86神撃~二人は目撃す
竜真と葵はガーデンの外へと逃げ出した。
二人が行きついたのは、パーティ会場の窓ガラスから見えたガーデンの庭園だ。今は、多数の魔術兵がいる。
一旦は庭園の植え込みに隠れ、一時様子を見る。様子を見てると、集まっていた魔術兵は、一人一人が淡い光に包まれ始めた。気を錬成しているという証拠だ。
「ねぇ、竜真、これって、何かやばいんじゃない?」
「あぁ、わかってる。魔法陣は使えないことは分かっていたんだ。別の手段を考えていたのだろう。」
様子を見ていると、まだ背後からは衛兵が追ってきた。
「ちっ、もう来たか。」
「前進しましょう。前進あるのみよ!」
「前進って、あれだけの魔術兵がいるんだぞ。葵、やれるか?」
「当たり前じゃない。あたしの魔術の練習台にでもなってもらうわ。行くわよ。」
竜真と葵は、隠れていた植え込みから一斉に飛び出す。一部の魔術兵たちがこちらの様子に気づき、応戦するが、未だに多くの魔術兵たちは気の錬成を続けている。
竜真は雷撃剣で、葵は自身の周囲に展開した多数の魔銃で、魔術兵たちを蹴散らしていく。
圧倒的に竜真と葵が優勢だ。
竜真と葵は一度背中合わせになる。
「そんじゃ、俺は衛兵を担当する。」
「あたしは、魔術兵ね。」
二人はその場を飛び出し、衛兵と魔術兵に切り込んでいく。
竜真が刀を薙ぎれば、雷撃剣の紫色の放電だけが残像として見える。
葵は、自身のまわりに展開した魔銃で魔術兵を一掃する。
もはや、天下無双、竜真と葵の前に敵はいない。
惜しむべきかな。もし、時間の制限すらなければ、竜真と葵の勝利であっただろう。
だが、パーティ会場の方から声が聞こえたのだ。それは時間切れを意味するものでもあった。
『我が、バランタインに栄光を!』
ガラスに挟まれているため、声は小さい。だが、庭園にいた竜真と葵にも確実に聞こえた。
その瞬間だ。
目の前にいた多くの魔術兵たちが一斉に強く光りはじめた。それは青黒い色へと急変し、気を錬成していた魔術兵一人一人から天へと向けて、バチバチと、音を立てながら、いくつもの青黒い光の球体が放たれた。
放たれた光の球体は、市街地や港町、居住区など、島内のありとあらゆる場所へ飛散した。
まるで、この庭園に巨大な青黒い花火が散ったかのように、青黒い光の残像が残る。
戦闘をしていた竜真、葵をはじめ、衛兵や魔術兵たちですら、この光景に目を奪われ、戦いどころではなくなった。
大小様々な青黒い光の球体が飛び交う中、一部は、空へと飛んだあと、この庭園にも降り注ぐ。降り注いだ青黒い光の球体は、一部の衛兵に直撃する。
すると、どうか。
「うっ、ち、力が吸われていく・・・・・・。」
といって、光の球体の直撃を受けた衛兵が、その場に座り込む。
衛兵の体には青黒い光の玉が吸いついたまま。だが、衛兵が座り込むと、徐々のその色が赤黒い色へと変化していく。それは、人に流れる血潮の色にも見えれば、漆黒の闇にも見える。
「『気』ね。あの光の球体が人から気を吸収しているわ。」
葵には気の流れが見える。葵でなくても、モルトの説明を聞いてれば、あの光の球体が何をする物かは容易にわかっただろう。
衛兵は、その場にうずくまったまま。赤黒く変化した球体は衛兵の体から離れると、ゆっくりとその場を上昇し、空気中を漂った。一人ではない。青黒い球体の直撃を受けた衛兵たち全員で同じことが起き、この庭園内でも、赤黒い色に変化した光の球体が、多数空中に浮かんでいた。
その様子は庭園にいた衛兵だけではなく、市街地でも同じことが起きているようだ。
庭園からでも市街地や港町を見下ろすことができ、それは異様な光景だった。
市街地や港町には、多数の赤黒い光の球体が浮上し、漂っていた。それは気持ち悪いぐらいに無数に、大量に、おそらく人の数だけ、あの光の球体が漂流している。
庭園から見下ろす街は、赤黒い球体状のものに占領されていた。
竜真や葵、それまで戦闘をしていた衛兵や魔術兵たちに、もはや、戦闘の意思はなかった。庭園から望む気色悪い光景を、皆、ただ見ているだけ。
漂流している赤黒い光の玉は、ゆっくり、上昇している。どうやら、この島の中心部、ガーデンに向けて移動をしているのだろう。
赤黒い光の球体は、上昇と移動しているうちに、別の光の球体と衝突する。すると、どうだろうか、バチッと音を立て、赤黒い光の球体同士が合体し、より大きな光の球体となる。その球体が合体する様子は、光の球体がガーデンに向けて集まるほど、密集するため頻発していく。
次々に合体を繰り返すと、手で持てるぐらいの大きさが、次々に巨大化していき、人ぐらいの大きさになり、家一つ分の大きさになり、ガーデンの宮殿の大きさになり、そして、島をも飲み込みそうな程に巨大化する。
巨大な光の球体は、もはや、空を覆いつくし、太陽を隠す。すると、辺り一面が薄暗くなった。
なおも、赤黒い光の球体は、合体を繰り返し、もはや大きすぎて、球体であるかどうかさえ、わからない。たまに、球体の表面で黒い稲妻のようなものが見え、バチッという音がする。
さらに球体が成長すると、完全に空を覆い、太陽の光を遮り、周囲は夜のように暗くなった。赤黒い空が一面に広がり、真っ暗というよりも、赤黒い不気味な暗さだ。ときたま、空には黒い稲光が光る。
まるで地獄のような光景だった。




