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真実の愛

 

 真実の愛


 「え?」

 セザールは立っていた。

 消し炭にもならず、白い肌には火傷の跡もない。

 当然、焦げてもいない。


 「あ—もう! 服が灰になってるよっ!」

 見かねたカロスタークが、自分の上着を着せてやっている。

 セザールはほぼ全裸だったから。


 「え? なんで? 私、もう死んだんだと・・・」

 上着を着せた後、それでも足が丸見えになると気が付いたカロスタークにしゃがませられたセザールは、信じられないと自分を見下ろしていた。


 「『婚約破棄』しても、オレがあげたプレゼントは使ってくれていたんだね?」

 小さく笑いながら、カロスタークはセザールの左腕を指さした。

 細めのブレスレットが輝いている。

 「それ。『魔法力吸収のブレスレット』なんだ」


 『魔法力吸収のブレスレット』。あらゆる魔法を一度だけ無効にする、レアアイテムである。


 「うそ・・・」

 呆然とした声が、セザールの形のいい唇から零れ落ちた。

 王族でも持っている者は多くない。

 かなりのレアアイテムなのだ。


 「わ、わたし、レプリカだとばかり・・・」

 「『婚約者』にレプリカなんてプレゼントしないよ。あー、まぁ確かに? 婚約記念でもないバースデープレゼントにしては高すぎたかなってあとで思ったことはあるけど」

 相場の軽く100倍のプレゼントだったことには、反省したこともあるとカロスタークは頭を掻いた。


 「だ、だったら言いなさいよ! こんな高いもの、そんな気軽に使わせないで!」

 プレゼントされてから、一度も外したことはない。

 外したのはシャルルと付き合っていた10日ほどだけだ。


 そうと知っていたら、もっと使い方を考えられた。

 舞踏会でのドレス選びだって、露出は少なくしつつ腕は出すデザインにしたはずだ。

 『婚約者』がくれた最高のプレゼントを、みんなに見せつけるために。


 「君の命を守るものだからね。高いものだからってしまっておかれたら本末転倒だ。現に、今回はそれで助かったんだし」

 肩をすくめるカロスターク。

 セザールの顔が怒りに染まった。


 「バカ―!」

 「うおっ?!」


 いきなり怒鳴られたカロスタークが仰け反る。

 その胸を両手でつかんで、セザールが力いっぱいに揺すった。


 「なんでっ、なんで、そういう大事なこと言わないのよ! 今になって惚れさせてどうすんのよっ! もっと早く言ってくれてたら———、もっと早く言ってくれてたら違ったかもしれないのに!」

 シャルルに目移りなんてしなかった。

 そう言いそうになって、セザールは言葉を呑み込んだ。

 内心で首を振る。


 それはない、と——。


 高いプレゼントで心を買われるほど安くはないつもりだ。

 このプレゼントが『本物』でも『レプリカ』でも、結局自分は愚かなことをしただろう。


 今惜しく思えるのは、先日の騒動でシャルルへの熱情が冷めているからだ。

 カロスタークを『婚約中』よりも大切に思っているから、惜しく思えるのだ。


 高いプレゼントをくれていたのだと気が付いたから、惜しいのではない。

 それだけ大切にしてくれていたのだと気が付けたから、惜しいのだ。


 これは、あの愚行と一連の騒動がなければわからなかったこと。

 その場の気まぐれを『真実の愛』と思い込み、愚行を犯したことで本当の『真実の愛』が見えた。

 セザールは自分の中からとめどなく溢れ出る温かい気持ちに、おぼれそうになっていた。


 「婚約してたときの自分から私を寝取るなんて。いじわるすぎる」

 「えっと。それって惚れ直したって意味?」

 「そうよ! 男爵令嬢に『寝取る』とか言わせないで!」

 「それ、オレ関係なくない?! 自分で言っただけだろ!」


 次元の低い、下品な喧嘩だ。

 二人ともそう自覚しつつ、言い合いはしばらく続く。


 男爵令嬢とその『婚約者』では言えなかったことも、いまなら言えることに気が付き。それが愉しかったから。


 「惚れさせた責任は取ってくれるの?」

 「元からそのつもりだけど、『婚約者』は無理だよ?」

 二度の婚約破棄があった女なのだ。

 いまさらまともに『婚約』なんてできない。

 貴族社会が許さない。


 「『側女』の席は空けておいてくれるんでしょ?」

 「空けてって・・・あれは制限ないじゃんか」

 「なら、いいわ」

 「いいのかよ」


 オレ——カロスターク・レッドルア——は、高すぎるプライドをかなぐり捨てた男爵令嬢セザール・フォン・モンモラシーを過去の自分から寝取った・・・らしい。



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