look at this・・・003 軸の奥からの伝言
「これ直せる?」
ある昼休み、結人が瑞希にけん玉を差し出した。軸がぐらついていた。玉を支える細い芯が少し斜めになっている。
「昨日うっかり落としちゃって、そのあとから、何かおかしくて、何年もつかっているからなぁ・・・」
瑞希はけん玉を見つめ、木目に汗染み跡があり、皿の縁にはすり減ったあとがあり、上達の証拠だと思った。
放課後
「けん玉ちょっと持って帰って借りていい?」」
「いいよ・・・」
「ちょっと借りるね、思いついたよ、けん玉、直るかも・・・」
瑞希は帰宅した後、工具箱を出し、けん玉の修理をした。
芯の部分に細い紙を挟んで巻く。隙間を埋めるために。
「よーし」
カチっと小さな音がはじけた。ぐらつきが消えた。
翌朝
「おはよーっ、ちょっと、やってみて・・・」
「あっ、戻ってる、ありがとう」
けん玉の軸は地味で見えない部分は、玉を支える、大切な中心だった。
「大事な人の言葉って見えない軸になるんだよねぇ・・・」
結人は呟いた。
「"心を支えるのは揺れに耐えられる芯だ"って言ってたじいちゃんの言葉が忘れられなく残ってるんだ、俺・・・」
瑞希は自分の中の軸を考えた。
誰のどんな言葉が自分を支えているのだろう、そー言えば小学生の頃に、
《できなくても、挑戦している顔・行動が素敵だよ》
母の言葉がよみがえってきた。
その日のことづてに瑞希は《言われたことは忘れても感じたことは軸になる》と書いた。
その日の放課後、結人がけん玉を回しながら、
「直してくれた、この軸最高に、強いよ」
瑞希は顔を赤くして笑った。
けん玉はただの遊び道具じゃない、言葉の三面鏡。
心が揺れる日、心が沈む日、心が晴れる日・・・