6異教徒として捕縛されました
今日は空は雲一つない快晴だ。
村を取り囲む木々では、小鳥たちがさえずり、朝の刻を知らせる。村は建物こそ、半壊、全壊の落ちぶれた村の姿だが、日が昇るにつれて、徐々に半裸の男どもが出歩き始める。
そんな村の周りに、ザッザッザッ、というような足音が聞こえる。人数にして二十人程度、黒い羽織を着た集団が落人村へ向かっていた。手には槍、羽織の襟元は「御用」と書かれている。一切の乱れがなく、見事なまでの集団行動。その集団は村につくと、お頭と呼ばれた男により、ある建物へ案内される。
その建物の中には一人の男が寝ていた。その姿はそれなりの武家の者を彷彿させならがらも、どこか、田舎丸出し感が出ている。
そう、竜真だった。
御用と書かれた羽織を男たちは、すぐに竜真を取り囲み、槍を彼の体へとむける。
そして、誰かが、その槍の穂先で、竜真の体をつんつんと突っつくのだ。
「う、うん、・・・まだ、うん。食べれない・・・。」
竜真は気持ちよさそうにしながら、謎の寝言を話しつつ、寝返りを打つ。
さらに誰かが、再び槍の穂先で竜真の体を突っつく。
「うん・・・ダメ。もうダメ・・・。」
竜真は、どんな夢を見ているのか、それでも気持ちよさそうに寝続ける。
誰かが、そんな状況に痺れを切らしたのか、竜真の体を思いっきり蹴った。
ボフッ!
というような気持ちのいい音がする。そして、悲鳴が上がるのだ。
「痛ってー。」
ようやく竜真は目を覚まし、上体を起こした。
そして、自分の目の前には、二十人ほどの男たちが槍の穂先を突き出している。
竜真は周囲を見回すも、何が起きたのか分かず。ポカンと間抜け顔をしている。
そんなとき、御用と書かれた羽織の来た男の一人が竜真へ向かって話しかける。
「貴様、異教信仰の罪で捕縛する。」
そういうと、見事なまでの手さばきで、竜真の体を縄で捕縛した。竜真はまだ、何が起きたのか分かっていない。
その裏で、話し声が聞こえる。
「貴様、大儀であった。」
そういうと、御用とかかれた男から、お頭が金貨を受け取る。
「へぇ、わっしも、魔術とか抜かすので、まさかと思いましたがね・・・。」
大京国では異教の信仰は禁止されていた。もちろん、「魔術」などという言葉を発するものであれば、異教信仰と見なされ、厳罰の対象なのだ。
お頭の子分と思われる男が竜真に話を振る。
「魔術使いさんよ。『魔術』とか発言するやつはいい金になるんだよ。なにせ、下手人を金貨一枚で引きっとてくれるからな。いや、いい稼ぎになった。はっ、はっ、はっ。」
その言葉を聞いて、ようやく竜真は何が起きているのかを悟るのだ。
「ちょっと待て、魔術を使えるというのは嘘だ。意識が朦朧として・・・俺は、魔術は使えないぞ。昔、魔術を見たことがあるだけで。」
竜真は必死に抗議する。が、しかし、魔術を見たという話は、魔術を信じているということアピールすることであり、自らを異教徒であると証明することになる。
「見てくださいよ、この男。『魔術を見た』とか言ってますよ。御用の旦那、これは、重症ですな。断罪にしてくださいよ。」
「心得ておる。国元に連れていき、しかるべき措置をしたのち、断罪に処しよう。」
こうして、竜真は異教徒の犯罪者として捕まった。