85バランタインに栄光を
「はぁ、はぁ。」
残ったパーティ会場ではモルトが、別段何をしたでもなく、ただ大声上げただけだが、息を切らしていた。モルトは大京国を下に見ている。その下にいる人間に邪魔されることが、よほど、嫌であったのだろう。
パーティ会場にいた参加者たちは、竜真と葵の逃亡劇、バレルとの闘い、叫ぶモルトを見て、シーンと静まっていた。上流階級の社会には似つかわしくない騒動、それにあっけにとられ、何もできずにいた。
ここで、モルトはチョウネクタイを締め直し、再度、テラスに立った。
「皆さま、大変失礼しました。ですが、これで邪魔者はいなくなりました。今こそ、憎きサルどもたちに鉄槌を下すとき。我ら選ばれし者が、不浄を消毒し、我らの聖地として新たな歴史を刻むのです。みなさまは、今、その奇跡を目撃することになります。」
モルトはすぐに横にいた兵士に目くばせをすると、兵士は合図を出す。
「みなさま、私は二つの方法を用意したと申しました。まぁ、一つはサルどものせいで発動できなかった訳ですが、ご安心ください。我がバランタインには優秀な魔術兵が多くいるのです。魔法陣という道具に頼る必要などないのです。これが二つ目の方法でございます。皆さま、どうぞ、再び、ガーデンをご覧ください。」
ガーデンには多数の魔術兵が準備を整えており、すでに気の鍛錬を進めているのか、魔術兵一人一人が淡く光り輝いていた。
「わたくしどもには、魔術の研究所がございます。民どもには長距離魔導飛行破壊兵器と称しましたが、これぞ、長年の魔術研究の成果。遥か昔に使われた例はあれど、あまりにも膨大な気を必要とし、禁術となって失われた魔術です。それを、我が研究所で復活させたのです。その名を『絶魔終滅魔術』、その威力から、またの名を『神撃』とも言われます。それを今、西国へと放ち、サルども国を我が手中に収めましょう。」
先ほどまで会場はシーンと静まり返っていたが、モルトの話を聞いた会場上の人たちは、一人がパチパチと拍手をし始めると、つられて、また一人、また一人と拍手をはじめ、一斉に拍手をした。
モルトが手を挙げると、会場内は再び徐々に静粛になる。
「我が、バランタインに栄光を!」
パーティ会場にいた参加者たちも復唱する。
『我が、バランタインに栄光を!』
モルトは手を下げると、ガーデンに集まっている魔術兵たちがより一層強い光に包まれた。