70帰港
「おい、聞いたか、あのバランタインが敗戦したと。」
「沖合に、バランタインのボロボロの軍艦が停泊してるらしいぞ。」
「相手はなんでも、未開の土地の西国らしいぞ。」
バランタインの港町は騒めいていた。何せ、バランタインの港の沖合に、惨敗したと噂されたバランタインの艦隊が現われたからだ。
その様子は、ボロボロ、海戦の前は立派な大砲も備わっていたのに、目に見える部分はすべてズタボロだった。
その光景は、噂を呼び、バランタインの人々に不安をもたらした。
バランタインといえば、世界でも最強ともいわれる軍隊だ。バランタインが敗戦するという事実などは、過去の歴史を振り返っても一度どもない。
ボロボロとなったバランタインの艦艇が現われたとあれば、皆、不安になる。
―――
「まさか、ボロボロの艦艇が沖合に停泊していると聞いたが、お前たちか。惨敗したと聞いたから、死んだかと思ってたがな。」
ここはガーデン地下のいつもの薄暗いランプの部屋。
竜真と葵はここで戦時の状況を調査されていた。
「ちょっと、勝手に殺さないでください。グレンさん、あなたの部隊ですよ。そう簡単には死にませんて。それよりも、もっと気の利いたあいさつがあるんじゃないですか?」
「あぁ、そうだな・・・。よくぞ生きて帰ってきた。」
ここで、グレンと竜真が手を交わした。
グレンは竜真の横にいる葵に焦点をうつす。
「魔術マニアの娘も元気だな。」
「な、魔術マニア・・・。」
「すまん、すまん、ローゼズ女史も喜ぶだろう。」
「えぇ、おばあちゃんにはいろいろ聞きたい魔術があるのよね。」
ローゼズ女史と聞いて、うん?、となった竜真だが、葵がおばあちゃんと言って納得がいった。
あの魔女の本名のことだろう。
「とりあえず、あの海戦で何があったか、話してもらおうか。」
竜真が当時の状況を話す。
初戦はバランタイン側の艦隊が優勢だったが、大京国の兵士たちの狂気に走った様子に北艦隊が壊滅、南艦隊での海戦になって大京国側にすごい者が現われたという話をしたところで、ふと、竜真は気づいた。
これでも竜真は大京国側の人間なのだ。天音のことをばらしてしまって問題ないだろうか、という思いが頭をよぎる。
(おい、葵・・・)
竜真は小声で葵を呼び、葵のほうを向き、アイコンタクトを取る。が・・・
まったく出番のない葵はというと・・・立ちながらに寝ていた・・・。しかも、よだれをたらすな。
グレンとの話題は、話の核心となる誰がバランタイン艦隊を壊滅させたか、になる。それは、他ならなぬ竜真自身なのだが、本人に記憶も曖昧なことを利用し、「大京国のすごい者」のせいにしてしまった。
天音さん、ごめん。
「なるほど、わかった。とりあえずは以上だな。とりえずは解散だ。」
その後の生活は、今までのガーデンでの生活に戻った。
とは言っても、あの海戦で使われていた魔術が気になっていた。
モルトがデモンストレーションで見せた『魔導砲』、ダニエルが言っていた『プレディクション』。
魔術マニアの葵と一緒に、その魔術を調べてみることにしたのだ。