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87響き渡る鐘の音

 今でこそ、魔術といえば、個人が発するものだが、遥か昔は集団技術、複数人で気を集め、放出するというのが一般的だった。より強力な魔術を放てるためだ。


 だが、歴史が進むにつれて、平和になると、強力な魔術は必要とされず、いつしか、複数人による魔術は衰え、個人による魔術の発動が当たり前になった。

 その流れは今に続き、過去に行われた複数人による魔術の発動は、危険な魔術として、それを禁術と呼び、封印した。


 そして、今、バランタインにいる一人の男が禁術の一つを復活させ、放とうとしていた。


 魔術は「気」を使う。人、誰しも持っている体内に秘めたエネルギー、それが「気」だ。

 魔術とは、「気」を炎や、風、氷といった元素に変化させ放出する魔術だが、モルトが復活させた絶魔終滅魔術、またの名を神撃、それは「気」そのものを放出する魔術だ。


 この魔術では、放出する「気」と、魔術を発動させる「気」の二種の「気」が必要となる。

 魔術を発動させる「気」、それでも、大量の気を必要とするが、術者たちの気を利用する。

 一方、放出する「気」、この量によって魔術の威力が決まる。一国を滅ぼさんとする魔術であれば、それこそ、表現を筆舌できないほど気が必要となる。


 モルトは考えた。

 どうすれば、それだけの「気」を集めることができるか。その答えは、民から気を吸収すること。


 そのための一つの秘策が魔法陣だったが、これは事前に竜真たち諜報員がいることを疑い、何らかの妨害をしてくると予測していた。

 むしろ、それを利用して諜報員をあぶりだすために利用した。


 もう一つが、魔術による手段。

 モルトの傘下には優秀な魔術師たちがそろっている。

 気を吸収する魔術を利用し、民から気を吸収するという作戦だ。その作成は成功し、今、バランタインの上空には、民から吸収した気が、赤黒い空一面に広がり、ときたま、黒い稲光が光っている。


 それは、あまりに不気味な様子だった。


 パーティ会場でも、多数の貴族が、不気味な空を眺めている。

 モルトは、不気味なまでの空を眺めながらも、微笑んでいた。

 なぜならば、ついに念願となる魔術を放つ準備ができたのだから。


 モルトの横にいた、将軍と呼ばれる男がモルトの肩を叩く。


「おい、モルト・・・これは・・・」

「閣下、見てください。この不気味なまでの空を。ついに来ました。これで、ついに、あのサルども滅ぼすことができるのです。さぁ、ご覧ください。」


 今は昼だというのに、夜のような暗さだ。空一面赤黒いために、赤みのかかった不気味な闇夜となっていた。

 それだけではない。バランタインは花と音楽の街、それまで、至る所で奏でられていた音楽はなくなり、ただ、海の音、風の音だけが聞こえる。

 人々は気を吸収され、多くの者はその場に佇む。

 バランタインには、至る所に花が飾られているが、何かの前兆なのか、花という花は、突然にしおれた。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・


 突然どこからともなく聞こえ始めた鐘の音。

 街には昔の名残で、多数の教会がある。独特な形状の建物で、尖塔を有し、その頂には鐘がついていた。

 今はただの飾り、決して鳴ることのない鐘。

 だが、今、街中の鐘が一斉に鳴り始めた。街全体から聞こえる鐘の音は、ここガーデンでもはっきりと聞こえる。何か、恐ろしいことが起きるという前兆か。


 赤黒い闇夜であった空に、突如、光が差し込む。

 それは水平線の彼方のほうから、そこから徐々に、光が差し込む範囲が広がっていく、と多くの者は勘違いした。


 それは違った。光が差し込んでいるのではない。この赤黒い空がガーデンの中央に向けて収縮し始めた。だから、赤黒い空の端から光が差し込んだ。


 それまでの赤黒い空が、赤黒い巨大な球体となり、頭上に浮かぶ。その球体は、徐々に小さくなる。小さくなるほどに空に光が差し込むが、未だ至る所で、黒い稲光が、バチッバチッ、と音を立てている。


 いち早く気づいたのは竜真だ。

 赤黒い球体が収縮するに連れ、とてつもない、気、エネルギーが濃縮されているのを直感で感じ取った。

 それは危険信号に変わる。その場にいては危険と直感が感じ取った。


「まずい!、逃げるぞ。」


 竜真は、葵の手を引き、その場を逃げた。

 その場にいた他の魔術兵や、衛兵たちも、直感で同じように感じたのだろう。


「おい、なんか、やばくないか。」

「おい、逃げたほうがいいんじゃないか。」

「っていうか、逃げるぞ。」


 そんな声が聞こえ、一人、二人と、その場を逃げ出す者が出始め、ついには、多くの兵士たちが、その場から離脱し始めた。


 頭上の赤黒い球体は、なおも収縮し、気、エネルギーの密度がとてつもないことになっていく。

 黒い稲光もバランタインの至る所で、起きており、稲光のないところは、どこにも存在しない。


 パーティ会場にいた、貴族たちも、とてつもないことが起きることに気づき始めパニックになっていた。


「おい、逃げるぞ!」

「キャー。」

「落ち着け、押すな!」


 パーティ会場では、走って逃げだす貴族、その場にうずくまり動けなくなる女性、他人を下敷きにしてでも逃げ出そうとする男など、会場内はパニックだ。


 唯一、モルトは落ち着いていた。


「すごい、すごいエネルギーだ。これだけの気が集まれば、」

「おい、モルト、すごいのはいいが、少し、まずくないか。お、おい、儂は、急用が出来たから、先に急ぐぞ。」


 横にいた将軍と呼ばれる男は、未だ正常を保っていたが、モルトに適当な嘘をついて、その場を離脱する。

 モルトには、その話すら、耳には入ってないようだった。


「すごい、すごい、凄すぎる。これぞ、神撃、西国よ、西国のサルどもよ、滅びるがよい!!!」

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