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【長編版】男装皇女の逆転劇 ~双子の兄に変装して結婚する相手は隣国王女――と思いきや女装した超絶美形王子!? 私の男装は初めから見抜かれ、溺愛されていたなんて聞いてません!~  作者: 綾森れん
第二幕:皇女は本領を発揮して味方を増やす

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15、ミシェル、ついに秘密を打ち明ける

「ちょっと――」


 抗議の声もむなしく、長い指が私の唇に触れた。そのまま頬をかすめて髪を撫でる。


「僕のかわいい皇子様」


 ミシェル様は私の額に口づけを落とした。


 さっきからミシェル様の声、殿方にしか聞こえないし、どどどどうしようっ!?


 余裕の笑みを浮かべたミシェル様はベッドにすべりこみ、毛布を引き寄せた。


 長い桜色の髪が、私の頬をくすぐる。それに気付いたミシェル様が、


「おっと失礼」


 少し骨ばった指で髪を耳にかける。その仕草が色っぽくて、私は熱に浮かされたように見入ってしまう。


 待って待って。私を魅了するこの人は女の子? それとも青年なの?


「セザリオ様、僕が何者か気になっていますね?」


 ミシェル様の力強い腕に抱きすくめられる。ふわりと薔薇の香油が漂った。


「僕には秘密があるんです」


 口元に蠱惑的な笑みを浮かべて、ミシェル様は人差し指で私の唇に触れた。


「スーデリア王国が抱える大きな秘密です。誰にも言わないでいてくれる?」


「もちろん」


 今まで何度も脳裏をかすめた疑問が解けてゆく予感に、鼓動が速くなる。


 ミシェル様は私の手を取り、自分の胸に当てた。


 心のどこかで願っていた通り、手のひらに力強い胸筋の弾力が伝わる。


 ミシェル様の唇が、私の耳に近づいた。


「僕、男の子なんです」


 熱い吐息が耳朶をくすぐり、全身が火の玉みたいに熱くなる。


 返事をできずにいると、


「今までだましていてごめんなさい」


 ミシェル様はしゅんとしてしまった。


 私はふかふかの枕に埋まった頭を慌てて左右に振る。


「ミシェル様は、お小さい頃からずっと女性の服を?」


「生まれたときから王女と偽って育てられたのです」


 スーデリア国王夫妻は長い間、子供に恵まれなかったそうだ。ようやく生まれた息子を失うことを恐れた国王は、王子が無事に成人して妃をめとることになったら、実は男子であると公表するつもりだったらしい。


 私がミシェル様に惹かれたのは、なんの不思議もなかったのだ。


「セザリオ様、僕が男の子でも愛してくれる?」


 ミシェル様の海色の瞳が、きゅるるんと私を見つめる。


「私はミシェルを愛している。ミシェルが女の子でも、男の子でも、関係ない」


 気付けば私、告白してる!? 大聖堂で愛を誓い合った仲だから、今さらかしら!?


「よかった。僕もセザリオ様を愛しています」


 ミシェル様が私を抱きしめ、こめかみのあたりに頬をすり寄せた。


 待って待って! ミシェル様は男の子。でも私はまだ正体を明かしていない。もしかしてミシェル様、ユーグと同好の士!?


「セザリオ様、不安そうな顔をしないで」


 長い指先が私の頬を撫でる。


「セザリオ様もきっと、たくさん背負っているものがあるのでしょう。話せる時が来たら、話してくれればよいのです」


 ミシェル様のやわらかい口づけが、私のまぶたに落ちた。


「焦らなくて大丈夫」


 包み込むような微笑を浮かべて、私の髪を撫でてくれる。聖母様のような彼のほほ笑みに包まれて、私は久しく忘れていた安心感を覚えた。


 絶え間なく聞こえる雨音に誘われ、次第に睡魔がまぶたを重くしていく。


 どうやらミシェル様も同じようで、いつの間にか長いまつ毛を伏せていた。


「僕の国に伝わる古い信仰では、肉体はただの器で、魂は男にも女にも生まれ変わるとされています」


 ミシェル様の声が次第に遠のいていくようだ。


「僕が愛したのは、あなたの強く優しい魂なんだ――」


 眠りに落ちる寸前、私は彼の甘い声を聞いていた。




 翌朝も私は皇帝の執務机に座ったが、仕事に集中できない!


 午後には法衣貴族たちとの会議が控えているから、書類仕事は午前のうちに片付けたいのに、文字を目で追っても内容が頭に入って来ない。心が不安定になった父上が、仕事を山積みにしていた気持ちも少し分かるかも。


 ミシェル様は朝早くに宮殿を発ち、修道院が運営する孤児院の視察へ向かった。隣に彼がいてくれたら、昨夜の会話を頭の中で無限に繰り返すこともないのに!


 ミシェル様は「焦らなくて大丈夫」と言ってくれた。すでに男装が見抜かれていると考えるべき? 秘密を打ち明けても、ミシェル様は今まで通り接してくれる?


 頭では、彼の態度が変わることはないだろうと思っていても、心は千々に乱れるもの。彼をだまし続けるのは嫌なのに、新しい関係に進むのも怖い!


 こんなときに限って私を仕事に駆り立てる宰相はいない。侍従長が開けた扉から入って来たのは、宮廷魔法医筆頭ファルマーチだった。


「これはこれは、うまく化けておりますな。そっくりですじゃ」


 すっかり白くなった髭を揺らし、含み笑いを浮かべる。好奇心をむき出しにした目で値踏みする視線に悪寒が走った。兄の主治医である彼は当然ながら、私が男装した皇女だと知っている。


「先生、兄の容態は?」


 私は動揺を悟られまいと、書類に目を落としたまま尋ねた。


「ふむ、魔法医師団で毎日回復魔法をかけておりますが、殿下はいまだ目覚めませぬ。それよりわしが伝えたいのは、皇帝陛下のことですじゃ」


 ファルマーチの目がぎらりと光った。


「陛下は何者かに睡眠薬を盛られておりますな」


「なに?」


 私は執務机から顔を上げた。


 侍従長は、白いもののまざった髭をせわしなく撫でながら、


「まさか! お食事はすべて、毒見役が確認しております!」


 唾を飛ばして訴える。


「ただの酒の飲み過ぎではなかったのか」


 私は腕を組み、背もたれに体をあずけた。


「酒」


 侍従長がぽつんとつぶやいた。その顔色がみるみる蒼白になってゆく。


「あの蒸留酒でしたら、毒見役は飲んでおりません!」


 彼の視線はシェルフに乗った酒瓶に注がれている。


 私は思わず革張りの椅子から立ち上がった。


「酒類もすべて、毒見が確認するはずでは?」

次回、酒の入手経路が明らかに! 犯人は敵か味方か?

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