68戦いの終わり
その艦艇の甲板上に二人の男女が倒れながら会話をしていた。
「ねぇ、竜真生きてる?」
「あぁ、なんか生きているようだ。治癒魔術かけてくれたのか?」
「えぇ、でも、あたしも限界。全部は治療できてないと思う。」
「すまん。葵も怪我してただろ?」
「大丈夫。最低限の治療はなんとかしたけど。限界だわ。無理ね。」
「そうか、なぁ、うちらは勝ったんだよな?」
「あたしもよくわからない。もし、負けだったら、これで終わりね。」
「葵は動けるか?」
「うーん、無理ね、立てないわ。でも、これならいけそう。」
葵は体をくねくねさせながら、竜真の横に寄り添った。
太陽は沈みかけ、やや肌寒くなっている。すぐ横に葵が来てくれたことで、温もりを感じることができた。
互いに、血生ぐさい臭いが漂っていたが、葵がすぐ横に寄り添うと、ちょっとだけいい匂いが残った。
「おい、ちょっと。」
「なに、嫌なの?」
「別に嫌じゃないけど。」
そういうと、竜真は手で葵の体をぐっとそばに寄せた。より一層、温もりが感じられ、血生ぐさい臭いもちょっとだけいい匂いが強くなる。
竜真と葵は、互いに顔を見つめた。
「ぷっ、すごい顔だな。」
「なによ、あんただって。」
竜真と葵は、つい先ほどまで死闘をしていたのだ。互いの顔は血なのか泥なのか、めちゃくちゃに汚れていた。
「ありがと。葵がいなかったら、助からなかったよ。」
「なによ。急に。こちらも、そ、その、あ、ありがと。竜真いなかったら死んでたかも。」
「なぁ、今日はも動けないだろ。少し寒いけど、ここで一晩を過ごして、体力の回復を待つか。」
「でも、寒くない?」
「しょうがないな。」
竜真は、葵の体をもっと強く寄せた。その後、二人の間には会話はなかった。
ただ、二人は互いに顔を見つめあっている。
しばらく見つめあった後、二人の顔は徐々に近づいていく。
と、それを別のところから見ている人物がいた。
「・・・。」
天音だった。無言で無表情のまま、その様子を見ていた。
「なっ!」「なっ!」
二人とも、急いで体を起こそうとするが、体力の限界に着ていて、動けない。
「ちょっ、違います。というか、今までどこで何やっていたんですか?」
「・・・攻撃を回避してました。」
さすが、天音さん、回答がシンプルでよい。
天音さんは続ける。
「大京国へ戻ります。」
おそらく、その意味は一緒に戻りなさい、という意味なのだろう。
それは、宿屋ブルーのご主人様にも、大京国へ戻れと、言われていたこと。
けども、竜真には、一つの決心が出来ていた。
「俺は、バランタインに戻ろうと思います。」
「・・・。」
「あんな強力な魔術を見せられたんです。今戻っても、勝てません。だから、それを超える力を手に入れるまでは残ろうと思うんです。」
「あたしも、残るわよ。まだまだ、勉強不足だった。まだまだ知りたい魔術が、この国にはあるの。」
天音は何も言わず、こちらを見続ける。
「・・・そう、ですか。」
と天音は一言だけ言って姿を消してしまった。天音は言葉数が少なすぎて、よくわからない。
気が付けば、天頂には星が見えるような時間になっていた。
じっと見ていると、ゆっくりの星が動いているのが、なんとなくわかる気がする。
葵がぼそっと話をした。
「なんかすごいことになっちゃたね。」
「そうだな。」
「ねぇ、昔さ、『武士として、士族の誇りとして、最高の高みを目指したい。』とか言っていたじゃない。」
「いや、あれは、その、あれさ、ほら、単に強くなりたいというか・・・。」
竜真は急に顔を赤くする。
「別にいいよ。恥ずかしがらないで。あたし、そんな竜真がカッコいいと思うもん。」
「えっ。」
「あたしには剣術はないし・・・たまたま魔術の才能はあって、なんとなく魔術を身につけたいと思っているだけ。単に興味よ。そんなあたしに比べれば竜真は立派だよ。」
「・・・。」
「あたしさ、竜真についてきた良かったし。竜真と出会えて良かったと思ってる。」
「・・・。」
「これからも竜真をサポートしたい。ずっと竜真についていくよ。」
「えっ。」
「ごめん、何言っているんだろうね。何でもない。今日は疲れているし、もう寝よ。」
葵は、竜真の方へと身を寄せて、顔を竜真の体にうずめた。そして、手を強く握る。
竜真も手を強く握られるのがよくわかった。竜真もそっと葵の体を手を寄せてあげた。
ふと、天頂を見上げると、星が輝いていた。そこに一筋の大きな流れ星が流れた。