彼女は樹々を愛している
彼女は毎日、たったひとりで深い森の中に岐け入り、樹々と愛を交わしている
苔むした山毛欅の巨木にわが身をあずけ
滑らかなヒメシャラの艶めかしい肌に舌を這わせ
馬酔木のねじ曲がった幹に秘部を押し当て
青海原の崖のきわでウバメガシに口づけし
人を拒むシャクナゲの枝の交差に拘束され
無数の白い蜘蛛の絹をふくよかな胸に纏う
彼女は自ら、森の樹々によって執り行われる妖しげな祭祀の贄になろうとしているのだ
幾巡りの月と長夏を経て
彼女はついには森の花嫁となるだろう
彼女はそれを心待ちにしている
【注】
伊豆の山の樹々は、関東近隣の植生と若干異なっていて、少し熱帯っぽい雰囲気がします。
なかでも標高1000m下のあたりを中心にしたヒメシャラの森が、すごく好きです。
だって彼女たちの肌は、すべすべでとっても気持ちいいんだよ?