82バレた
「我々は、先の大海戦で敗戦しました。それは、敵を舐めていたという私の判断ミスもあります。真に慚愧に耐えるものです。ですが、それだけではないと私は考えていたのです。我々はこの海戦を内密にし、本来は奇襲に近い作戦でありました。ですが、海戦を事前に知っているかのように奴らは準備を整えてました。まるで、こちらの情報が筒抜けにではないかと思ったのです。そんなところ、ちょうど、我が軍隊に異国から来たと思われる者が入隊したそうです。タイミングが良すぎて不自然に感じませんか。」
竜真はモルトの話を聞くも、冷汗が出始めていた。
異国といっても、バランタインでは少数派だが、多数の異国の人がおり、兵にも異国出身の者もいた。
「そこで、私はふと思い立ったのです。この作戦では、多数の魔法陣を島内の各地に模写しなければならないのです。もし、その任務をその異国から入隊したという彼らに任せたらどうなるか。」
普段は鈍い葵も、このときは自然と竜真に身を寄せ、竜真の手を握る。
「我がバランタインは無敗の軍隊と称されていました。本来であれば、勝てるはずの海戦に、無敗と言われていたバランタイン軍が負けました。そして、今回だ。これだけの大魔術を準備しておきながらも、魔法陣は発動せずに魔術は発動しなかった。」
竜真と葵は、モルトの言葉に耳を傾けていた。
そして、いつもよりも人数が多いと思われた衛兵たちも、少しずつ、竜真と葵たちのいる会場中央に歩みを進めている気がした。
「なぜか?それはとても簡単なことでした。なのに、それに気づけなかった私めの責任でございます。どうか、皆さまは、このパーティ会場の隅へとお逃げください。どうやら、我が部隊に異国の者が入隊したとは聞いてましたが、サルどもの飼い犬が紛れ込んでいるようですな。まぁ、この会場を一目見れば・・・一目瞭然ですな。」
会場内が少し騒めくと、会場内にいる参加者たちは、みな竜真と葵から距離を置き、竜真と葵に視線を浴びせた。
会場内は貴族たちの場、貴族たちは、バランタイン出身の者が多いので、黒髪姿の人間は目立つ。
竜真は、自分のことではないよな、と周囲を確かめるも、大京国出身の竜真たちは明らかに目立つ。
モルトは、ゆっくりと手を伸ばし、竜真たちを指さす。
「貴様らだ!!!!!このクソ猿ども!!!!」
それと同時に、周囲の衛兵たちが竜真たちをめがけて一斉に襲い掛かる。
竜真は、抜刀する。
すぐに察知して、周囲からの攻撃を刀で弾く。
葵もすぐに魔銃を手にするとともに、手先からは炎撃を放つ。
炎は周囲の衛兵を巻き込むが、当然、衛兵たちも手練れだ。防護の魔術でもかけているのか、炎撃をもろともしない。葵が放った炎から中から衛兵が現われるが、そこを狙って葵が魔銃を連弾する。
「竜真!」
「あぁ、一旦、離脱しよう!」
葵が魔銃を連弾し、襲い来る衛兵たちを抑える。そのスキを見て、葵は雷撃を竜真に向けて放った。その雷撃を竜真は抜刀した刀で受けると、刀身には帯電し紫色の火花が飛び散る。
魔術剣、雷撃剣だ。
葵が両手に魔銃を出現させ、走りながら衛兵たちを銃撃し、衛兵たちの間に退路を作る。
それでもすぐに、周囲を別の衛兵に回り込まれるが、接近戦は、竜真が、刀で一掃する。一振りした形跡が、紫の稲妻の残像となって目に残り、触れた衛兵たちに次々と伝搬していく。
雷撃と組み合わせた雷撃剣、触れれば相手の行動を一時的に不能にするだけでなく、隣接する人にも雷撃を受けて、行動不能とする。密集する敵陣の中ではなんとも有効的な技だ。
竜真と葵は衛兵たちの群衆を抜け、とにかく、部屋の外へ通じる入り口を目指して逃げる。
葵はドレスの裾がまとわりついて走りづらい。
「邪魔ね。」
途中で葵はドレスの裾を破り、スカートを短くして走る。
一方、竜真は部屋の外に出るため、走りながら入り口にあるドアに体当たりして、ドアを破壊する。そのまま外へ出ようとするが、ボン!と壁にぶつかる。
ふと、竜真が顔を上げて、ぶつかったものを見上げると、それは人。上半身裸で筋肉ムキムキでモヒカン頭の大男、バレルだ。いつも武術訓練に付き合ってもらい、グレンからの任務では一緒に任務をこなすこともあった。