69モルトの部屋にて
ドン!ズドン!という音がする。
「あのクソ猿どもが。ありえん。」
机を叩き、壁を蹴るのはモルトだ。
ガーデンと呼ばれる白い城、城下を見渡せる一角にモルトの執務室は聳えている。
その部屋に、八つ当たりするのはモルトと他に、数人の男と老婆が部屋にいた。
今回の侵略を企画立案したのもすべてモルトだった。
この時代において、まともな通信手段というものはない。
モルトが敗戦の情報を手に入れたのも、海戦が終わって数日が経過してからだ。
そもそも、敗戦するなど考えてもいなかったので、結果を聞くまでもないと、考えていたようだ。
他の船から、バランタインが敗戦したという情報を聞き、まさかと思いながらも、通信魔術の使える魔術師を乗せた調査船団を出して、はじめて知り得た情報だ。
「その情報は間違いないのだな。」
「はっ、間違いありません。現場の海洋には、現場海域から捜索範囲を広げましたが、バランタインの艦艇は見つらず。海中を捜索したところ、バランタインの艦隊の沈没船が多数発見されています。」
モルトの中に、バランタインが敗戦するという考えはまったくなかった。魔術という戦力を持つ国が、魔術を持たぬ野蛮な国に敗戦した。と、バランタインの上層部の者たちはそう捉えるだろう。
バランタインは建前上は共和制を敷いており、モルトは民から絶大な信頼を得て、代表として選ばれている。モルトは、自身がバランタインに属するものでありながらも、これまでのバランタインを批判することで、民の心を見事につかみ、絶大な信頼を得た。
だが、これはバランタインの貴族の信頼を得ているからだ。貴族の信頼が得られなければ、これまでの根底が崩れる可能性がある。
それよりも、バランタインという世界最強と思われていた軍隊への信頼が揺らぐのだ。
そして、その責任はモルトに突きつけられる。
「さて、モルト君、知っての通り、我がバランタインは世界最強の軍隊として認知されている。それが、西国の未開の野蛮人に負けた、という噂がすでに広まっている。当然、わかっていると思うが、このまま放置するわけにはいかない。そこで、モルト君がどのように考えているのかお聞かせいただきたい。」
その様に話すのは立派な服を来た初老の男。バランタインの軍部総帥である。
「総帥殿、負けた、というのは所詮は噂ですよ。キミ、一つ聞くが、現場海域には大京国の残骸も多数あったのだろ?」
モルトが、キミと名指すのは、まさにこの海戦の敗戦を報告してきた兵だ。現場海域の調査を結果を通信魔術で傍受する魔術師だ。
「はい、その通りです。現場海域には大京国の艦隊の残骸も多数あるとのことです。」
「総帥殿、まだ敗戦してはおりませんよ。戦中のよくない情報だけが、尾ひれを付けて噂になっただけのことですよ。西国のサルを舐めていたら、意外とやりおるサルだったというだけのことです。」
「そう、話をこじつけるのは構わないが、勝利の算段はあるのだろうな。」
「我がバランタイン、先代のころより魔術を研究を仰せつかっており、時間は立ちましたが、禁術とされていた古代魔術の解明が進んでおります。今こそ、その成果をお見せするときでしょう。我が大魔術にて一撃で滅ぼしましょう・・・。おい、あれの解明ができたのだろ?出番が来たぞ。」
モルトが「おい」と呼んだ相手、その顔は魔術師という雰囲気を醸しだしている。モルトの部下には、古代魔術の復興を目指し、日々魔術の研究を進めている研究部隊が存在する。
「モルト様、確かに解明は完了してますが、あれは、実用に耐えられるものかどうか、時間が必要です。」
「ふん、構わん。この際、サル相手に、実用に耐えられるかどうか、実戦で実験をすればよい。どうせ、消し去る国だ。おもっいきり、魔力を込めて放てばよいだろう・・・。総帥殿、一つお見せしたい古代魔術がございます。国を抹消すらできる脅威の魔術です。これで、大京国を地図から抹消してご覧にいれましょう。」
「そうか、算段はあるんだな。貴族たちへの情報操作は何とかなるが、二度も失敗すると、取り返しがつかん。」
「どうか、お任せください。遠征の将として、見事、猿どもを滅ぼして見せます。」