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タノシイ学園生活3

続編となります。

セザールのその後的な話です。

        タノシイ学院生活3


 あれから10日が過ぎた。

 なにかとお騒がせではあったが、表面上は落ち着きを取り戻している。


 全体的に『丁重な無視』というスタンスだ。

 関り合いにならなければ、それでよし。

 そんなところだろう。


 変わった点と言えば、セザールが常にカロスタークの左斜め後ろにいて、彼の荷物を持っていることがあげられる。

 秘書とか付き人の位置、役割だ。

 なのだが・・・。


 「・・・・・・」

 何気なくセザールの様子を見ると、青ざめた顔で周囲に視線を送っている。


 理由は単純だ。

 学院屈指の美女にして男爵令嬢が『婚約者なしのフリー』だという事実。

 もともと憧れていた奴らや、うまくいけば男爵令嬢を自分の物にと考える者たちが、彼女を鵜の目鷹の目で狙っているのだ。


 この可能性があったから、全校生徒の前であんなパフォーマンスまでしたというのに。

 これほどまでかという思いが、カロスタークに湧き上がっていた。

 あのパフォーマンスのせいで逆に、『傷心して弱っている今なら押せばイケる!』などと考えるおバカさんが増殖してしまったようなのだ。


 だから、カロスタークはわざと声高に命令して、セザールを自分の側に侍らせ続けていた。

 男性しか入れない男子棟とトイレ、浴場以外全部ということになる。

 おかげでセザールは友達と話す時間もないはずだが、元より先の騒動でハブられているから関係ない。

 ただ、なんにでも『例外』はあるもので——。

 

 「おー、セザールちゃんいた―!」

 ときどきさらっていく者がいる。

 なにがあっても、カロスタークの友達だよと宣言して、今もそれを貫いているクレールだ。


 クレール・ド・トルネソル。

 トルネソル子爵家の4女。

 第一夫人の娘ではあるが、女系家族で娘が多いせいか放任されているという変わり者だ。

 柔らかな蜂蜜色の髪と、菫色の瞳。白磁の肌。

 『黙っていればお嬢様、しゃべり始めれば町娘、性格は田舎のおばちゃん』。というのが巷の評判だ。


 「まぁ、そうでなきゃ、オレと友達だなんて吹聴して回らんわな」

 そこそこ人気があったのに、そんなバカなことをしたもので今や片手で数えられるほどしか友人がいない。


 だからなのだろう。

 この10日間。

 暇を見つけてはセザールをさらっていく。


 「別にいいんだが、一体何してるんだ?」

 さらっていくのは構わないが、なにをしているかは気にかかる。

 無駄かなと思いつつ聞いてみた。


 「言うと思うか?」

 くふふっ。

 なんか聞いたことのあるようなセリフと誰かをまねているような作った声音で答え、笑っている。

 

 やっぱりか!

「・・・・・・」

 予想通り過ぎて何も言えず、ジトっと睨むカロスターク。

 

 「キャハハハッ!」

 笑い声を残して去っていくクレールの背中を見送った。


 「ほんと、なんなんだ?」

 「わからないかい?」

 「っ?! ギョームか。何か知っているのか?」

 「知らないのはたぶんカロスタークだけだよ」

 

