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転生ヒロインの悲喜交々

転生ヒロインは世知辛いこの世の未来を悲観する

作者: とも

「転生ヒロインは世知辛いこの世に光を見いだす」 https://ncode.syosetu.com/n1729ir/ と

「転生ヒロインは世知辛いこの世に光を見いだす」 https://ncode.syosetu.com/n1729ir/ の続き。

「アマリー。君、私達の養子になるかい?」


 軽い調子で切り出されて動きが止まった。

 

 なんだって?

 

 ぱかりと口を開けて伯父侯爵の顔を見詰める。隣に座った母がそっと顎に手を添えて、ぱくりと囗を閉じさせられた。

 尚もまじまじと見詰めていると、うん?と首を傾げられた。

 なんだよ顔良いな。イケオジか。


「いきなり何!?それと彼女はアマリーじゃなくてアメリー!」


 父が驚愕の叫びを上げる。びっくりするよね。そうだよね。にこにこしながら言う事じゃないよね。

 そして伯父侯爵、私の名前うろ覚えじゃないか。


「ジャンヌに娘が欲しいと言われていてね。どうしたものかと思っていたら、丁度良い所に丁度良い年頃の娘がいるじゃないか。教育には少し遅いくらいだけど、お前の娘なら頭も悪くないだろう?教育すれば、なんとか娘扱いが出来るようになるかもしれないと思ってね。どうだい?」

「どうだいってそんな犬猫みたいに……」

「もちろんお前にも損は無いように取り計らうさ。月金貨2枚くらいでどうだ?」

「そんな問題じゃ無いって!ああもうだから嫌なんだこの家は!!」


 金貨2枚はそこそこ大金だ。

 それくらいあれば、家族4人程度ならある程度不自由を感じずに生活することができる。

 そう、4人!無論私は入っていない。母のお腹に3人目がいるのだ!

 侯爵領に来てから判明した。時期的に言って、休暇の相談したころだな。いちゃついてたからなー。爆発してしまえ。いやほんとに爆発したら困るけど!



 ……それにしても、金額的に上手いところを突いてきたな。


 金貨2枚。確か父の給金と同じくらいだったか。月末、母に手渡していた金貨の枚数を思い出す。

 家賃、食費を払った後、石鹸や服のための布地など、毎月必須ではないけど無いと不便だなーて物を購入したら少々余る、という感じ。

 カツカツに苦しい生活を強いられること無く、大手を振ってというまではいかないが、平均的な暮らしができる額。ほのぼの暮らす庶民であれば満足のいく額である。


 まぁ、あくまでも「そこそこ不自由なく」だが。

 ミシェルが大きくなったら食費や服飾費なんかで苦しくなるのは目に見えている。だからこそ、母も働いていたし、洗礼用のお布施だってこつこつと貯めていた金だった。


 父の給金である金貨2枚と、施される予定の、これまた金貨2枚で合計4枚。そして私が居なくなることによって浮いてくる生活費。差し引きひっくるめると収支は大幅にプラスとなって、残される家族は生活に余裕が出るだろう。

 恐らく母が働きに出なくても良いくらいには。

 母が家にずっと居るなら私が子守をしなくても良いし、もう一人兄弟が増えても大丈夫になる。確かに損はない。


 ほんと、犬猫と同じだなぁ。「毛並みが良い小娘が丁度目の前に居る。欲しいからくれ」で、それが堂々と罷り通る。何だったら金をずっと貰える分、扱いは良い方だ。やだやだ。貴族怖い。


 しかしまぁ、庶民の扱いってこんなものだよな。


 父の兄である「貴族」は、弟の子とは言え平民である子供を気軽に「くれ」と言う。そこに「愛情」なんて感じられない。皆無である。

 そして先の口ぶりからすると、そんな「貴族」の有りようを嫌った父は、「嫌だ」と言ってくれたのだろう。

 普通の、ちょっと生活が厳しい親であれば、二つ返事でほいほいと娘を差し出すくらいの良い条件だから。

 もし両親の性格がもう少し悪ければ……もう少し生活が苦しければ父は悩みながら手放すことを決意し、母は今後のミシェルと、もう一人の弟か妹のことを考えて、涙ながらに私を差し出しただろう。

 もしかすると原作のアメリーはこんな遣り取りがあって、養子としてほいっと差し出されたのかもしれん。思い当たって、はははと乾いた笑いが漏れる。



 なんだか原作崩壊してるっぽいぞ。


 

 渋い顔で私の今後を左右する言い争いをじっと眺める。なお、母はおろおろすることもなく、若干青ざめつつも静観の構えだ。そんなところは元貴族だね。逆らえないとわかっているのだろう。


 しかしこの話、たまたま今の時期に私が姿を現したからだと思われる。

 本来ならもう少し経ってからこの話が出た筈だ。だって「なんとかできるかもしれない」と言っていた。

 マンガのヒロイン、どう見たって貴族令嬢として何ともなってないもの。

 たとえ自分が侯爵子女であったとしても、あの態度はない。

 伯父の家に滞在し、メイドさんの態度や伯父夫婦、祖父母の様子を見るに、あれは無い!!

