look at this・・・004 失敗を貸してくれ
「なぁ、瑞希、失敗したことある?」
そう、聞いたのは、金曜日の帰り道だった。
並んで歩く結人の足取りがいつもより遅い。
「あるよ、今朝けん玉で」
瑞希は笑いながら答えた。
「じゃなくて、ほんとの失敗 なんか誰にもいえないようなもの・・・」
結人は不思議そうで、半分は真剣に答えた。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「実は来週けん玉のデモストレーション、頼まれてるんだ」
「えっ・・・すごいじゃん」
「断ろうと思ってて・・・俺、一回だけ人前で失敗して、固まったことがあるんだ それがトラウマで・・・」
瑞希は言葉をさがした。
瑞希はポケットから自分のけん玉を取り出し、
「これ貸すよ、ほぼ失敗しかしないけど・・・」結人がきょとんとした。
「失敗しても、これのせいにすればいいから」
瑞希のけん玉には無数の傷があった。塗装も剝がれていて、軸には何度も手を加えたあとがった。
「これには、失敗がたくさん詰まっているから、大丈夫だよ」
結人はじっとけん玉を見つめたあと、
「貸してくれる?失敗」
「たっぷりあるよ」
「ありがとう」
「デモストレーション、受けることにする、そう返事するよ」
次の月曜日
けん玉デモストレーションの日
体育館の真ん中に立つ結人は、緊張を発信していた。
でも、手にしていたのは、瑞希のけん玉。
そして、一度失敗。皿にガツンと音を立て、落下した。
「今のは、瑞希のせいなので・・・・・・」
体育館に笑いのざわめきを呼んだ瞬間だった。
結人はもう一度けん玉を構え、二度目は、皿の上にのった。
拍手が起きた。瑞希には、トラウマにさよならしたように見えた。
誰かの失敗が別の誰かを、支えることも可能になる。
玉の揺れる音は今日も誰かの心を弾ませているのだろう・・・・・