 ギョーム・ド・オセアメール。

 オセアメール準子爵の長男が、呆れたような笑みを浮かべて見せた。

 先祖は海賊だったというが、無駄に温和な性格をしている男だ。

 先祖から受け継いだのは、小麦色の肌と茶髪、それに黒い瞳くらいか。


 「オレだけが知らない?」

 「うーん。気にしていない、かな。正確には」

 「?」

 訳が分からず、疑問符を乱舞させるカロスタークをギョームは楽しいものを見る目で見つめた。


 「その目はやめろ。気持ち悪い」

 「ああ。ごめん、ごめん」

 「で? お前は教えてくれるのか?」

 「もうすぐでしょ? 中間試験」


 中間試験。

 学院とか学園とか呼ばれるモノには必ず存在するイベントである。

 この『王立学院』にもご多分に漏れず存在していた。


 法律や計算の筆記試験と剣術などの戦闘系、魔術などの魔力制御系の実技試験がある。

 この学院が『のちに起きるであろう大戦に備えての人材育成』が主目的で設立されているため、内政と軍事、情報他各種専門職を輩出しているからだ。


 「ああ。あれか」

 大して興味もなく呟く。

 カロスタークはもとより商家の生まれ、物心ついたころから算盤——東の国に伝わる計算機——を使って遊びながら算術と慣れ親しんでいた。

 なので、計算はお手の物、そして算術というのは基礎ができていればあとは積み重ねるだけでいい。

 剣術などと違い、新しい技を覚えるとかはいらないのだ。

 積み重ねは日々の資産運用でしてもいる。

 ゆえに、試験のための勉強なんてしたことがない。

 『気にしていない』となるわけだ。


 「クレールは魔術の適性があって、そっちに進むから試験に備えた準備があるのさ」

 「準備って、どんな?」

 「戦闘訓練だな。後衛職だから、前衛と盾役を配した三人一組で行う『三対三制』に出るんだ。セザール様は剣術を得意としていたから、前衛にするんだと思うよ」

 「とすると、お前が盾役?」

 「やめてくれよ。そんな話が親父の耳に入ったら殺されて深海に沈められるだろ! 僕は『一対一』の槍部門だよ」

 「とすると、盾役は?」

 「そこまでは僕にもわからないよ。でも、カロスタークを引っ張っていかないとこを見ると当てがあるんだろうな。魔職は貴重だから、友人にはなれないけど試験では協力する。そんな奴はいるだろう」

 「なるほど」


 納得。

 カロスタークは頷いた。

 わかってしまえば、どうというものでもない話だ。




 どうという話でもないんだけど——。

 なんなんだろう?

 カロスタークは内心で頭を抱えていた。

 表面上はポーカーフェイスを維持しているが、正直かなり困惑している。


 「いいか? おれは鉄壁のリシャール。彼女たちを守る強靭な男なのさ」

 胸元をはだけ、腕の筋肉を隆起させて見せつけてくる金髪男に絡まれているのだ。


 脈絡もなくそんなことを言ってくるので、なにを言いたいのかもよくわからない。

 カロスタークは、疑問に思いながら口を挟むこともできずにいた。

 男——リシャールだったか——は聞きもしないのに自分上げの他人下げを垂れ流して悦に入っているようだ。


 まぁ確かに?

 筋肉はすごい。

 カロスタークの三人分は優に保持しているだろう。

 だが、だから何なのか。



 「——そんなわけだから、クレールちゃんとセザール様を俺に譲って消えろ」

 「ああ」

 それか!

 ようやく、リシャールが何を言いたいかが分かって、思わず声が出た。

 すると——。


 「おお。わかってくれたか。お前、見所あるぜ」

 破顔一笑。

 たぶんわざとだと思うが、力のこもった腕で肩を叩いてきた。

 無駄に暑苦しい男だ。


 「いや、別に承諾はしていませんよ?」

 結構痛かったので身体を捻って躱しながら否定した。


 そもそも、クレールは友達だ。

 友達を譲るとか意味が分からない。

 セザールにしても『側女』という立場ではあるが奴隷になんてしていない。

 家庭の事情でオレに借りはあるが、それだけ。

 学院内にいる間はオレ以外と関わるのが難しいだろうから居場所を提供しているが、卒業すればあとの進路は自由意思で決めて問題ない。本人にもその旨、ちゃんと伝えてあった。

 『譲る』対象ではないのだ。


 「あ゛? テメ―、立場分かってんのかよ!」

 安い芝居の悪役みたいなセリフを吐かれた。


 「いいか? お前なんて、ちょっと金があって悪知恵が働くってだけの商人だ。俺がその気になりゃ、いつでも潰せるんだよ! 社会的にも、物理的にもな!」

 右手の親指を立て、首を切るジェスチャーをして見せられた。

 

 「脅しのつもりか?」

 くだらないケンカに乗るつもりはないが、これ以上絡むのなら対応を考えるぞ?

 カロスタークの目に危険な光が瞬き始めていた。

 セザールという『婚約者』がなくなった今、カロスタークに怖いものはない。

 ずっと、『男爵令嬢に相応しい自分』を演じていたが、その枷は取り払われたのだ。

 

 「やめといた方がいーよぉ―」

 さすがに不快になり、身構えかけたオレを止める者がいた。

 荒事とは無縁そうな柔らかな手でカロスタークの肩を抑え、そっと押すのはクレールだ。

 

 「鉄壁のリシャールって二つ名は自称じゃなくて、実力だから。本当に潰されちゃうよ?」

 クスクス笑いながら、相手の男を持ち上げる。

 

 「さすがクレールちゃんはわかってくれてるぜ」

 自分との間に割り込んだクレールを抱きしめ、どや顔をするリシャール。

カロスタークをバカにした目で見ていた。


 「ほらほら、セザールが待ってるよ。訓練場いこ!」

 ふわりと身をひるがえしてリシャールの腕から抜け出たクレールが、そのまま腕を引いて去っていく。

 

 「ああ、そうだな。セザール様には俺みたいな強い男の方が似合うんだ。あんなガキみたいなへなちょこよりさ」

 その間も、リシャールは不快な笑みをカロスタークに向け続けていた。


 「あいつ、まさか——」


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