look at this・・・001 風の課題帳
新学期の朝、教室の空は緊張に包まれていた。
瑞希は窓際の席に座り新しい担任真柴先生の声に耳を傾けていた。
「皆さんには、今日から朝のけん玉に挑戦してもらいます」
教室にざわめきが弾け通る。
「けん玉?」「小学?」瑞希も眉をひそた。
まさか、中学生でこんなことをするなんて・・・。
真柴先生は続けて
「朝いちばん、ひとり1回せいこうしても、しなくでも、その時の気持ちを一言紙に書き残してほしいんです」
教室の後ろの壁にはボードが設置されていた。
"今日の自分へのことづて"
と書かれている。
その横には無数のメモ用紙とけん玉が立てかけてあった。
「できる・できないより、自分の今をちゃんと見る時間という、目的で、三面鏡のように、正面だけじゃなく、横の心・裏の気持ち・小さな気づきなど」
瑞希は小さく息を呑んだ。
"鏡にうつる自分の心?"・・・
その日瑞希はぎこちなくけん玉を手にした。
小学生の時少し触れただけだった。玉は重く、手の中で少しなつかしさがよみがえった。
クラスメイトのひとり、ひとりが挑戦し、成功したり、失敗したりお互いを見つめ合っている。
順番が近づくたび胸の奥の緊張は、大きくなる。
瑞希の番。
構えてけん玉を上げる、あっ・・・乗らない。反対側も、玉が逃げてしまい、乗らない。
周りの視線に緊張を膨らませている気がした。
三度目、玉が皿に乗った。わぁっ・・・、心臓がドクンと響いた。
そのまま"ことづてボード"へ歩き紙に書いた。「たまたまじゃないな」
翌日、失敗した。次の日もそれは続いた。
指がコントロールできない・バランスがつかめない・心の不安定の表れなのか?・経験値を貯金中・・・・など、気が付けば、たくさんの"ことづて"が並んでいた。
今日は大いに揺れたけど、乗った・手が震えた、気持ちも・悔しい・・・。
"けん玉の時間は遊びじゃない"小さな紙に書かれたメモは、ただの言葉じゃなく、毎朝心を整える前進するための材料に変化していた。
そして瑞希もけん玉を通じて少しずつ自分の気持ちを知る力を身に付け始めていた。