72バランタインの街中にて
魔女に魔術のことを一通り聞いたあとは、宿屋ブルーに戻ることにする。
久しぶりのバランタインだ。
街には花が至る所に花が飾られ、レストランのテラスや、広場では、様々な人たちが音楽を奏でている。
これぞ、バランタインの姿だ。
竜真たちは街の広場にでる。
この広場も花が植えられ、周りでは多数の音楽家たちが音楽を奏でていた。
気になったのは、他の広場よりも人が集まっている気がしたが、気のせいか。
ふと、竜真は広場にいる人たちに声をかけてみた。
「あの、この広場でなにかイベントでもあるのですか?」
「うん?あぁ、噂なんだがな、モルト様がこの広場で演説をするらしいんだよ。なんだか、すごいことを発表するそうだぜ。バランタインが海戦で、敗戦したって話じゃねえか。多分よ、それがらみだと思うんだがな。」
モルトが街頭演説だと?
モルトは、今回の海戦で、重要な要職にあった人物だ。話を聞かないわけがないだろう。
「そうだな。すこし休憩しながら、待ってみるか。」
「そうね、あそこのカフェで休憩しない?」
葵の提案で、広場の隅にあるカフェのテラスでしばらく休憩することになった。
ちょうど、音楽家たちがクラシックの音楽や、バンドのような軽音楽を奏でており、音楽鑑賞をかねての休憩だ。
音楽鑑賞しながら、ちょっとしたコーヒーなどを味わう。葵は甘いものが好きなのか、デザートを頬ばっていた。なんとも平和な休日のひと時、そんな感じの時間だった。
「あれ?音楽が・・・」
最初に気づいたのは葵だった。
ふと気づいたとき、広場に流れている音楽が止まっていた。
広場にはあふれんばかりの多くの人だかりが出来ていた。
しばらく待つと、その人だかりの奥のほうからは、キャー、というような歓声が、広場の縁からステージの演台の方へ移動していくのがよく見えた。
モルトだろう。おそらく、あの奥をモルトが歩いているのだ。
モルトはステージの演台の上に立つと、広場からは一層の歓声が聞こえてきた。
モルトは、この海戦における重要関係者、バランタインの作戦を指揮した人物。
だが、バランタインの一般市民たちは何も知らない。一般の民たちはモルトの手の中で踊らされているだけ。
モルトは相変わらずの、豪華な衣装だ。高級そうな白地に金ピカの装飾をあしらった服。いつも変わりない。
モルトが演台に立ち、手を挙げると、やがて広場に集まった人だかりからの歓声は落ち着いた。