71魔術の話
ガーデンで魔術のことを調べるのであれば、第一に考えるのが魔導図書館だろう。
先の海戦で利用された魔術は、おそらく禁書庫にある気がする。
それよりかは、葵が「おばあちゃん」と呼ぶあの魔女、ローゼズ女史に聞いた方が早いということで、ガーデン地下にある魔女の居室に来たのだ。
「くっくっくっくっ。」
フォア=ローゼズ女史、バンランタイン最高の魔術師だ。相変わらずの、黒いローブに怪しい帽子、曲がった腰に、杖、いかにも魔女で、キャラがぶれてない。
何かの怪しい研究をしているのか。緑色の液体をぐつぐつと煮ているところだった。
葵は魔女とは仲がいい。何せ、魔女をおばあちゃんと呼んでるぐらいだ。
「あの、ローゼズさん、教えてくれませんか?プレディクションと呼ばれる魔術に聞き覚えがありませんか?」
『プレディクション』、海戦のときに、ダニエルが言っていた魔術、ずっと気になっていた。
「 くっくっくっ、プレディクション、完全予見の魔術じゃな。」
「完全予見?」
「くッくッくッくッ、そうじゃの。手を出せ。」
「えっ、こうですか?」
竜真は手を差し伸べた。
パン!
魔女は竜真の手を思いっきりはたいた。竜真は思わず手をひっこめる。
「痛っ!何するんですか?」
「お主、なぜ手を引いた。」
「えっ、それは、あなたがを手を叩いたからですよ。」
「それは、あまりにも不正確で魔術学的ではないの。手をはたくという動作により、お主の痛覚を通じて脳で痛みを感じ、脳で脳内物質が放出され、手をひっこめる電気信号を神経を通じて出したのじゃ。」
「えっ。」
「では、聞く。手の引き方にもいろいろあるだろうに、なぜ、その軌道、その動きで手を引こめたのだ?。」
「えぇ。そ、それは・・・それが最短の動きだから?」
「先の回答に比べれば魔術学的だが、違うな。軌道を決めるのはお主の骨格、筋肉、そして、その時の姿勢で、腕の可動範囲は決まる。なぜ、その動きになったか。それは脳から腕へと通じる神経に信号が流れたからだ。では、次の質問だ。お主の脳はなぜ信号を神経に流した?」
「ええぇ、それは・・・脳が痛いと感じたから。」
「そう、人には五感がある。その五感を元に脳は動く。脳の最も複雑な回路、これが非常に難しい。だが、脳とて所詮は物質。たとえ人の意志が介在しようとも、脳の構造さえ決まれば、どのように脳内物質が放出されるか一意に決まる。そして、その信号の原点は、腕からの痛点。儂がお主の腕をハタいたときの、当たり方、当たった範囲、強さ、それら腕にある痛点の細胞に影響し、そこから発生する信号のパターンが決まる。さすれば、お主がどのような動きを成すか、計算することは可能であろう。」
「それは、偶然?では??」
「この世のすべては偶然ではない。必然だ。偶然と考えられるものですら、原因を追求すれば、理由はある。それを追求すれば、細胞の配置、神経信号の流れ、はたまた、原子構造などの細密な物にまでたどり着くだろう。それらを理解すれば、何がどう動くかの予測はできる。それこそが、完全予測と呼ばれる禁術プレディクションよ。」
「か、仮に出来ても、そんな予測、できるわけがない。」
「そうじゃ。仮に細胞の分布がわかったとして、細胞の数の分だけ予測が必要。原子構造があるならば、その原子の数だけ予測が必要。とてつもない『気』が必要になるのじゃ。だからこそ、禁術じゃ。人一人に発現などできるわけがない。仮に万単位の魔術師が集団で気を錬成させて魔術を発現したとて、完全予測できるのは刹那の瞬間であろう。それほどまでにこの魔術は難しいのじゃ。」
「・・・。」
「じゃがな、仮に人の動きを予見したとしよう。周囲の地面、空気の構造も把握できたとしよう。人が動けば、空気が動く。完全予見が出来れば、その空気の流れすら予見できる。その空気の流れは風となり落ち葉を飛ばす。完全予見ができれば、落ち葉の動きが予見できる。落ち葉はその場にいる人の五感に作用し、人の脳へ作用することで、人の意志すら予見できる。そして、その人の動きが予見できれば、また、周囲に空気の流れに作用する。さすれば、連鎖的に予見ができるのじゃ。つまり、完全予見ができればの・・・未来が見える・・・のじゃよ。『未来予知』じゃ。まぁ、あくまでも魔術学的な理論の話じゃ。その場にあるもの、空気、落ち葉、その場の人、そういった物体を成すのすべて細胞、原子を分析できるほどの気が必要とするのじゃ。わかるか、この必要とする気の量が。実戦できた者なぞ、聞いたことがなければ、古文書にも載ってないわい。まぁ、それこそが、完全予見と呼ばれる禁術、プレディクションじゃな。」
「・・・。」
未来予知、なんと魅力的な言葉だろう。
未来が見えるのだ。
ロマンを感じずにはいられない。
「ねぇ、おばあちゃん、魔導砲についても知らない?」
葵が魔女に聞いたのは、先の大海戦でダニエルが放った魔導砲のことだ。大海戦前にもモルトがパーティ会場でデモンストレーションをしていた。
「ふむ。あれは波動砲よ。通常、魔術を発動する場合、気を錬成し、片手へ気を集中することで魔術を放出するからの、放出できる気の量は片手分しかないのじゃ。しかも、周囲に壁などないと、あらゆる方向へ散ってしまう。それを対策した魔術が、波動砲じゃ。波動砲では、通常、両手で気を放出する。両手を重ね合わせ、重ね合わせた手首付近を中心に気を集中させ、大容量の気を一気に放出する。そして、手のひらで、放出する方向に向けることで、気が四散するのを防ぎ、指向性を持たせることできる。これで、大容量の気を一気に特定の方向へ密度高く放出することができるじゃろ。これが、波動砲の基本形よ。そして、モルトがやった魔導砲というのは、これを集団化させた魔術よ。基本的な考えは変わらん。大人数で放出する気の量を増大させて、指向性を持たせたということじゃ。」
葵は目を輝かせている。
「おばあちゃん、あたし、今度、その波動砲、やってみる!」
「よい、よい。魔術というのは便利なものじゃ。じゃがな、魔術もいいところだけではない。注意しなければ自滅しかねないぞ。例えば、空間転移の魔術。成功すれば問題ないが、失敗すればどこに転移するのか全くの不明じゃ。体の一部だけが転移しようものならば最悪ぞ。」
「うん、おばあちゃん、ありがとう。」
さすが、というべきか、フォア=ローゼズ女史、バランタイン最高の魔術師だ。魔女の話は非常にためになった。




