 アリアが怒りを含ませてそう言えば、ヘレンは顔を青ざめさせた。



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