 たまたま肩書きが「侯爵」だったから良かったものの、乙女ゲームでよくあるパターンのある男爵や子爵の人間だったら、下手すりゃ無礼打ち一直線だ。


 転生してこの世で短いながらも過ごしてきた私は恐怖を感じる。

 今までは実感してなかったけどね。だって貴族と平民の生活は、生活圏がこれっぽっちもかぶらない。お忍び?あんなの夢だよ。いくら治安が良いと言っても貴族子女がふらふらしてたら誘拐してくれと言っているようなものだ。護衛ぞろぞろ引き連れてたらあんなにきゃっきゃうふふはできないしね。少なくとも私は無理だ。

 

 だからこの邸宅に来て、お城と見まごうばかりの邸宅に足を踏み入れて、父と伯父の会話を聞いて……ますます無理だと悟ったね。

 

 なお、伯母が娘を欲した理由はわからない。

 物語として考えれば、攻略対象達と年の近い娘を政略結婚のために手に入れて、なのだろうが伯父侯爵は権力にしがみついている様子は見たところ感じ取れ無い。伯母も然り。

 この家には王城勤めの立派な跡取りである息子が居ると教えてもらったし、無理して背伸びする必要は無さそうだ。

 ちなみに跡取り息子は王太子付きの部署に勤めているらしい。大勢居る文官の一人になれたそうな。

 確か20歳くらいだったよな。


 伯父侯爵似の少し神経質そうな雰囲気を待った、年の離れた従兄弟の顔を思い出しながら一つの可能性を思いつく。

 息子が中央で出世しても問題が出ないよう、領地用に適当な婿取りができる娘を用意して、中継ぎ侯爵にしたいとか?


 あり得る。まだ見ぬ孫が成長するには、これから10年以上かかるだろう。そして下手に頭の出来が良い遠縁の男子なんかを養子にしちゃったら、お家乗っ取りの可能性がゼロではない。いくら伯父侯爵が元気であっても、その者の野心次第で先のことはわからなくなる。

 その点姪なら問題無い。元が平民だから立場を取り上げるのも簡単だし、弟の子供だからと養子に迎えるにあたって反対は少ないだろう。

 10年そこそこ、毎月金貨2枚支払ってもリスクヘッジとしては十分だ。


 とっても高級な香りの紅茶に手を伸ばし、子供らしくないふかーーいため息を吐く。


 父が休暇を取って早20日ほど。休暇開始早々、伯父の公爵邸にお邪魔してミシェルの顔見せをした。

 先触れは出してあったから祖父母、伯父夫妻とも滞りなく面会が出来、長期滞在も許されて旅行気分で過ごしている中、私とミシェルは予想していたとおりとても可愛がられた。


 ペット枠だけどな!


 ミシェルがきゃらきゃらと笑っているうちは「かわいいわねー」とご機嫌だが、おなかがすいた、おむつを換えろと泣いた途端、やわらかーい苦笑を浮かべながら退席するのだ。

 あやすこともしない。母が席を外していても、言伝も引き継ぎも皆無。

 ぽいと投げるように興味を無くし、後は居ないもの扱いだ。

 母は乳母扱いだな。いや、母親なんだから乳母呼ばわりは語弊があるけど、「あら泣いたわよ。騒々しい」みたいな態度で「あとは良しなに」てなもんだ。

 だから来て早々「よい子」の仮面を被った私はともかく、ミシェルは侯爵一家用の居室に通されたことは無い。ずっと客間で隔離されていると言って良いだろう。

 抱っこして散歩しても、戻されるのはちょっと遠目の客間である。今ならわかる。幼児の泣き声はうるさいから、遠ざけられている。

 可愛がりたいときに顔を出し、泣いたら退出。あるいは使用人に伝えて母ごと別室に呼び寄せ、泣いたらさようなら。

 

 両親もなー。父はたとえ円満で理解のある平民落ちだったとしても、お役目もほっぽり出した負い目があるのだろう。この扱いに不満を訴える気は無さそうだ。そもそも不満を持っているかも怪しい。母的にも文句は無さそうだから、これが貴族的に「正しい」か「よくある」態度なのかもしれない。


 でも私は嫌だ。


 意識したことは無かったけれど、平成・令和のニッポンに生き、多少の不満は持ちつつも自分の力で生きていたという自負があった。

 だから貴族と平民の、明確な「生きる世界」切り分けや、ナチュラルに自分と同じ土俵に居る者ではないと、人を下に見る態度は受け入れられないし、受け入れたくない。


 その辺、ヒロインは何とも思わなかったのかなぁ。

 思わなかった可能性が高いな。

 端から見ると、娘は高貴な貴族に仲間入り、両親は生活に余裕が出て侯爵家の将来は安泰。三方よしだ。

 もし、原作の父が今の勤めではなくもっと貧しい平民で、ヒロインがきらきらしい貴族の生活に憧れた、学のない普通の少女だったら?ああなっても不思議は無い、かも?


 今の私たち一家は、思い付きでミシェルの顔見せを進言したせいで面会が叶ったが、それが無ければもっと私が大きくなってから伯父夫妻が「婿取り要員」として声がけがあった筈だし、貴族と接したことのない「私」は、貴族の怖さなんて知らないだろう。

  

 きっと乙女ゲームのバッドエンドにあるべき落とし穴は、この辺りが関係するのかも。


 侯爵家の没落、とまでは行かないけど、無礼打ち手前、社交界からの追放及び領地への謹慎なんかはありそうだ。

 その場合婿取りのため、侯爵令嬢のラベルだけ貼られた下賤の者として飼い殺し一択だろうなー。

 子供だって必要無い。ここんちの孫が正式な跡取りとして成長するまでの間、婿というラベルの優秀な人材を繋ぎ止めておくためだけに存在していれば良いのだから。



 悲観的すぎるかもしれないけど、当たらずとも遠からずでは?



 もう一度ため息を吐く。


 貴族フラグ、折れないかも。

 こうなったら生活改善だけでも目指すべきか。


 

 生き残りサバイバルめいてきたぞ?なんてこった。

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