79ご主人様の正体
パーティの日の当日。
そして、同時に、ご主人様の部屋にあったカレンダーに〇のついていた日でもある。
パーティは昼からだ。
もちろん、パーティなので、それなりの恰好をしなければならない。
必要な着替えなどはガーデンに用意されている。
葵は、というと、女の子は時間がかかるのよ、と言って早めに宿屋ブルーを後にしていた。
男は基本は着替えるだけと、その分、竜真はゆっくり睡眠を嗜んでいたのだが、
「いい加減にしてください!ガーデンへ行くのでしょ!」
とタリスカーに無理やり起こされ、さすがに時間に間に合わなくなるので、急いで宿屋ブルーを出たのだ。
だが・・・
「えっ。」
思わず声が出てしまった。
宿屋ブルーを出た先に、ふと人影が見えた。そこで待ち構えていたのは、これまでずっと姿を見せなかったご主人様だった。
これまでまったく会えてなかったので、ここで会うとはまったく予想もできず、少し、あたふたしてしまう。
「竜真よ、少し話を聞け。」
宿屋ブルーのすぐ近くには、街を見下ろせる小さな広場があるのだ。そこへ移動しながらご主人様は話を進める。
「竜真よ。先に儂の正体を話しておこう。うすうす感じていただろう。まるで、儂が未来を予知しているかのように見えたのではないか。信じるかどうかは別だがの、儂はな、何度もこの時間を経験している。時間遡行魔術、禁書庫にあったから知っているじゃろ。その影響によるものだ。だからこそ、お主らがいつ来るかもわかるし、何が起きるかも知っておる。だから、先に言っておく・・・。今日は、竜真、お主、にとって運命の日、決して抗うことできない悲劇が起きるだろう。」
竜真はおとなしくご主人様の話を聞いていたが、突然言われたことに、まだ内容を飲み込めてない。何を訳の分からんことを言っているのだと、心の中で思っていた。
「そして、お前はその悲劇を何とかしようと奔走する。だから、先に言っておく、竜真、あきらめろ。でなければ、自身の破滅を招く。まぁ、言ったところで無駄なことは分かっている。どんなに儂が幾度となく言い聞かせても、お主はその悲劇を何とかしようと奔走した。今回とて、お主は彼女を助けようと奔走するじゃろ。どうか、儂の言葉が通じているのならば、彼女のことはあきらめて、そっとしておいてくれ。」
ご主人様は竜真を見つめた。
竜真も、突然のことに、何と返せばいいのか、わからない。
何の脈絡もなしに、突然と現われた宿屋のご主人様に、一方的に未来の占いの結果を告げられたのだ。
ちょっと意味がわからない。狂ってしまったのではないか、とすら竜真の心の中では思った。
「儂が言いたかったのは、それだけじゃ。」
ご主人様は、一方的に言いつけては、そのままバランタインを一望できるを風景を背景に振り返り、宿屋ブルーに戻っていった。
「ご主人様、ちょっと待ってください。悲劇って何ですか?彼女って誰?葵のことですか?」
戻ろうとするご主人様を引き留めるため、すぐに頭に浮かんだ疑問を大声で投げつける。だが、ご主人様は耳もくれず、振り向くこともなく、宿屋ブルーへ戻っていった。
竜真もしばらくは呆然としていた。久しぶりに会えたかといえば、あの様子だ。突拍子のないことを言いつけて、一方的に去ってしまった。
とはいえ、すぐに時間がないことに気づく。なにせ、どうせ男は着替えるだけだと、遅くまで寝更けていたのだ。
ご主人さまの話は頭の片隅にだけ置いておき、ガーデンへと急ぐのだった。