7古京へ、ただし犯罪者として
ここは、大京国を東西につなぐ、主要な街道。街道上は、多くの商人や旅人が行きかい、活気を見せている。
大京国の都、古京に近づくと、その賑わいはもはや、街道上を埋めつくす群衆のようだ。
街道上には数里毎に茶屋が設けられ、街道を行きかう人々が集まっている。
茶屋では、人々が休憩がてら、互いに交流し、どこから来たのだとか、どこへ向かうのだとか、情報交換をする。商人であれば、互いの商品を見せあい、いいものがあれば売買が行われ、物流拠点としても機能している。
そんな賑やかな街道を物々しい恰好をした集団が歩いてくる。ザッザッザッ、という一糸乱れぬ足音、見事なまでに統率がとられた集団であり、みな、黒い羽織を羽織っている。羽織の襟元には「御用」と書かれていた。
その異様な光景は目にした街道上の人々は、とっさにその集団をさけて道を譲る。
街道上は行きかう人々でごった返しているが、黒い集団が進めば、皆、道をあけ、両脇に人垣ができたようなまっすぐな道が街道上にできる。
両脇の人垣が見つめるのは、黒い集団の真ん中あたり。
黒々しい集団が大きな篭を担いでいる。篭の中には、縄で全身をぐるぐる巻きにされた男—竜真が座っていた。
その縄はすぐ脇にいる御用と書かれた羽織を着た男と結ばれ、脇に立つ男は手に立札を持ち、そこには「異教なる者 捕縛す。」と書かれていた。
両脇の人垣の群衆たちは、怪訝な目でその集団を見つめ、その真ん中で篭に中の縄で縛られた竜真に注目するのだ。人々は小声ながらささやく。
「やーねー。異教徒ですって。」
「怖いわね。」
「黒船の連中か。」
「異教徒殺すべし。」
「火あぶりじゃね?」
「どうせなら刀の試し斬りをさせてくれねーかな。」
両脇の人垣から恐ろしい声が聞こえるのを竜真は不安ながらに聞いていた。今、竜真は「御用」と書かれた人たちに捕まり、大京国の都、古京へと護送中なのだ。
竜真は捕まった最初は非常に楽観的だったが、周りから聞こえる群衆からの声に、竜真は徐々に不安になる。竜真はすぐ脇にいる御用の人間に声をかけた。
「あの・・・これから俺はどうなるんでしょうか?」
「あぁ?こらから牢屋敷に連れていき、貴様の量刑を決める。」
「そ、ですが・・・量刑って大体、どの程度なのでしょうか?」
「まぁ、だいたい火あぶりの刑ぐらいか、態度が良ければ、斬首で一瞬で終わらしてくれるぞ。態度悪いと四肢切断されたうえで放置されて苦しみながら死ぬぞ。」
(え、え、えぇぇぇぇぇ。)
竜真は耳を疑う。死罪前提なんですか。俺、これから死ぬんですか。
「おおそうだ。ここだけの話、いいことを教えてやろう。お前、金は持ってるか?どうせ死ぬんだから金持ってるなら、執行人に全部渡してやりな。そうしておけば、なんだかんだ言って、一瞬で終わらせてくれぞ。」
(何スカ。そのいらないここだけの話。金出しても結局、死ぬんでしょ。あぁ、俺の運命終わった・・・。)
竜真は齢十五歳にして、自身の最期を悟るのだ。
もはや、竜真にできることは何もない。御用の黒い集団は、竜真の意志とは無関係に大京国の都、古京へと向かって行く。
皮肉だ。道に迷っていた竜真だが、そのままでは確実に古京へたどり着くことはなかっただろう。
ところが、罪人、それも、ほぼ死罪確定という異教徒の罪となることで、迷うことなく古京にたどり着くのだ。
竜真を連れた御用の集団は、周りの通行人にジロジロと見られながら、古京の中心地へ進む。
進んだ先には広場があり、中央に人のサイズぐらいの十字架の鉄の棒が三本ほど地面から刺さっていた。
他にも、地面に不自然な穴がいくつもあったり、木の板が置いてあるが、その上に四本の杭が打たれていたりする。
竜真は付近の御用の人間に聞いてしまった。
「なぁ、この広場は何だ?」
脇を歩いている御用の人間が竜真に近づいてきて、わざわざ説明をしてくれた。
「あの鉄の十字架が見えるだろ?あそこによ、人を括りつけて、磔の刑にしたり、まわりに藁をおいて火をつけて火あぶりにするのさ。穴は斬首用の首を落とす穴だな。あの木の板の上に四本の杭があるだろ。あの杭に手と足を括りつけて、四肢を解体するのさ。」
竜真は聞かなければ良かったと後悔する。
よく見れば、地面が赤くなっている。板の上も色が赤く染まっているが、赤く染まっていないところがあり、その形が見事に人型になっていた。
何があったのか容易に想像ができてしまう。
余計なことを聞いてしまったと気づく竜真だった。